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SERM

薬効群

1. 定義

  • SERMは、組織依存的にエストロゲン受容体(ER)に対してアゴニスト(作用を促進)またはアンタゴニスト(作用を阻害)の働きを示す非ステロイド性化合物群。
  • 骨や心血管系ではERを活性化し、乳腺や子宮内膜ではERを抑制するなど、組織によって異なる選択的作用をもつ。
 

2. 作用機序

  • ERへの結合とリクルート
    • SERMはERに結合すると、ER-SERM複合体の構造をエストロゲン(E2)結合時とは異なる形に構造変化させる。
    • この構造変化により、ある組織では転写補助因子(coactivator)をリクルートし、別の組織では転写抑制因子(corepressor)をリクルートする。
  • 組織選択的転写制御
    • ERアゴニスト的に働き、骨芽細胞の分化促進や破骨細胞の抑制を介して骨吸収を低減し、骨密度を維持・増加させる。
    • 乳腺・子宮内膜ERアンタゴニスト的に働き、エストロゲン依存性の増殖シグナルを遮断し、腫瘍増殖や過形成を防ぐ
    • 心血管系エストロゲンに類似した血管拡張作用や脂質改善作用を示すことで、動脈硬化リスク低減に寄与する可能性がある。

3. 主な薬理作用

  • 骨作用(ERアゴニスト様)
    • 骨芽細胞 → 骨形成マーカー(ALP, P1NPなど)の上昇
    • 破骨細胞 → RANKL/OPGバランスの変化により骨吸収抑制
      • 骨粗鬆症における治療効果は「マイルド」
  • 乳腺/子宮内膜作用(ERアンタゴニスト様)
    • 乳腺細胞 → ER依存性増殖遺伝子の発現抑制
    • 子宮内膜 → エストロゲン誘導性増殖の阻害
  • 代謝・心血管作用
    • 血中LDL低下、HDLわずかに増加、TGへの影響は限定的
    • 血管壁における内皮機能改善(NO産生促進など)

4. 主な薬剤例

選択的エストロゲンモジュレーター
(Selective Estrogen Receptor Modulator)
  • 第1世代:タモキシフェン、トレミフェン・・・乳がん
  • 第2世代:ラロキシフェン・・・閉経後骨粗鬆症
  • 第3世代:バゼドキシフェン・・・閉経後骨粗鬆症
エストロゲン受容体に対して、一部ではアゴニストとして刺激し、一部はアンタゴニストとしてエストロゲン作用を阻害するため、「モジュレーター」と言われる。
 

5. 対象疾患

  • 閉経後骨粗鬆症(骨吸収抑制による骨折リスク軽減)
  • 乳がん術後/術前補助療法(ER陽性乳がんの増殖抑制)
  • 乳がん発症リスク低減(高リスク群の予防投与)
  • 子宮内膜がんリスク上昇を回避(タモキシフェン使用時)

6. 注意点・副作用

  • 血栓症リスク(静脈血栓塞栓症:VTE)
    • ラロキシフェン:閉経後女性でVTEリスク上昇報告あり。
    • タモキシフェン:肺血栓塞栓症や深部静脈血栓症のリスクが高まる。
    • 対策:既往にVTEリスク因子(肥満、慢性心不全、COPD、手術後高リスクなど)がある患者は慎重投与。必要時は抗凝固薬(低用量アスピリンなど)併用検討。
  • ホットフラッシュ・頻度増加
    • 体温調節中枢の閾値変動により、顔面潮紅や発汗を来すことがある。
    • 対策:生活指導(室温管理、衣服調整)、重症例ではSSRI/SNRIの併用を検討。
  • 子宮内膜増殖
    • タモキシフェンはERアゴニスト的に子宮内膜を増殖誘導し、子宮体がんリスクがやや上昇する。
    • 対策:定期的な子宮内膜厚測定、異常出血時は早期婦人科受診。
  • 骨密度の維持意外の副効果
    • ラロキシフェンではLDLコレステロール低下効果がある一方、血中TG上昇や血糖代謝への影響は軽度。
    • 対策:定期的な脂質・血糖モニタリング。必要時は脂質異常症治療薬との併用。

7. 類薬との使い分け

類薬群代表薬剤例主な特徴SERMとの使い分け基準・併用の検討
ビスホスホネート製剤アレンドロン酸、ミノドロン酸強力な骨吸収抑制→骨密度上昇効果が高い- 骨折ハイリスク(Tスコア<–2.5や既往骨折)には第一選択。- 消化器障害や腎機能低下例ではSERMを考慮。
デノスマブ(抗RANKL抗体)プロリア®6か月に1回皮下注で骨吸収抑制、腎機能低下例でも可- 継続投与後の反跳骨吸収リスクを考慮し、SERM併用で骨代謝バランスを維持可能。- 骨吸収抑制を補助的にSERM併用も検討。
カルシウム製剤・ビタミンD系カルシトリオール、エルデカルシトール骨基質へのカルシウム供給・骨芽細胞活性化など- 骨粗鬆症治療薬開始時に併用して骨代謝をサポート。- SERM単独での骨密度増加効果は穏やかなため、補助的使用が適切。
SERM内の使い分けラロキシフェン vs タモキシフェンラロキシフェンは骨作用優位、タモキシフェンは主に乳癌適応- 骨粗鬆症予防・治療:ラロキシフェンを選択。- ER陽性乳癌治療:タモキシフェンを選択(骨作用は副次的)。
  • SERMを第一選択とすべきケース
    • 閉経後骨粗鬆症で骨折リスク中等度以上かつ消化器耐性良好:骨吸収抑制を行いつつ、エストロゲン様心血管保護効果も期待できる。
    • 乳癌術後の骨粗鬆症予防・乳癌再発予防:ラロキシフェンは乳癌発症リスクを低減しながら骨密度維持が可能。
  • SERMを避ける・他剤優先すべきケース
    • VTEの既往・高リスク例:抗凝固治療歴や肥満、喫煙、高齢など血栓リスクが高い場合は他剤(ビスホスホネートやデノスマブ)を検討。
    • 子宮内膜がんリスクが高い例(肥満、異常子宮出血既往など):タモキシフェン使用は慎重。ラロキシフェンではリスクが低いが、子宮内膜モニタリングは必要。
 
ポイント: