page icon

α1遮断薬

α1遮断薬

1. 定義と作用機序

α₁遮断薬とは、主に血管平滑筋前立腺膀胱頸部などに存在するα₁アドレナリン受容体(α₁A、α₁B、α₁Dサブタイプ)を競合的に遮断することで、これらの臓器の平滑筋を弛緩させる薬剤群を指します。
日本の医療制度では、主に「降圧薬」および「前立腺肥大症治療薬」として保険適用されています。

2. 作用機序

  • 受容体遮断
    • α₁遮断薬は、ノルアドレナリンやアドレナリンが結合するα₁アドレナリン受容体に競合的に結合し、受容体を遮断することでシグナル伝達を抑制します。
  • 血管平滑筋への影響
    • 血管壁のα₁B受容体を遮断することで血管平滑筋が弛緩し、末梢血管抵抗が低下します。その結果、血圧が低下します。
  • 前立腺・膀胱頸部への影響
    • 前立腺や膀胱頸部の平滑筋に存在するα₁A(および一部α₁D)受容体を遮断することで、それらの平滑筋が弛緩し、尿流障害(中間的・末期的な排尿障害)の改善につながります。

3. 主な薬理作用

α₁遮断薬には、受容体サブタイプに対する選択性の違いおよび血管作用と泌尿器作用のバランスの違いがあります。主に以下のように分類できます。
非選択的 α₁遮断薬
  • 例:プラゾシン(プラゾシンL錠 1mg 他)、ドキサゾシン(カルデナリン錠 1mg, 2mg, 4mg 他)、テラゾシン(ヒューナル錠 1mg, 2mg, 5mg 他)
  • 特徴:α₁A/α₁B/α₁Dサブタイプを一律に遮断するため、血管(α₁B)および前立腺・膀胱頸部(α₁A, α₁D)の双方に作用。血圧低下効果が強く、降圧薬としての適応が中心。尿路症状改善効果も併せ持つが、非選択的であるため起立性低血圧など血圧関連の副作用が出やすい。
選択的 α₁A遮断薬(前立腺優位型)
  • 例:シロドシン(ユリーフ錠 4mg、8mg)、タムスロシン(ハルナールOD錠 0.2mg、0.4mg)、ナフトピジル(フリバス錠 25mg, 50mg)
  • 特徴:α₁A受容体への親和性が高く、前立腺および膀胱頸部に優位的に作用する。そのため、降圧作用を最小限にしつつ排尿症状(下部尿路症状:LUTS)を改善できる。前立腺肥大症の治療薬として広く用いられる。
選択的 α₁B/α₁D遮断薬(血管優位型)
  • 例:ウラピジル(スプレキサ錠 30mg, 60mg 他)※日本では一部使用例あり
  • 特徴:α₁B受容体を主体に遮断し、血管拡張による降圧作用を重視した薬剤。日本では降圧薬としての使用実績は少なく、その多くは非選択的またはα₁A選択的である。
その他の特徴
  • 第一次投与現象(First‐dose phenomenon):特に非選択的α₁遮断薬(プラゾシンなど)で、初回投与後数時間に強い起立性低血圧が起こりうる。
  • 再循環半減期・作用持続時間:薬剤ごとに作用持続時間は異なり、1日1回投与のもの(ドキサゾシン、シロドシンなど)と1日数回投与のものがある。

4. 主な薬剤例

 

5. 対象疾患

  • 本態性(本態性)高血圧症
    • 非選択的α₁遮断薬(プラゾシン、ドキサゾシン、テラゾシンなど)は、血管拡張による降圧効果を期待して保険適用。
    • 第一次治療薬(ARB、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬など)でコントロール不良の場合に選択されることが多い。
  • 良性前立腺肥大症(BPH)に伴う下部尿路症状(LUTS)
    • 選択的α₁A遮断薬(シロドシン、タムスロシン、ナフトピジルなど)は、前立腺や膀胱頸部の平滑筋を弛緩させ、尿流を改善する目的で保険適用。
  • その他の適応例(保険外・限定的)
    • レイノー病(末梢血管拡張作用による循環改善)
    • フェオクロモサイトーマ手術前の血圧管理(特に非選択的α₁遮断薬)
    • 血管攣縮性疾患などでの血流改善(頻度は低い)

6. 注意点・副作用

以下では主に臨床上注意すべき副作用と、その対策をまとめます。
  1. 起立性低血圧(第一次投与現象を含む)
      • 概要:投与開始直後や増量時に急激な血圧低下が起こり、めまいや失神を生じることがある。特にプラゾシンのような半減期が短く、血圧低下作用が強い薬剤で顕著。
      • 対策
        • 初回投与・増量時は就寝前に投与し、安静下で寝ている間に作用が発現するようにする。
        • 初回投与量を極めて低用量から開始し、数日単位で徐々に増量する(プラゾシンは1回0.5mgなど)。
        • 血圧を頻回にチェックし、めまいなどの自覚症状があれば速やかに受診対応。
        • 起床時や立位に移る際はゆっくり動くように指導する。
  1. 反射性頻脈
      • 概要:血圧低下に対する反射として交感神経が亢進し、頻脈を引き起こすことがある。
      • 対策
        • 必要に応じてβ遮断薬の併用を検討する(ただし、不整脈や心疾患の有無を考慮)。
        • 血圧コントロールを緩徐に進めることで反射を和らげる。
  1. 頭痛・顔面紅潮・鼻閉(鼻充血)
      • 概要:血管拡張に伴い、頭痛(拍動性)、顔面紅潮、鼻粘膜への血流増加による鼻閉を生じることがある。
      • 対策
        • 症状が強い場合は用量を調整もしくは他の降圧薬へ切り替えを検討。
        • 市販の鎮痛薬(非ステロイド系鎮痛薬など)で一時的緩和を図る場合もあるが、慎重に行う。
        • 鼻閉が続く場合は鼻洗浄や点鼻薬の使用を検討する。
  1. 浮腫・体液貯留
      • 概要:一部のα₁遮断薬では末梢血管拡張により静水圧が変化し、四肢末端や顔面のむくみを来すことがある。
      • 対策
        • 塩分制限・体重変化のモニタリングを指導。
        • 必要に応じて利尿薬(サイアザイド系等)を併用し、浮腫をコントロールする。
  1. 頭痛・めまい・倦怠感
      • 概要:全般的な血圧低下に伴い起こることが多い。
      • 対策
        • 徐々に用量を調整し、自覚症状が強い場合は用量を減量するか他剤への置き換えを検討。
        • 患者指導として休息や十分な水分摂取を促す。
  1. 射精障害(主にα₁A選択的薬/タムスロシン、シロドシン等)
      • 概要:α₁A受容体が精嚢や前立腺平滑筋にも存在するため、これらを遮断すると射精時の精液放出が阻害される(逆行性射精、精液量減少)。
      • 対策
        • 事前に患者へ説明し、性機能への影響を同意の上で開始する。
        • 必要に応じて服薬を中止し、別の薬剤(5α還元酵素阻害薬など)へ切り替えを検討。
        • 生活の質(QOL)を重視し、患者の希望を確認しながら継続判断を行う。
  1. 肝機能障害
      • 概要:まれに肝酵素上昇や黄疸などの肝障害を来すことがある。
      • 対策
        • 投与前に肝機能検査(AST、ALT、ALP、γ-GTP 等)を実施し、定期的にモニタリングする。
        • 異常が認められた場合は速やかに試験的休薬または他剤に切り替える。
  1. 薬剤性アレルギー(発疹、かゆみなど)
      • 概要:ごくまれに皮疹やかゆみ、血球減少などのアレルギー症状を来すことがある。
      • 対策
        • 投与後に皮膚症状や発熱、倦怠感を訴えた場合は直ちに中止し、必要に応じて皮膚科・内科で対応。
        • アレルギー既往のある患者には慎重投与とし、何らかの異常が起こったら速やかに検査・受診を行う。

7. 類薬との使い分け

α₁遮断薬は、主に「降圧薬」としての役割と「前立腺肥大症治療薬」としての役割があります。それぞれ他の薬剤カテゴリーと比べた際の使い分けポイントを以下に示します。
  1. 高血圧治療における使い分け
      • 第一選択薬との比較
        • 日本高血圧学会ガイドラインにおいて、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)やACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、チアジド系利尿薬が第一選択薬として推奨されている。一方、α₁遮断薬はこれらで十分なコントロールが得られない場合や、特定の併存疾患(例:良性前立腺肥大症を伴う高血圧)を有する患者に適することが多い。
      • 併存疾患の有無による選択
        • 良性前立腺肥大症を合併する高血圧患者:α₁遮断薬(非選択的または選択的α₁A遮断薬)を用いることで、高血圧と下部尿路症状を同時に改善するメリットがある。
        • 心不全や腎障害がある場合:ACE阻害薬や利尿薬のほうがエビデンスが豊富であるため、α₁遮断薬は二次選択となる。
      • 副作用プロファイルによる選択
        • 起立性低血圧や反射性頻脈などを避けたい場合は、α₁遮断薬ではなく他クラスの降圧薬(例:ARB、カルシウム拮抗薬)を選択することが多い。
  1. 前立腺肥大症治療における使い分け
      • 5α還元酵素阻害薬(フィナステリド、デュタステリド)との比較
        • 5α還元酵素阻害薬は前立腺体積を徐々に縮小させる作用を持つため、服用してから効果発現まで数ヶ月を要する。一方、α₁A遮断薬は即時的に平滑筋を弛緩させるため排尿改善効果が迅速である。前立腺体積が大きく(>40~50g程度)、体積縮小を狙う場合は5α還元酵素阻害薬、即時的な排尿症状緩和が最優先であればα₁A遮断薬を選択する。
      • PDE5阻害薬(タダラフィル等)との比較
        • 下部尿路症状と勃起機能障害を併せ持つ患者では、PDE5阻害薬単独あるいはα₁A遮断薬との併用療法が検討される。併用時は低血圧リスクが高まるため、十分な間隔(通常4時間以上)を空けるなど慎重な投与が必要。
      • 抗コリン薬やβ₃アドレナリン受容体作動薬との比較(過活動膀胱を合併する場合)
        • LUTSが下部尿路性膀胱過活動に起因する場合、抗コリン薬やβ₃受容体作動薬(ミラベグロンなど)が有効となる。前立腺肥大が主体であればα₁A遮断薬、主に蓄尿障害(頻尿、切迫感)が主体であれば抗コリン薬やβ₃作動薬を選択する。
  1. 他の降圧薬との併用における注意
      • α₁遮断薬は起立性低血圧リスクが高いため、降圧薬を多剤併用している場合は投与タイミングや用量を個別に調整し、夜間から朝方にかけての低血圧や立ちくらみを避ける。
      • β遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬などと組み合わせる際は、相乗作用や相乗的副作用に注意しつつ、血圧モニタリングを頻回に行う。
以上のように、α₁遮断薬は「高血圧症」と「良性前立腺肥大症」という二大適応を中心に用いられ、それぞれの臨床シナリオに応じて薬剤選択や併用を工夫します。副作用の発現を最小化するため、投与初期には十分な観察と患者教育(起立性低血圧への対策、射精障害など)を実施し、他の薬剤との使い分けや併用管理を適切に行うことが重要です。
 
ポイント: