Q3-2. 糖尿病治療薬の処方監査・調剤において、禁忌、慎重投与、用法用量の妥当性、副作用について注意すべきポイントを教えてほしい。

Q3-2. 糖尿病治療薬の処方監査・調剤において、禁忌、慎重投与、用法用量の妥当性、副作用について注意すべきポイントを教えてほしい。

<血糖降下薬が処方されている場合>

  • 経口血糖降下薬は作用機序別に多種存在している。患者の高血糖の要因を把握した上で、処方された経口血糖降下薬が当該患者の血糖管理に適切な医薬品かどうか確認する。
  • 患者にとって血糖降下薬が初めて処方されている場合、低血糖に注意する必要があるため、一般に少量から開始されることに留意する。
  • 患者の腎機能、肝機能、心血管機能を踏まえ、表3を参照して治療薬の変更や用量調整が必要ないか確認する5)。
  • 薬歴や血糖管理の状況を踏まえ、薬剤が漫然と投与されていないか、減薬・中止ができないか検討する1)。
  • SU 薬やグリニド薬は重症低血糖を引き起こしやすい。高齢者では重症低血糖による転倒・骨折のリスクが高くなっているため、特に重症低血糖の予防に留意が必要であり、年齢、認知機能、ADL を踏まえ適切な HbA1c の目標設定となっているか確認する。
  • SU 薬やグリニド薬、脱水に注意が必要なビグアナイド薬や SGLT2 阻害薬、消化器に作用するα-GI 薬は、 シックデイなどで食事量が減少した際に服用を中止する場合があるため、これらの製剤を含む処方に対して一包化指示があった場合は、その調節方法について医師に確認する。
  • グリニド薬と SU 薬は併用禁忌であるため、併用されている場合には医師に疑義照会する。
  • 経口セマグルチド錠(リベルサス®錠)は吸湿性が強く PTP シートで防湿しているため、原則としてミシン目以外の場所で切り離したり、縦に切ったりしない。吸湿性の観点からは奇数錠となる調剤日数は推奨されない。奇数錠となる日数で処方されている場合は、処方医に製剤上の理由を説明して適正使用情報についての情報提供を行い、処方日数を偶数に変更可能かできる限り照会する。やむを得ず調剤時の端数調整で切る必要がある場合には、 PTP シートのポケット部分 (錠剤が入っている隙間)を破損しないようにする。 また、吸湿性の観点に加え、吸収性を上げるため他の薬剤と一緒に服用することができないことから、一包化は適切ではない。
  • 経口セマグルチド錠は 3mg、7mg、14mg の規格があるが、14mg 錠が処方されている場合に 7mg 錠2錠で代用することはできない。 本剤にはペプチドであるセマグルチドをモノマー化させ吸収させやすくするとともに胃内での酵素分解を防ぐため局所的に pH を上げる吸収促進剤が含まれており、1錠で服用したときに適切に作用するよう設計されているため、複数錠に分割して服用すると吸収が低下することが知られている。

<インスリン製剤が処方されている場合>

  • インスリン製剤には多くの種類があり、患者に最も適した製剤を適切な方法・適切なタイミングで注射することにより、高い治療効果を発揮する1)ことを踏まえ、患者の病態や生活環境に照らし、適切な製剤が選択されているか、投与指示が適切か、継続して実施可能な状況にあるかを確認する。
  • 小児期の患者においては、成長に応じたインスリン量の調整を考慮する必要がある。
  • 薬歴等を踏まえ、製剤の変更がないか確認する。ある場合は、患者に、医師から切り替えをどのように行うか聞いているか確認し、不明瞭である場合には医師に切り替え方法を確認する必要がある。
  • 残薬が多い場合は、インスリン注射手技の問題があれば補助具の使用を検討する、注射回数が多いことが問題であれば投与回数が少ない製剤への変更を検討するなど、その原因を踏まえて対応する(Q4-14 参照)
  • 認知・身体機能や操作手技等を踏まえ、必要に応じ補助具の導入を検討する(Q4-10 参照)。
  • 調剤の際は、インスリン製剤には種類や規格違いが多数あることを踏まえ、販売名、製剤区分マーク等、識別可能な特徴を押さえた上でよく確認する。(Q3-3, Q4-9 参照)
 

<合併症・併存疾患を踏まえて>

  • 糖尿病に罹患している患者には腎症の合併症に罹患している患者や多剤併用の患者、高齢者が多く、他科受診によるポリファーマシー、薬の重複や相互作用、ADL の低下、認知機能の低下、嚥下障害、フレイルなどに注意が必要である。糖尿病薬の多剤併用時には相互作用による副作用の増強などのリスクが高まるため副作用が生じていないことを確認する。 副作用が生じた場合は、減量したり、併用を取りやめるなど慎重に対応する必要がある。

○腎機能障害がある患者

  • 重篤な腎機能障害がある患者にはビグアナイド薬、SU 薬、チアゾリジン薬、腎排泄型のグリニド薬(ナテグリニド)は投与禁忌であることに注意して、処方監査を行う。
  • SU 薬や SGLT2 阻害薬は、腎障害の患者では遷延性低血糖(糖分等の摂取により一旦は血糖値が上昇するが、30 分程度で再び低血糖となること)を引き起こしやすく、特に高齢者では問題になることが多いため、これらの薬剤の処方では、低血糖時の対処法やブドウ糖摂取など低血糖に関する知識の再確認が必要である。
  • ビグアナイド薬は、腎機能低下度に応じた最高用量の目安が設定されているため、 eGFR 値を確認し、腎機能低下に応じて用量を適切に調整する。
 

○肝機能障害がある患者

  • 重篤な肝機能障害がある患者には、ビグアナイド薬、SU 薬、チアゾリジン薬は投与禁忌であることに注意して、処方監査を行う。
 

○心血管系障害がある患者

  • 心不全がある患者にはチアゾリジン薬、ビグアナイド薬は禁忌であることに注意して処方監査を行う。
  • 肺動脈性高血圧治療薬のボセンタンは、グリベンクラミドとの併用時に胆汁酸塩の排泄を阻害し、肝機能障害を起こすことがあるため、 グリベンクラミドと併用禁忌となっている。
  • SGLT2 阻害薬は、心不全の抑制効果があり、循環器科などでも処方されることがあるため、重複に注意する。
  • メトホルミンとオルメサルタンを一包化調剤し、高温・高湿度条件下で保管すると色調変化を起こすことがある。原則、一包化調剤は避ける。
 

○その他

  • チアゾリジン薬は、閉経後の女性では骨折のリスクが高まるため、加齢に従って投与の継続について再検討する必要がある。
  • 非定型抗精神病薬は血糖値を上昇させる可能性があるため、医師への血糖上昇の情報提供と血糖推移について報告するなど注意が必要である。特にオランザピン、クエチアピンでは糖尿病患者は投与禁忌となっている。
  • 副腎皮質ホルモンは血糖上昇作用があるため、併用時には、その作用を踏まえた糖尿病薬の調整 (食事・運動療法のみの場合はα-GI を追加する、血糖降下薬で効果が十分に得られない場合はインスリン療法を行う等)が必要となる。
  • ヨード造影剤により、ビグアナイド薬の排泄が遅れ、乳酸アシドーシスなどの副作用が現れる可能性があるため、造影剤使用時はビグアナイド薬を中止する必要がある。