頻尿・過活動膀胱治療薬
頻尿・過活動膀胱治療薬
(薬効群ごとの分類)
抗コリン薬(ムスカリン受容体拮抗薬)
膀胱平滑筋のムスカリン(M3)受容体を遮断することで、膀胱の過剰な収縮を抑制し、尿意切迫感や頻尿を改善します。
β₃アドレナリン受容体作動薬
膀胱排尿筋にあるβ₃受容体を刺激し、膀胱平滑筋を弛緩させることで貯留容量を増やし、頻尿・尿意切迫感を改善します。
抗コリン薬(ムスカリン受容体拮抗薬)
- 過活動膀胱
- 尿意切迫感を伴う頻尿
β₃アドレナリン受容体作動薬
- 過活動膀胱
- 抗コリン薬と併用する場合もある
抗コリン薬(ムスカリン受容体拮抗薬)
- 禁忌:緑内障狭隅角型、重症筋無力症、尿閉(前立腺肥大による尿閉傾向)など
- 主な副作用:口渇、便秘、視力ぼやけ、排尿困難
- 高齢者注意:抗コリン作用により認知機能低下や転倒リスクが増大することがある
β₃アドレナリン受容体作動薬
- 禁忌:重篤な肝障害、他の重度の心疾患との併用注意
- 主な副作用:高血圧、頭痛、動悸、尿路感染症(まれ)
- 相互作用:シメチジンや酢酸ドキシマイシンなどと併用で血中濃度上昇の可能性
抗コリン薬 vs β₃アドレナリン受容体作動薬
治療効果は同等だが、副作用の特徴が異なる。患者背景に応じて使い分ける
1. 有効性(Efficacy)
- 日中の排尿回数減少
両群ともベースラインからの平均的な排尿回数減少において有意差は認められず、同等の効果を示しています。
- 尿失禁エピソードの減少
両者ともに1日あたりの失禁回数を同程度に低減しました。
- 1回排尿量(voided volume)の増加
膀胱の蓄尿容量改善効果も抗コリン薬とmirabegronで差はなく、統計学的に同等でした。
- 服薬継続率(Adherence)
一般に副作用プロファイルの違いはあるものの、総じて両群ともに1年間の継続率に大きな差は報告されていません。
2. 安全性・忍容性(Safety & Tolerability)
項目 | 抗コリン薬 | β₃作動薬(mirabegron) |
口渇 | 約30–50%に発現(最も頻度が高い副作用) | まれ(1–4%) |
対策:水分補給、人工唾液 | ||
便秘 | 約10–25% | ごく低頻度 |
対策:食物繊維、運動、緩下薬 | ||
認知機能障害リスク | 特に高齢者でリスク上昇(脂溶性薬は要注意) | 中枢作用ほぼなし |
対策:第四級アンモニウム化合物選択、低用量開始 | ||
頭痛・めまい | 5–10%程度 | 8–12%程度(起立性低血圧や血圧変動によるものを含む) |
対策:就寝前投与、血圧フォロー | ||
高血圧 | ほとんどなし | 4–7%に軽度上昇 |
対策:投与前・投与中の血圧測定 | ||
尿閉/排尿困難 | まれ | まれ |
対策:排尿状況モニタリング | 対策:必要時減量・中止 |
※ 副作用データは各臨床試験の報告値の目安です。
3. 臨床的意義と選択のポイント
- 認知機能や抗コリン負荷が懸念される高齢者
- β₃作動薬(mirabegron)を第一選択、または抗コリン薬との併用療法で用量を低減する戦略。
- 速効性を重視
- 抗コリン薬(即時型オキシブチニンなど)は投与後速やかに効果が得られる点で有利。
- 長期使用・継続性
- 両者とも1日1回投与製剤があり、継続しやすい。副作用プロファイルからmirabegronがやや忍容性に優れるケースが多い。
- 血圧管理が必要な患者
- 心血管リスクが高い場合は、抗コリン薬もしくは血圧への影響が少ないβ₃作動薬(ビベグロンなど)を検討。
- 併用療法(Combination Therapy)
- 抗コリン薬単独で不十分な症例にmirabegronを追加することで、有効性を高めつつ抗コリン量を抑えられます。
まとめ:
抗コリン薬とβ₃作動薬は、過活動膀胱の改善効果(排尿回数、失禁回数、蓄尿容量増大)は同等である一方、副作用プロファイルが異なります。認知機能リスクや口渇・便秘に配慮する場合はβ₃作動薬が、速効性を優先する場合は抗コリン薬(即時型)を選択し、必要に応じて併用療法を検討することがガイドライン上でも推奨されています。