抗認知症薬
|薬効群
抗認知症薬(コリンエステラーゼ阻害薬)
アセチルコリンエステラーゼ(AChE)を阻害し、脳内のACh量を増加させることで認知機能の低下を遅らせるが、末梢でもAChが増加するため消化器症状が生じる。
- ドネペジル(アリセプト®)…AChE選択的阻害。最も広く使用される
- ガランタミン(レミニール®)…AChE阻害+ニコチン性ACh受容体のAPL作用
- リバスチグミン(リバスタッチ®、イクセロン®)…AChE+BuChE阻害。貼付剤
消化器症状の発現頻度:食欲不振・悪心・嘔吐・下痢が多く、投与開始初期および増量時に出現しやすい。継続投与により耐性が得られることが多いが、一度出現すると服薬拒否につながることがある。
メマンチン(メマリー®)はNMDA受容体拮抗薬であり、ChE阻害薬とは作用機序が異なる。消化器症状は比較的少ないが、食欲不振が見られることがある。
|作用機序
ChE阻害薬による食欲不振・消化器症状は、主に以下の機序で生じる。
(1) 末梢性コリン作用(主たる機序)
- ChE阻害により消化管のアセチルコリン(ACh)が増加する
- 増加したAChが消化管のムスカリンM₃受容体を刺激 → 腸管蠕動運動亢進・消化液分泌亢進
- → 悪心・嘔吐・下痢・腹痛・食欲不振
(2) 中枢性の影響
- 延髄の嘔吐中枢や化学受容器引金帯(CTZ)へのACh作用 → 中枢性嘔吐反射の刺激
(3) 迷走神経刺激
- ACh増加により迷走神経緊張が増強 → 徐脈・消化管運動変化
- 高齢者では徐脈によるめまい・倦怠感が食欲不振に関与することもある
消化器症状は投与開始日から1~2週間以内に出現することが多い。一度出現すると服薬拒否につながりやすいため、予防的な制吐薬の併用や漸増の徹底が重要。
|薬剤別の消化器症状の特徴
| 薬剤 | 剤形 | 消化器症状 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ドネペジル | 錠剤・OD錠・ドライシロップ・ゼリー | 比較的多い | 食欲不振・悪心が初期に目立つ。興奮・焦燥などのBPSD悪化にも注意 |
| ガランタミン | 錠剤・OD錠・液剤 | 比較的多い | 悪心・嘔吐が多い。ニコチン受容体APL作用によりBPSDに対して穏やかな効果 |
| リバスチグミン | 貼付剤 | やや少ない | 経皮吸収のため消化器症状は経口剤より少ないが、皮膚症状(紅斜・かゆみ)に注意 |
| メマンチン | 錠剤・OD錠・ドライシロップ | 少ない | NMDA受容体拮抗薬。ChE阻害作用なし。めまい・傾眠に注意 |
|対策
(1) 漸増投与の徹底
- 低用量から開始し、消化器症状の有無を確認しながら漸増する
- ドネペジル:3mg/日×1~2週間 → 5mg/日
- ガランタミン:8mg/日×4週間 → 16mg/日 → 24mg/日
- リバスチグミン:4.5mg/日×4週間 → 9mg/日 → 13.5mg/日 → 18mg/日
(2) 薬剤の変更
- 経口剤で消化器症状が強い場合 → リバスチグミン貼付剤への変更を検討(経皮吸収のため消化器症状が少ない)
- ChE阻害薬間の変更(例:ドネペジル → ガランタミン)
- 消化器症状が耐えられない場合 → メマンチン単剤への変更も検討
(3) 服薬タイミングの工夫
- 食後に服用することで悪心を軽減できる場合がある
- ドネペジルは1日1回投与のため、就寝前投与で日中の悪心を回避できる場合がある
(4) 制吐薬・消化管機能改善薬の併用
- 悪心が予想される場合、予防的にドンペリドンやモサプリドを併用することもある
- メトクロプラミドは錐体外路症状のリスクがあるため注意
(5) 食事の工夫
- 少量頻回食、消化の良い食品を選ぶ
- 好みの食品の提供、食事環境の整備
|アセスメント
薬剤性の消化器症状・食欲不振(抗認知症薬)を疑った場合、以下の項目を確認する。
(1) 時間的関連性
- ChE阻害薬の開始時期・増量時期と症状出現が一致するか?
- 投与開始後1~2週間以内の発症か?
- 減量・中止後に症状が改善したか?
- 継続投与で耐性が得られたか?
(2) 消化器症状の評価
- 食欲不振:程度・食事摂取量の変化
- 悪心・嘔吐:頻度・程度・出現タイミング
- 下痢:頻度・性状
- 腹痛:部位・程度
- 服薬拒否:消化器症状により服薬を拒否していないか
(3) 食事摂取の評価
- 食事摂取量の変化:悪心や食欲不振により食事量が減少していないか
- 体重の推移:意図しない体重減少がないか
- 脱水徴候:嘔吐・下痢による脱水の有無
- 低栄養のリスク:認知症患者はもともと低栄養リスクが高く、薬剤性の食欲不振でさらに悪化する
(4) 迷走神経刺激症状の確認
- 徐脈:安静時心拍数の低下(50回/分以下は要注意)
- めまい・失神:徐脈に伴う症状
- 発汗亢進:コリン作用による発汗
(5) BPSDへの影響
- 興奮・焦燥:ChE阻害薬による賦活作用でBPSDが悪化していないか
- 不眠:コリン作用による覚醒作用が不眠につながっていないか
- 介護への抵抗性が新たに出現していないか
(6) 他の原因の除外
- 認知症自体による食欲不振:認知症の進行による食行動障害(食べ方がわからない、食事への関心低下)との鑑別
- 消化器疾患の合併
- 他の薬剤による消化器症状
- うつ病・アパシーによる食欲低下
薬剤性を示唆する所見のまとめ
- ChE阻害薬の開始・増量と食欲不振・消化器症状の出現に時間的関連がある
- 悪心・食欲不振・下痢が主たる症状である
- 認知症自体による食行動障害ではなく、薬剤開始後に新たに出現した
- 徐脈などのコリン作用が併存している
- 減量・中止後に症状が改善した、または継続投与で耐性が得られた