PPI

薬効群

1. 定義と作用機序

PPI(Proton Pump Inhibitor)は、胃の壁細胞に存在するH⁺/K⁺-ATPase(プロトンポンプ)を阻害し、胃酸分泌を強力かつ持続的に抑制する薬剤群です。日本では処方薬のほか、一部がOTC(一般用医薬品)としても利用されています。
 

2. 作用機序

PPIは、胃酸分泌の最終段階であるプロトンポンプを不可逆的に阻害します。活性化されたPPIが壁細胞の酸性環境下でスルフェンアミドに変化し、プロトンポンプと共有結合してその機能を止めます。
 

3. 薬理作用ごとの特徴

薬理作用特徴
胃酸分泌抑制H2ブロッカーよりも強力・持続的な抑制効果
胃内pH上昇食後の胃内pHを4以上に維持しやすい
胃粘膜保護胃酸による自傷作用を防ぎ、潰瘍治癒を促進
 

4. 主な薬剤例

5. 対象疾患

  • 胃潰瘍、十二指腸潰瘍(NSAIDs起因を含む)
  • 逆流性食道炎(GERD)
  • ヘリコバクター・ピロリ除菌補助(3剤/4剤併用療法)
  • Zollinger-Ellison症候群
  • ストレス潰瘍予防(重症患者など)
 

6. 注意点・副作用

注意点・副作用内容対策
長期使用による低Mg血症、低Ca血症吸収阻害による定期的な電解質チェック、必要に応じて補充
感染症リスク(腸管感染、肺炎)胃酸抑制による防御低下必要最小限の期間で使用、感染兆候の早期発見
骨折リスク増加Ca吸収障害高齢者では骨粗鬆症対策を並行して実施
腎障害(間質性腎炎)稀だが重篤腎機能の定期評価、異常時中止
長期使用による萎縮性胃炎胃粘膜への慢性的影響内視鏡フォローアップ、適応の再確認
 

7. 類薬との使い分け

比較項目PPIH2ブロッカーP-CAB(例:ボノプラザン)
作用の強さ強い中等度非常に強い・持続的
効果発現遅め(1日程度)速い(数時間)非常に速い(初回から)
耐性起きにくい起きやすい(数日で耐性)起きにくい
主な適応中〜重症GERD、潰瘍、除菌軽症GERD、予防除菌、GERD、NSAIDs潰瘍など
費用中等度低コスト高コスト(新薬)
 
ポイント:
 
 
薬剤名CYP2C19代謝の影響Tmax(時間)T1/2(時間)特記事項
オメプラゾール (オメプラール)大きい1.5〜2約1代謝遺伝子(CYP2C19)多型の影響を強く受ける
ランソプラゾール (タケプロン)中等度1.7約1空腹時服用で吸収良好、徐放カプセルも存在
ラベプラゾール (パリエット)少ない2〜3約1CYP2C19多型の影響が少ない(非酵素的代謝も併用)
エソメプラゾール (ネキシウム)中等度〜やや少なめ1.5約1.3オメプラゾールのS体、代謝がやや安定
ボノプラザン (タケキャブ) ※P-CABほとんど受けない1〜2約9PPIではなくP-CABだが、CYP3A4主代謝、食事影響なし
 

有効性/薬効群内比較

4~8週の粘膜治癒率で、エソメプラゾール40 mgが最も優れていた
 

論文概要(日本語)

背景:
この研究は、米国FDAにより推奨されている標準用量のプロトンポンプ阻害薬(PPI)について、びらん性食道炎(EE)に対する有効性および受容性(中止率)を比較したネットワーク・メタアナリシスです。
対象薬剤(用量):
  • デクスランソプラゾール 60 mg
  • エソメプラゾール 40 mg、20 mg
  • パントプラゾール 40 mg
  • ランソプラゾール 30 mg
  • ラベプラゾール 20 mg
  • オメプラゾール 20 mg(共通の比較薬)
方法:
PubMed、EMBASE、Cochrane Libraryを用いて文献検索を行い、計25のRCT(ランダム化比較試験)を分析対象としました。
主な評価項目は4週および8週時点での内視鏡的治癒率、副次評価項目は胸やけの改善率、安全性評価として全原因による中止率を用いました。
結果:
  • エソメプラゾール40 mgは、オメプラゾール20 mgやランソプラゾール30 mgと比較して、4週・8週いずれも高い治癒率および胸やけ改善効果を示しました。
  • デクスランソプラゾール60 mgは、オメプラゾール、パントプラゾール、ランソプラゾールと比べて、中止率が有意に高いという結果でした。
  • 全体として、エソメプラゾール40 mg、パントプラゾール40 mg、エソメプラゾール20 mg、ランソプラゾール30 mgが、有効性と受容性の両面で優れていると評価されました。
結論:
標準用量のエソメプラゾール40 mgは、粘膜の治癒効果と胸やけの改善において最も優れた結果を示しました。また、パントプラゾール40 mg、ランソプラゾール30 mgも有効性・受容性のバランスが良好でした。

オメプラゾール20 mgは、オメプラゾール10 mg群・ラベプラゾール5 mg群よりも有効
 
以下は、論文「The efficacy and safety of proton-pump inhibitors in treating patients with non-erosive reflux disease: a network meta-analysis(Lingxiao Chenら, 2016)」の日本語による概要です。

論文タイトル:

非びらん性胃食道逆流症(NERD)に対するプロトンポンプ阻害薬(PPI)の有効性と安全性:ネットワークメタ解析

目的:

非びらん性胃食道逆流症(NERD)の治療における、さまざまなPPI製剤および用量間の有効性と安全性を比較するために、ネットワークメタ解析を行った。

方法:

15件の研究、計6,309人の患者データを統合して解析。

主な結果:

  • 症状改善率について
    • 対照群と比較して、ラベプラゾール5 mg以外の全てのPPI群で有意に症状改善率が高かった
  • PPI間の比較では:
    • オメプラゾール20 mgは、
      • オメプラゾール10 mg群よりも有効(OR: 1.89、95% CI: 1.34–2.67、p=0.0005)
      • ラベプラゾール5 mg群よりも有効(OR: 2.51、95% CI: 1.16–5.42、p=0.019)
    • デクスランソプラゾール30 mgもラベプラゾール5 mg群より有効(OR: 2.64、95% CI: 1.08–6.43、p=0.03)
  • 有害事象の発生率については、すべての介入群間で有意な差はなかった

結論:

PPIはNERD患者の症状改善に有効であり、安全性にも大きな差は見られなかった。特にオメプラゾール20 mgデクスランソプラゾール30 mgが、低用量ラベプラゾールよりも高い有効性を示した。