コリンエステラーゼ阻害薬
コリンエステラーゼ阻害薬
コリンエステラーゼ阻害薬とは、シナプス間隙や細胞外に存在するコリンエステラーゼ(主にアセチルコリンエステラーゼ[AChE]およびブチリルコリンエステラーゼ[BuChE])を阻害し、アセチルコリン(ACh)の分解を抑制する薬物を指します。
結果として、コリン作動性神経伝達が亢進し、主に中枢神経系での記憶・認知機能の改善や、末梢神経筋接合部での神経伝達改善を目的に使用されます。
- 可逆性阻害
- アセチルコリンエステラーゼ(AChE)選択的阻害:薬物がAChEの活性中心に可逆的に結合し、ACh の加水分解を阻害する。
- ブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)への影響:一部のChE阻害薬はAChEのみならずBuChEも阻害し、AChの分解をさらに抑制する(例:リバスチグミン)。
- ACh濃度上昇と神経伝達亢進
- シナプス間隙におけるACh濃度が上昇し、コリン作動性受容体(ニコチン性およびムスカリン性)の刺激が増強される。
- 中枢では海馬や大脳皮質のAChシナプス伝達を強め、認知・記憶能を改善する。
- 中枢作用型・・・主に認知症治療薬
- 末梢では骨格筋接合部や自律神経節へのACh作用を増強し、筋力改善(重症筋無力症など)や消化管運動促進(術後麻痺性イレウスなど)に寄与する。
- 末梢作用型・・・ 主に筋無力症や消化管麻痺など
ChE阻害薬は、大きく「中枢作用型」と「末梢作用型」に分けられるほか、作用の可逆性や薬物動態の違いでさらに特徴付けられます。
- 中枢作用型 ChE阻害薬(主に認知症治療薬)
- 血液脳関門透過性:十分な脂溶性を持ち、脳内AChEを阻害することで認知機能改善を狙う。
- 作用の可逆性:多くは可逆的阻害剤であり、薬用量を調整すれば中止後も急激なACh過剰状態を回避できる。
- 選択性の差:
- ドネペジル:選択的AChE阻害。(BuChE阻害は弱い)
- リバスチグミン:AChEとBuChEの双方を阻害。
- ガランタミン:AChE阻害に加え、加えニコチン受容体刺激作用
認知機能の改善度
ChEI3剤の認知機能改善効果には有意な差がない
ADAS-cogスコア(認知機能指標)の改善幅:薬剤改善幅(プラセボ比)
| ドネペジル | +2.8点 |
| リバスチグミン | +3.9点 |
| ガランタミン | +2.5点 |
これらの差は統計的に有意ではない。
いずれも認知機能の低下を1年あたり約2か月遅らせる効果が同等
表1|Alzheimer型認知症治療薬の特徴
出典:認知症疾患診療ガイドライン2017
| 項目 | ドネペジル | ガランタミン | リバスチグミン | メマンチン |
| 分類 | ピペリジン系 | アルカロイド系 | カルバメート系 | アダマンタン誘導体 |
| 作用機序 | AChE 阻害 | AChE 阻害<br>nAChR アロステリック増強作用 | AChE 阻害/BuChE 阻害 | NMDA 受容体拮抗 |
| 適用 | ①軽〜中等度 5 mg ②重度 10 mg | 軽〜中等度 24 mg | 軽〜中等度 18 mg | 中等〜重度 20 mg |
| 用量 | ①3 mg (2 週) →5 mg ②5 mg (1 月) →10 mg | 8 mg (1 月) →16 mg (1 月) →24 mg | ①4.5 mg (1 月) →9 mg (1 月) →13.5 mg (1 月) →18 mg ②9 mg (1 月) →18 mg | 5 mg (1 週) →10 mg (1 週) →15 mg (1 週) →20 mg |
| 用法 | 1 日 1 回 | 1 日 2 回 | 1 日 1 回 パッチ剤 | 1 日 1 回 |
| 半減期 (時間) | 70〜80 | 5〜7 | 3.4 | 60〜80 |
| 最高濃度到達 (時間) | 3〜5 | 0.5〜1 | 8 | 1〜7 |
| 代謝 | 肝臓 CYP3A4、2D6 | 肝臓 CYP2D6、3A4 | 非 CYP | 腎排泄 |
- アルツハイマー型認知症
- コリンエステラーゼ阻害薬:軽度~中等度
- NMDA拮抗薬:中等度~高度
- その他の認知症(保険適用外の場合あり)
- 血管性認知症、レビー小体型認知症での併用使用例あり
ChE阻害薬はコリン作動性亢進によりさまざまな副作用が生じ得るため、使用前後に以下のような点に注意し、万が一発現した際には速やかに対処します。
- 消化器症状
- 発現例:悪心・嘔吐、食欲低下、腹部痙攣、下痢、腹痛など。
- 対策:
- 投与開始時は低用量(例:ドネペジル5mg/日、リバスチグミン4.5mg/日など)から開始し、2~4週間ごとに漸増していく。
- 食後投与を徹底し、内服時間を統一する。
- 軽度の場合は整腸薬(乳酸菌製剤など)を併用し経過観察。中等度以上は投与量減少あるいは増量停止を検討。
- 心血管系
- 発現例:徐脈、房室ブロック、狭心症増悪(心筋虚血)。
- 対策:
- 投与前に心電図検査を実施し、房室伝導障害や高度徐脈がないかを確認。
- 高齢者では徐脈が出現しやすいため、少量から開始して1~2週間ごとにモニター(脈拍チェック)。
- 徐脈が持続する場合は一度投与中止し、心電図再検査。必要に応じて循環器専門医に相談。
- 筋肉・呼吸器系
- 発現例:筋痙攣、筋肉痛、呼吸抑制(重症筋無力症で過量投与時)。
- 対策:
- 重症筋無力症患者では、効果が強すぎる場合には筋過緊張による呼吸筋疲弊が起こるおそれがあるため、漸増投与で適正量を見極める。
- 過量症状(呼吸困難、筋肉の硬直)がみられた場合、抗コリン薬(アトロピン)の静脈内投与を検討。
- 中枢神経系
- 発現例:不眠、めまい、頭痛、精神運動性興奮。
- 対策:
- 夜間の服用を避ける(通常、朝食後の服用を指導)。
- 不眠やせん妄傾向が強い場合は、一時的に投与量を減らすか、長時間作用型製剤への切り替えを検討(例:ドネペジル10mgへの漸増を見送る)。
- 呼吸器疾患の増悪
- 発現例:気管支ぜんそくやCOPD患者で気道分泌亢進や気管支痙攣を助長。
- 対策:
- 投与前に呼吸機能検査や既往歴を確認し、喘息コントロールが十分か確認。
- 喘鳴や呼吸困難が出現したら投与中止または減量し、呼吸器専門医に連携。
- 消化管穿孔・消化性潰瘍のリスク
- 発現例:過去に胃・十二指腸潰瘍歴があると、ACh過剰で胃酸分泌が促進され、穿孔や出血を来すことがある。
- 対策:
- ピロリ菌除菌やプロトンポンプ阻害薬(PPI)併用を検討。
- 既往歴に重大な潰瘍歴がある場合は慎重投与あるいは他系統薬(メマンチンなど)への変更を考慮。
- 相互作用
- 抗コリン薬との併用:抗コリン作用を持つ薬剤(例:抗精神病薬、三環系抗うつ薬、抗パーキンソン薬など)と併用するとChE阻害薬の効果が相殺される。
- β遮断薬・カルシウム拮抗薬との併用:徐脈が相乗的に増強される可能性。
- 対策:
- 併用薬のリストをあらかじめ確認し、必要あれば投与量調整や薬剤変更を検討。
- 投与開始後1~2週間は特に注意深くバイタルサインをモニタリング。
ChE阻害薬は同一クラス内でも薬理学的特性や副作用プロファイルが異なるため、患者背景や目的疾患に応じて使い分けを行います。以下に主なポイントを挙げます。
- 認知症治療薬の選択肢(ドネペジル vs リバスチグミン vs ガランタミン)
- ドネペジル(アリセプト®)
- AChE選択性が高く、BuChE阻害は弱い。
- 投与開始・増量が比較的簡便で1日1回服用。
- 消化器症状は比較的少なめだが、徐脈リスクがあるため心疾患既往患者は要注意。
- 第1選択薬として処方例が多い。
- リバスチグミン(イクセロン®/リバスタッチパッチ®)
- AChEおよびBuChEを阻害するため、ACh上昇幅が大きい分、認知機能改善効果が強いとの評価もある。
- 経口製剤では1日2回服用、貼付剤では1日1回貼付で徐放的に血中濃度を維持。
- 胃腸障害がやや強めの傾向にあり、皮膚貼付剤への切り替えで消化器症状は軽減される場合が多い。
- 消化器症状が強い・服薬アドヒアランスが乏しい高齢者には貼付剤が適するケースも多い。
- ガランタミン(レミニール®/レミニールSR®)
- AChE阻害に加え、ニコチン性受容体のアロステリック効果でACh受容体感受性を向上させる。
- 徐放製剤(SR)は1日1回投与が可能で、1日2回投与の即放製剤と比較して血中濃度変動が少なく副作用が軽減される。
- ガランタミンは精神刺激作用を併存するケースがあり、時に不眠やめまいが出やすい。消化器症状は中程度。
- 使い分けの検討ポイント
- 患者の副作用許容度:消化器症状が強い場合は貼付剤(リバスチグミン)や徐放製剤(ガランタミンSR)の選択を検討。
- 心疾患・徐脈リスク:徐脈や房室ブロック既往がある場合は、AChE選択性の高いドネペジルを低用量から試し、慎重にモニタリング。
- 服薬アドヒアランス:飲み忘れリスクが高い高齢者には、貼付剤や1日1回投与薬剤が適す。
- 認知機能低下程度:中等度以上でより強力にACh増加を図りたい場合は、BuChE阻害作用を併せ持つリバスチグミンを検討。
ポイント: