BPSD に対する向精神薬

BPSD に対する向精神薬

1. 定義

BPSDとは
認知症に伴って現れる行動・心理症状の総称で、徘徊、興奮、攻撃性、幻覚、妄想、抑うつ、不安、睡眠障害などを含む。
向精神薬とは
中枢神経系に作用し、精神症状(幻覚、妄想、不安、抑うつなど)を軽減する薬剤群。抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、気分安定薬、睡眠薬などが含まれる。
 

薬剤選択

かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第 3 版)
幻覚・妄想メマンチン・抑肝散
易刺激性・焦燥性興奮ブレクスピラゾール
不安・抑うつ抗うつ薬、タンドスピロン、抑肝散、クエチアピン
アパシー非薬物的介入が基本
睡眠障害オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬、抗うつ薬(トラゾドン)

2. 作用機序

薬剤群主な作用機序
抗精神病薬ドパミンD₂受容体遮断、セロトニン5-HT₂A受容体遮断
抗うつ薬セロトニン、ノルアドレナリンの再取り込み阻害
抗不安薬・睡眠薬GABA受容体作動作用(GABA-A受容体を介する)
気分安定薬グルタミン酸系、GABA系、セロトニン系などの調整
 

3. 主な薬理作用

症状有効とされる薬剤群・特徴
興奮・攻撃性抗精神病薬(特に非定型)が有効だが、リスクも高い
妄想・幻覚抗精神病薬(例:クエチアピン、リスペリドン)
不安・抑うつ抗うつ薬(SSRI)、抗不安薬(慎重使用)
睡眠障害メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)、オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント)などが安全性高い
抑うつ状態SSRI(セルトラリン、エスシタロプラムなど)
 

4. 主な薬剤例

薬剤群代表薬剤名(日本)
抗精神病薬リスペリドン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール
抗うつ薬セルトラリン、パロキセチン、エスシタロプラム
抗不安薬ロラゼパム、エチゾラム(使用に注意)
睡眠薬ラメルテオン、スボレキサント、レムボレキサント
気分安定薬バルプロ酸ナトリウム(攻撃性抑制)※適応外使用が多い
ブレクスピプラゾール
2024年9月に、「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動」が適用追加された。
4. 効能又は効果
  • 統合失調症
  • うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)
  • アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動
BPSDに対する有効性が示唆されている向精神薬(適応外)
  • 不安
    • リスペリドン
    • クエチアピン
    • オランザピン
  • 焦燥性興奮
    • リスペリドン
    • アリピプラゾール
    • 抑肝散、チアプリド、カルバマゼピン、セルトラリン、エスシタロプラム、トラゾドン
  • 幻覚・妄想
    • リスペリドン
    • オランザピン
    • クエチアピン
    • アリピプラゾール
    • 抑肝散
  • うつ症状
    • SSRI
    • SNRI
  • 睡眠障害
    • トラゾドン
    • リスペリドン
  • アパシー
    • ChEI
  • せん妄
    • クエチアピン
    • ベロスピロン
    • リスペリドン
    • オランザピン
(認知症疾患診療ガイドライン2017)
焦燥感、易刺激性、興奮に起因する過活動又は攻撃的言動が見られるアルツハイマー型認知症の患者に対しては、ブレクスピプラゾールが保険適用となっているため、前項の「BPSD 治療アルゴリズム」に定めた薬剤選択の原則を考慮した上で投与を検討する。なお、他の抗精神病薬との併用時のブレクスピプラゾールの有効性および安全性は確認されていないので、原則としてそのような併用は行わない 5, 6)。
上記に対してブレクスピプラゾールが無効であった場合や、アルツハイマー型認知症以外の認知症における同様の症状に対しては、上記の厚生労働省保険局医療課長通達や既報告 7)参照し、リスペリドン、ペロスピロン、クエチアピンの使用を考慮してもよい。
チアプリドは、脳梗塞後遺症に伴う精神興奮・徘徊・せん妄に保険適用があるため、血管性認知症患者における易刺激性・焦燥性興奮に対して使用を考慮してもよい。
アルツハイマー型認知症の患者において、幻覚・妄想、不安・抑うつ、睡眠障害等が、焦燥感、易刺激性、興奮に起因する過活動又は攻撃的言動に伴って生じた場合にも、ブレクスピプラゾールの使用を検討する。
睡眠障害に対しては、睡眠薬の項の記載に従った薬剤選択を行い、それでも改善のない場合は、クエチアピンの使用を考慮してもよい。
レビー小体型認知症の幻覚・妄想、易刺激性・焦燥性興奮、不安・抑うつ、睡眠障害に対して、クエチアピンの使用を考慮してもよい。
焦燥感、易刺激性、興奮を認めない徘徊に対しては、抗精神病薬のエビデンスは不十分であるため、非薬物的介入を推奨する。
(かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第 3 版))
審査情報提供事例
  • リスペリドン【内服薬】
  • ハロペリドール【内服薬】【注射薬】
  • フマル酸クエチアピン【内服薬】
  • ペロスピロン塩酸塩水和物【内服薬】
    • 原則として、「リスペリドン【内服薬】」を「器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性」、「パーキンソン病に伴う幻覚」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
    • 《平成23年9月26日新規》

5. 対象疾患

  • アルツハイマー型認知症に伴う幻覚・妄想・興奮
  • レビー小体型認知症に伴う幻視・REM睡眠行動障害
  • 前頭側頭型認知症に伴う脱抑制・反社会的行動
  • 血管性認知症に伴う抑うつ・情動不安定
 

6. 注意点・副作用

リスク説明対策
錐体外路症状特に定型抗精神病薬で顕著。パーキンソニズム、ジスキネジアなど非定型薬を使用、最小用量、最短期間を意識
せん妄・転倒抗精神病薬・BZ系で増悪リスクあり睡眠薬は慎重使用、環境調整で代替を検討
死亡リスク上昇特に高齢者で抗精神病薬により心血管イベント・感染増加原則「薬物は最後の手段」とし、使用時はモニタリング徹底
抗コリン作用尿閉、便秘、口渇、せん妄悪化抗コリン作用の少ない薬剤を選択
レビー小体型認知症に禁忌の抗精神病薬:
  • ブチロフェノン系
  • ベンザミド系:(スルピリド、チアプリドは禁忌ではない)
 

7. 類薬との使い分け

比較対象特徴・使い分け
リスペリドン vs クエチアピンリスペリドンは幻覚・妄想に効果が高いが錐体外路症状に注意。クエチアピンはパーキンソン病でも比較的安全
SSRI vs 抗不安薬長期的にはSSRIが推奨。不安が強い急性期のみ短期間ベンゾジアゼピン系併用
オレキシン受容体拮抗薬 vs ベンゾジアゼピン系前者は転倒・せん妄リスクが少なく、推奨される睡眠薬
 

備考:

  • 基本原則は非薬物療法が第一選択です(環境調整、対応技法など)。
  • 薬物療法は必要最小限・短期間が推奨されます。
  • 使用する場合は家族との十分なインフォームド・コンセントが重要です。
 
ポイント:
 
 

ガイドライン

かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第 3 版)
BPSDに対して抗精神病薬を使用する場合の注意点は (高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025)

抗精神病薬の使用は必要最低限の量と期間にとどめることを推奨する (エビデンスレベル:A、推奨度:1、合意率:100%)
定型抗精神病薬は、非定型抗精神病薬と比べて錐体外路症状、傾眠などの副作用が多くみられるため使用はできるだけ控えることを推奨する (エビデンスレベル:B、推奨度:1、合意率:100%)
(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025)
認知症疾患診療ガイドライン2017 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo_2017.html