鉄剤
鉄剤
- 鉄の役割
- 鉄は赤血球中のヘモグロビン合成に不可欠。酸素を全身に運搬するために必要。
- 体内の鉄は大脳の代謝や筋肉のミオグロビン、各種酵素反応(シトクロム酵素など)にも関与する。
- 鉄剤の働き
- 経口または静脈内投与された鉄は、まず腸管(主に十二指腸・空腸)で吸収される(経口:二価鉄(Fe²⁺)が吸収されやすい)。
- 吸収された鉄はトランスフェリンという運搬タンパクに結合し、骨髄に運ばれて赤血球造血に利用される。余剰分は貯蔵タンパク(フェリチン)として肝臓や脾臓、骨髄に蓄えられる。
- これにより、鉄不足による赤血球産生低下(鉄欠乏性貧血)を改善し、組織の酸素供給を正常化する。

(薬効群ごとの分類)
経口鉄剤(Fe²⁺製剤)
静脈内鉄製剤(IV鉄製剤)
- 鉄欠乏性貧血(鉄欠乏による貧血)
- 最も多い適応疾患。月経過多や消化管出血、妊娠・授乳期の需要増加、術後回復期などで鉄欠乏を来すと、ヘモグロビン合成が低下して貧血になる。
- 血液検査でフェリチン低値、トランスフェリン飽和度低下、MCV(平均赤血球容積)低下が認められる場合に鉄補充を行う。
- 予防的補充
- 妊婦:胎児の成長や分娩準備で鉄需要が増加しやすいため、鉄欠乏を防ぐ目的で経口鉄剤を投与することがある。
- 手術前・術後:出血リスクがある場合や術後の回復を早める目的で鉄剤を使う場合もある。
- 慢性疾患に伴う鉄不足
- 腎不全患者や炎症性腸疾患(クローン病など)など、経口吸収が低下しやすい状況下で、静注(IV)鉄製剤を使うことがある。
- がん化学療法に伴う貧血でも、鉄補充を併用することがある。
- 禁忌
- 鉄蓄積疾患
- 遺伝性ヘモクロマトーシス(鉄過剰による組織障害をきたす疾患)
- 再生不良性貧血や溶血性貧血など、鉄欠乏以外の原因で貧血が生じている場合(過剰投与を避ける)
- 未治療の急性感染症
- 鉄は細菌の増殖を助けるため、急性感染中の鉄投与は避ける。慢性疾患関連貧血でも投与時期を検討する。
- 副作用・合併症
- 経口鉄剤の主な副作用
- 消化管症状
- 悪心、嘔吐、腹痛、胃部不快感
- 便秘または下痢
- 黒色便(鉄が酸化されることで生じる。ただし、消化管出血との鑑別が必要な場合がある)
- 味覚異常
- 金属様の味を感じることがある。
- 過敏症
- まれに蕁麻疹やかゆみを呈する場合がある。
- 静脈内鉄製剤の主な副作用
- アナフィラキシー様反応
- 投与中または直後に発熱、蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下などを来すことがある。必ず薬剤投与中はバイタルサインを観察し、異常があれば流速を下げるか中止し医師に報告。
- 局所反応
- 投与部位の疼痛、血腫、発赤など。正しい技法で投与し、モニタリングを行う。
- 過剰鉄負荷
- 特に腎不全や定期的にIV鉄を使用する患者では、蓄積した鉄による肝機能障害や心機能低下をきたす可能性がある。定期的にフェリチン値やTSATをチェックする。
- 投与上のポイント・管理
- 経口投与時の服薬指導
- 空腹時(食事の1時間前または2時間後)での服用が吸収を良くするが、胃障害が強い場合は食後に変更可。
- 牛乳や茶、コーヒー、カルシウム製剤と一緒に服用すると吸収が阻害されるため、服用間隔(2時間以上)をあけるよう指導。
- 便が黒くなることをあらかじめ説明し、不安を軽減する。
- 鉄剤は継続して数か月投与し、貯蔵鉄(フェリチン)が回復するまで続ける。ヘモグロビンが回復しても中断せず、医師の指示に従う。
- 検査フォロー
- 2~4週間ごとに血液検査でヘモグロビン、MCV、フェリチン、TSAT(トランスフェリン飽和度)などを確認し、鉄状態の改善をモニタリングする。
- 必要に応じて投与量や投与経路(経口→静注へ切り替え)を調整。
| 【経口】 | 標準用量 | 鉄として(mg) | |
|---|---|---|---|
| 溶性ピロリン酸第二鉄 | インクレミンシロップ5% | 10〜15mL (500~750mg) | 60~90mg |
| クエン酸第一鉄ナトリウム | フェロミア錠 | 1日2~4錠 | 1日100~200mg |
| 硫酸鉄水和物 | フェロ・グラデュメット錠 | 1日1~2錠 | 1日105~210mg |
| 【注射】 | 標準用量 | 鉄として(mg) | |
|---|---|---|---|