抗SARS-CoV-2薬 相互作用
抗SARS-CoV-2薬の薬物相互作用について
エンシトレルビル
(ゾコーバ )
エンシトレルビルは、強い CYP3A 阻害薬であり、多くの基質薬と相互作用を引き起こす可能性があります。添付文書には、多くの併用禁忌や併用注意が記載されています。
添付文書まとめ
(表の見方の説明)デフォルトでは10個のみ表示しているので、「さらに読み込む」をクリックすると、さらに表示されます。また、表のタブをクリックすることで表示を切り替えることができます。
しかし、本剤は、緊急承認された薬剤であることから、薬物相互作用に関する実際の臨床試験の情報はまだ極めて少ないです。
注意すべき薬 PKの特徴からの予測
○ CYP3A4基質
エンシトレルビルは、強い CYP3A 阻害薬であるため、CYP3A4 基質薬との相互作用により、基質薬の血中濃度が上昇する可能性があります。既知の CYP3A4 の基質薬剤の中にも、添付文書に相互作用の注意書きがない薬剤があります。この中でも、特に中枢神経系に作用する薬剤や治療血中濃度域が狭い薬剤には、注意を払う必要があると考えられます。
下表の「CYP3A4基質」タブには、CYP3A 基質薬のうち、添付文書に併用の注意記載がないものを掲載しています。
○ 要注意薬
医療薬学会が作成した手引きでは、添付文書で指摘されている薬物以外に、論文で指摘されている薬物や委員会で注意が必要と判断した薬物が公開されています。
特に、CYP3A 寄与率(CRCYP3A)が 0.8 以上である薬物は、代謝阻害作用による血中濃度上昇度が大きくなるため注意が必要です。(表中には「CR>0.8」と記載)
下表の「要注意薬」タブには、要注意薬のうち、添付文書に併用の注意記載がないものを掲載しています。
CR-IR 法による血濃度変化の予測
○ 血中濃度変化
併用注意薬のうちで CR が0.8以上の薬物や、要注意薬でも CR が0.8以上の薬物には特に注意を払うべきと考えられます。
代謝酵素を介した相互作用による血中濃度変化を予測する方法の一つに、CR-IR法があります。薬物相互作用による併用薬の血中濃度変化について、単独投与時を1としたときのAUC比として算出しました。(この方法では、CYP3Aでの相互作用による血中濃度変化のみを予測しています)
併用注意薬や要注意薬でも、CRが高い薬物は、エンシトレルビルとの併用により、併用薬の AUC が5倍以上に増加すると推算できる薬物もあります。
他方、例えば、ロスバスタチンは併用注意薬ですが、ロスバスタチンのクリアランスにおけるCYP3Aの寄与度が0.02と極めて低いため、CYP3Aを介した薬物相互作用による血中濃度変化は、極めて軽度と予想できます。
注意:相互作用の機序が、エンシトレルビルによる CYP3A 阻害作用の場合は、表中の血中濃度予測は当てはまらない(他の原因で血中濃度が変動する可能性があることに注意)
(注釈)cCR, calculated CR (calculated contribution ratio) 添付文書等の薬物相互作用の定量評価をもとに、自分で計算した CR
エンシトレルビルのDDI簡易予測2025/3/3 8:022025/3/3 8:05○ 相互作用まとめ
添付文書に記載がある薬物と要注意薬を、薬効群類ごとに記載しました。
凡例)表中の記載
要注意薬
医療薬学会の手引きに、「その他注意を要する薬物」として記載されている薬物
CR>0.8
医療薬学会の手引きに、CR0.8以上と記載されている薬物
クリアランスに占める代謝酵素の寄与度が高いため、薬物相互作用により血中濃度変化が大きく、注意が必要
ニルマトレルビル・リトナビル
(パキロビッドパック )
作用機序
- ニルマトレルビル:
- SARS-CoV-2のメインプロテアーゼを阻害し(IC50=19.2nmol/L)、ポリタンパク質の切断を阻止することで、ウイルス複製を抑制する
- リトナビル:
- ニルマトレルビルのCYP3Aによる代謝を阻害し、血漿中濃度を増加させる
- 検討した最高濃度(3μmol/L)までSARS-CoV-2に対して抗ウイルス活性を示さなかった
PK
- ニルマトレルビル
- 代謝:CYP3A4で代謝される
- 相互作用:in vitro 試験で、P-gpの基質であり、CYP3A4を可逆的及び時間依存的に阻害し、P-gpを阻害する
- リトナビル
- 代謝:主にCYP3A及びCYP2D6で代謝される
- 相互作用:CYP3Aと特に強い親和性を示し、CYP3Aで酸化される種々の併用薬剤の代謝を競合的に阻害する。グルクロン酸抱合を促進し、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19を誘導
○ CYP3A4基質
リトナビルは、強い CYP3A 阻害薬であるため、CYP3A 基質薬との相互作用により、基質薬の血中濃度が上昇する可能性があります。既知の CYP3A の基質薬剤の中にも、添付文書に相互作用の注意書きがない薬剤があります。この中でも、特に中枢神経系に作用する薬剤や治療血中濃度域が狭い薬剤には、注意を払う必要があると考えられます。
下表の「CYP3A4基質」タブには、CYP3A 基質薬のうち、添付文書に併用の注意記載がないものを掲載しています。
さらに、CYP3A への影響だけでなく、グルクロン酸抱合促進や、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19を誘導するなど、影響が多方面に渡るため、注意が必要です。
また、ニルマトレルビルも、CYP3A4やP-gpを阻害することが in vitro 試験で明らかになっています。
○ 要注意薬
医療薬学会が作成した手引きでは、添付文書で指摘されている薬物以外に、論文で指摘されている薬物や委員会で注意が必要と判断した薬物が公開されています。
特に、CYP3A 寄与率(CRCYP3A)が 0.8 以上である薬物は、代謝阻害作用による血中濃度上昇度が大きくなるため注意が必要です。(表中には「CR>0.8」と記載)
下表の「要注意薬」タブには、要注意薬のうち、添付文書に併用の注意記載がないものを掲載しています。
○ 血中濃度変化
CR-IR 法で予測できるのは代謝経路が単一経路の場合のみであり、本剤は多種の代謝酵素が関係するため、CR-IR 法では血中濃度予測できません。