認知症の睡眠障害に対する薬物治療

認知症の睡眠障害に対する薬物治療

注意事項

  • 認知症の睡眠障害に対する薬物治療のエビデンスは少ない
  • ベンゾジアゼピン系薬物・・慎重投与(認知機能悪化リスクを考慮して)
 

認知症の睡眠障害に用いられる薬剤

  • 抑肝散
  • トラゾドン(抗うつ薬)
  • リスペリドン(非定型抗精神病薬)
  • オレキシン受容体拮抗薬
 
CQ 3B-6 (レム期睡眠行動異常症を除く)睡眠障害に有効な非薬物療法・薬物療法は何か

推奨 まず睡眠障害の正確な把握と鑑別診断を行う。また影響しうる身体症状(疼痛、頻尿、掻痒など)、心理・社会的ストレス、嗜好品、薬剤があれば改善する。そのうえで、日中の日光浴や身体活動を促し、睡眠環境の改善を図る。また可能であれば高照度光療法も検討する。薬物療法としては、トラゾドンリスペリドンの使用を検討してもよい。しかし、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は鎮静や転倒などの有害事象が起こりやすいので推奨されない
システマティックレビューでは、軽症〜中等症のアルツハイマー型認知症患者に対してラメルテオンの効果は認められなかったが、トラゾドンは1日50mgを2週間投与することで総睡眠時間の延長と睡眠効率が改善した。(McCleery J, Cochrane Database Syst Rev (2014) [PMID: 24659320])
(認知症疾患診療ガイドライン2017)
(GL以降に行われた研究)
McCleery J, Cochrane Database Syst Rev (2020) [PMID: 33189083]

概要(Cochrane Review, 2020)

背景
  • 認知症では夜間睡眠時間短縮、断片化、夜間徘徊、日中過眠などの睡眠障害が頻発し、介護者負担・医療費・施設入所リスクを増加させる。
  • 推奨は非薬物療法が第一選択だが、薬物治療が実際にはよく行われる。
  • 各種睡眠薬の有効性・安全性は不明確。

方法
  • 対象:睡眠障害を有する認知症患者
  • 比較:薬物 vs プラセボ
  • 評価項目:総夜間睡眠時間(TNST)、睡眠効率、夜間覚醒後覚醒時間(WASO)、覚醒回数、昼寝時間など
  • 測定法:アクチグラフィまたはPSG
  • エビデンス評価:GRADE

結果(9試験, n=649)

メラトニン(最大10 mg, 2試験n=184メタ解析)

  • TNST:ほぼ変化なし(+10.68分, 95%CI -16.22〜37.59)
  • 昼夜睡眠比:変化なし(MD -0.13, 95%CI -0.29〜0.03)
  • その他睡眠効率・覚醒回数なども有意差なし
  • 有害事象:重大な副作用報告なし
  • 確実性:低

トラゾドン 50 mg(1試験, n=30, 2週間)

  • TNST:+42.46分(95%CI 0.9〜84.0)
  • 睡眠効率:+8.53%(95%CI 1.9〜15.1)
  • 覚醒後覚醒時間(WASO):効果不確実(-20.41分, CI幅広い)
  • 有害事象:重大な副作用報告なし
  • 確実性:低

ラメルテオン 8 mg(1試験, n=74, 非公開要約のみ)

  • 主要睡眠アウトカムに有効性なし
  • 有害事象:重大な副作用報告なし
  • 確実性:低

オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント, レンボレキサント, 2試験n=323, 4週間)

  • TNST:+28.2分(95%CI 11.1〜45.3)
  • WASO:-15.7分(95%CI -28.1〜-3.3)
  • 覚醒回数:変化なし
  • 睡眠効率:+4.26%(95%CI 1.26〜7.26)
  • 入眠潜時:効果不確実
  • 有害事象:プラセボと差なし(RR 1.29, 95%CI 0.83〜1.99)
  • 確実性:中等度

結論
  • 認知症の睡眠障害に対する薬物療法のRCTは少なく、ベンゾジアゼピン系や非ベンゾ系など一般的に使われる薬のRCTは存在しない。
  • メラトニンやメラトニン受容体作動薬に有効性は確認できず。
  • トラゾドンとオレキシン受容体拮抗薬は一部の睡眠指標を改善する可能性があるが、試験規模が小さいため結論は限定的。
  • 有害事象は重篤例報告なしだが、今後の試験では系統的な副作用評価が必要。
 

作用機序

トラゾドン(抗うつ薬)

|用量・用法
(うつ病・うつ状態に対して使用する場合)
トラゾドン塩酸塩として、通常、成人には1日75~100mgを初期用量とし、1日200mgまで増量し、1~数回に分割経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。
適応外使用ではあるが、不眠症の改善の目的で使用されることがある
|高齢者の不眠症・・・低用量
  • まず非薬物療法(CBT-I、睡眠衛生)の併用は必須。
  • 開始量:12.5–25 mg就寝前から。必要に応じて25–50 mgまで段階的に。
  • 特に注意:起立性低血圧・ふらつき→転倒、日中ふらつき、低ナトリウム血症(SIADH)、QT延長、薬物相互作用(CYP3A4)。
特徴

1. 薬理作用の概要

トラゾドンはセロトニン2A受容体拮抗薬+弱いセロトニン再取り込み阻害作用(SARI)を持つ非三環系抗うつ薬です。加えて、ヒスタミンH1受容体拮抗作用やα1アドレナリン受容体拮抗作用も持ちます。

2. 睡眠改善に関わる主な機序

作用部位・受容体機序睡眠への影響
5-HT2A受容体拮抗覚醒促進系のセロトニン2A経路を遮断睡眠構造の安定化、徐波睡眠の増加
H1受容体拮抗中枢ヒスタミン系を抑制鎮静作用による入眠促進
α1アドレナリン受容体拮抗ノルアドレナリンによる覚醒維持シグナルを低下鎮静・中途覚醒の減少
弱いSERT阻害セロトニン濃度上昇による睡眠-覚醒リズム調整睡眠段階の正常化に寄与する可能性

3. 特徴

  • 低用量(25〜100mg程度)では抗うつ作用より鎮静作用が優位
  • 睡眠構造への影響
    • 徐波睡眠(N3)の増加
    • REM睡眠の抑制は少なめ(ベンゾ系より自然な睡眠構造)
  • 認知症や高齢者でも呼吸抑制リスクが低い
  • 依存・耐性形成のリスクが低い