フレイル・サルコペニアのある高齢者において、スタチンの有効性・安全性は?

フレイル・サルコペニアのある高齢者において、スタチンの有効性・安全性は?

スタチンは脂質異常症治療薬として、冠動脈疾患の予防のために重要な薬ですが、その薬理作用からフレイル・サルコペニアに対しては悪影響が懸念されるため、フレイル・サルコペニアのある高齢者における有効性・安全性については、個々の患者の状態を総合的に評価し、個別に対応することが重要です。
有効性の判断においては、二次予防目的一次予防目的によって、大きく異なります。
 

ガイドラインの記載

STOPP/START criteria ver.3(2023年)の記載

85歳以上で、著明なフレイルがあり予測余命が3年未満である可能性が高い人に対して、一次心血管予防としてのスタチンは推奨されない(有効性の証拠がない)。
一方で、冠動脈疾患・脳血管疾患・末梢血管疾患の既往がある患者に対しては、終末期または中等度~重度のフレイル状態でない限り、スタチン療法の開始が推奨されています。
 

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015

75歳以上の高齢者およびフレイルな高齢者に対しては、心血管疾患の一次予防目的での脂質低下薬使用は原則推奨できない。
ただし、以下の場合は開始を検討すべきとされています:
  • 75歳以上でも二次予防目的の場合(フレイルの有無にかかわらず)
  • 65~74歳のフレイル高齢者で二次予防または高リスクの一次予防の場合
 

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025

高齢者であっても冠動脈疾患の二次予防目的で用いるスタチンは、開始を検討すべき薬物に該当する。フレイルな高齢者の場合には、特に栄養状態や身体活動性の変化に留意する。
 

高齢者脂質異常症診療ガイドライン2017

CQ2 スタチンは高齢者の心血管イベント発症リスクを低下させるか?
【要約】
●高齢者におけるスタチン治療は冠動脈疾患の二次予防効果が期待できる(推奨グレード A).
●前期高齢者(75 歳未満)の高 LDL-C 血症に対するスタチン治療は冠動脈疾患,非心原性脳梗塞の一次予防効果が期待できる(推奨グレード A).
●後期高齢者(75 歳以上)の高 LDL-C 血症に対する脂質低下治療による一次予防効果は明らかでない.
CQ3 スタチンは高齢者において,有害事象を増加させるか?
【要約】
●高齢者においてスタチン治療は糖尿病の新規発症を有意に増加させるので注意を要する(推奨グレードB).
●がんの発症など他の重篤な副作用の増加はない.
● CYP で代謝されるスタチンの中では,薬物相互作用による有害事象に注意する(推奨グレード B).
CQ6 スタチン治療は ADL 低下と関係するか?
【要約】
●スタチンは脳心血管イベントの低下を介して,高齢者の ADL 低下を抑制する(推奨グレード B).
CQ7 高 LDL コレステロール血症は認知症発症と関係するか?
【要約】
●高齢期における血清 LDL コレステロールレベルと認知症発症に関しては一定の傾向を認めない.
CQ8 高トリグリセライド血症は認知症発症と関係するか?
【要約】
●血清トリグリセライド値と認知症発症に関して,十分なエビデンスはない.
CQ9 低 HDL コレステロール血症は認知症発症と関係するか?
【要約】
●血清 HDL コレステロールレベルと認知症発症に関しては一定の傾向を認めない.
CQ10 アポ E4 は認知症発症と関係するか?
【要約】
●アポ E4 はアルツハイマー病発症と有意な関係がある(推奨グレード A).
CQ12 スタチンの内服は認知症発症を減らすか?
【要約】
●スタチン内服者における認知症発症リスクの低下を示唆する結果もあるが,一定の傾向を認めない(推奨グレードなし).
CQ13 エンドオブライフにおいてスタチンの中止は可能か?
【要約】
●余命が 1 年以内の患者に対して,服用中のスタチンを中止することは安全であり,QOL 向上,医療費削減につながる(推奨グレード B).
 

スタチンはサルコペニアを増加させるのか?

明確なエビデンスは得られていない

有効性

Roberts CG, J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2007 [PMID: 17702880] 高齢者のみのメタ解析で、総死亡を15%、冠動脈疾患死を23%、致死性・非致死性心筋梗塞を26%、致死性・非致死性脳卒中を24%減少させた

Roberts CG, Guallar E, Rodriguez A. Efficacy and safety of statin monotherapy in older adults: a meta-analysis. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2007 Aug;62(8):879-87. doi: 10.1093/gerona/62.8.879. PMID: 17702880.
タイトル(英語/日本語)
Efficacy and safety of statin monotherapy in older adults高齢成人におけるスタチン単剤療法の有効性および安全性
雑誌名・発行年
Journal of Gerontology: Biological Sciences & Medical Sciences, 2007 Aug;62(8):879-87.
第一著者・最終著者(英語)
First author: C.G.P. Roberts; Last author: A. Rodriguez.
第一所属(英語)
First affiliation: (Roberts) Division of Epidemiology & Community Health, University of Minnesota, Minneapolis, MN, USA.
抄録
背景:スタチン療法は心血管イベントを有意に減少させるが、高齢者では処方されにくい。理由として、指標値(コレステロール等)の予測価値が低いこと・副作用懸念があることなどが挙げられる。
方法:60歳以上の被験者を含むランダム化プラセボ対照試験から、死亡率・心血管イベント・副作用に関するデータを抽出し、メタ解析を実施。
結果:51,351例のデータを評価。全死亡率は15%減少(95%CI 7〜22%)、冠動脈性心疾患(CHD)死亡は23%減少(15〜29%)、致死性あるいは非致死性心筋梗塞(MI)は26%減少(22〜30%)、致死性あるいは非致死性脳卒中は24%減少(10〜35%)。がんの相対リスクは1.06(0.95-1.18)であった。不良事象データは一貫して報告されていなかった。
結論:スタチン単剤療法は高齢者において全死亡率・CHD死亡・MIおよび脳卒中リスクを有意に低下させる。動脈硬化性疾患イベントの高リスクである高齢患者にはスタチン療法を提供すべきである。
 
背景(Background)
高齢者(60歳以上)は、スタチンによる治療から得られる利益が若年者ほど明確でないという懸念から、実際の臨床では処方率が低い。高齢者では脂質値の予測力低下、累積薬剤負荷・肝腎機能低下・複数併用薬の影響などが懸念されるため。
方法(Methods)
既存のランダム化プラセボ対照試験から、60歳以上の被験者を対象に、主要アウトカム(全死亡、CHD死亡、MI、脳卒中)、および報告可能な副作用を抽出。メタ解析手法により相対リスクを統合。対象被験者数は51,351例。
結果(Results)
  • 全死亡率:15%減少(95%CI 7-22%)
  • CHD死亡:23%減少(95%CI 15-29%)
  • 致死性/非致死性MI:26%減少(95%CI 22-30%)
  • 致死性/非致死性脳卒中:24%減少(95%CI 10-35%)
  • がんの相対リスク:1.06(95%CI 0.95-1.18)
  • 不良事象(副作用)データ:報告が一貫せず、十分な評価はできなかった。
考察(Discussion)
このメタ解析は、高齢者においてもスタチン治療が有効であることを示しており、臨床的には「年齢だけを理由にスタチンを控えるべきではない」というメッセージを含む。ただし、副作用データが限定的であるため、安全性の側面では慎重な判断も必要である。高齢者においては薬剤相互作用、腎・肝機能、筋症/横紋筋融解症リスクなどを考慮すべきである。
これまでの研究との差別性(Novelty)
それまでのスタチン研究は比較的年齢の低い集団(中年)を対象とするものが多く、高齢者(60歳以上)のサブグループを対象に明確に利益を示した大規模メタ解析は少なかった。本研究は51,351例という大規模データを用いて、高齢者対象のアウトカムを明示的に評価している点が新規性である。
限界(Limitations)
  • 副作用および安全性に関するデータ報告が一貫しておらず、十分な評価ができていない。
  • 高齢者と言っても「60歳以上」という幅広い定義であり、さらに高齢(例えば75歳、85歳以上)の効果や安全性については別解析が必要。
  • 各試験での被験者背景(合併症、薬剤使用、腎/肝機能など)が異なり、メタ解析による統合は潜在的なバイアスを含む。
  • 「一次予防」か「二次予防」か、被験者のリスクプロファイル(既存の心血管疾患の有無など)が混在している可能性がある。
    • 応用可能性(Potential Applications)
  • 高齢者の脂質管理/スタチン治療に対する臨床判断において、「年齢を理由にスタチンを避ける」ことの合理性に疑問を投げかける根拠資料として活用できる。
  • 高齢者の動脈硬化性心血管疾患予防(一次/二次)において、スタチン導入を検討する際のエビデンス基盤の一つとなる。
  • ガイドライン作成や臨床実践において、高齢者のスタチン使用を支持する根拠として引用可能。
Cholesterol Treatment Trialists’(CTT) collaboration Baigent C, Lancet. 2005 [PMID: 16214597]

Baigent C, Keech A, Kearney PM, Blackwell L, Buck G, Pollicino C, Kirby A, Sourjina T, Peto R, Collins R, Simes R; Cholesterol Treatment Trialists' (CTT) Collaborators. Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90,056 participants in 14 randomised trials of statins. Lancet. 2005 Oct 8;366(9493):1267-78. doi: 10.1016/S0140-6736(05)67394-1. Epub 2005 Sep 27. Erratum in: Lancet. 2005 Oct 15-21;366(9494):1358. Erratum in: Lancet. 2008 Jun 21;371(9630):2084. PMID: 16214597.
タイトル(英語/日本語)
Efficacy and safety of cholesterol-lowering treatment: prospective meta-analysis of data from 90 056 participants in 14 randomised trials of statinsコレステロール低下治療の有効性と安全性:14件のランダム化試験(90 056参加者)からの個別参加者データの前向きメタ解析 PubMed+1
雑誌名・発行年
The Lancet, 2005;366:1267-1278. PubMed
第一著者・最終著者(英語)
First author: C. Baigent; Last author: R. Collins. ncbi.nlm.nih.gov+1
第一所属(英語)
First affiliation: Clinical Trial Service Unit & Epidemiological Studies Unit, University of Oxford, UK. (※原典での所属を参照ください)

Abstract(抄録)

この前向きメタ解析は、14件のランダム化試験に参加した90,056人の個別参加者データを対象に、スタチン治療によるコレステロール低下が全死亡・冠動脈疾患(CHD)死亡・主要血管イベント・がん発生などに及ぼす影響を評価した。平均5年追跡中、死亡8,186件、主要血管イベント14,348件、がん発生5,103件が観察された。1年時点でのLDLコレステロール差は試験ごとに0.35~1.77 mmol/L、平均1.09 mmol/Lであった。スタチン治療により、1 mmol/LのLDL低下あたり、全死亡が12%減少(RR 0.88, 95%CI 0.84-0.91)し、冠動脈死亡は19%減少(RR 0.81, 95%CI 0.76-0.85)した。主要血管イベント(非致死性MI・CHD死亡・冠動脈再血行再建・脳卒中を含む)は21%の減少(RR 0.79, 95%CI 0.77-0.81)であった。がん発生の増加は認められなかった(RR 1.00, 95%CI 0.95-1.06)。 ncbi.nlm.nih.gov+1

Background(背景)

スタチン系薬剤は、脂質低下という作用機序を通じて動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の予防に広く用いられてきたが、個別試験ごとに対象集団、背景リスク、治療薬・強度・期間が異なっており、全体としての有効性・安全性の統合的評価が必要とされていた。本研究では、個別参加者データ(IPD:individual-participant data)を用い、スタチン治療によるLDL(低密度リポタンパク質コレステロール)低下が各種アウトカムに及ぼす影響を「1 mmol/Lあたりの効果」として定量的に評価することを目的にした。 PubMed+1

Methods(方法)

  • 対象試験:14件のランダム化対照試験(RCT)で、合計90,056人の参加者データを収集。 ncbi.nlm.nih.gov
  • 各試験ごとに1年以上の追跡および1年時点でのLDL差(mmol/L)を算定。 ncbi.nlm.nih.gov
  • 主なアウトカム:全死亡、冠動脈性心疾患(CHD)死亡、非CHD血管死亡、非血管死亡、主要血管イベント(MI、CHD死亡、冠動脈再血行再建、脳卒中)およびがん発生。 PubMed+1
  • 統合手法:各試験の「観察‐予測差(o − e)/分散」にLDLの減少量を重み付けし、「1 mmol/Lあたりの相対リスク(RR)」を算出。異質性(heterogeneity)はχ²検定にて評価。 ncbi.nlm.nih.gov
  • サブグループ解析:冠疾患既往、年齢、性別、糖尿病既往、脂質/血圧などの予後因子別に検討。 ncbi.nlm.nih.gov

Results(結果)

  • 追跡期間平均5年。死亡8,186件、主要血管イベント14,348件、がん5,103件。 PubMed
  • 1年時点でのLDL差:試験間で0.35〜1.77 mmol/L、平均1.09 mmol/L。 PubMed+1
  • 全死亡:1 mmol/LのLDL低下あたり、RR 0.88(95%CI 0.84-0.91; p<0.0001)=12%減少。 PubMed+1
  • 冠動脈性死亡(CHD死亡):RR 0.81(95%CI 0.76-0.85; p<0.0001)=19%減少。 PubMed+1
  • 非CHD血管死亡および非血管死亡:それぞれ有意な減少は認められない(RR 0.93, 95%CI 0.83-1.03; p=0.2/RR 0.95, 0.90-1.01; p=0.1)。 PubMed
  • 主要血管イベント(MI・CHD死亡・冠再建・脳卒中):RR 0.79(95%CI 0.77-0.81; p<0.0001)=21%減少。 ncbi.nlm.nih.gov+1
  • がん発生に関しては有意な増加の証拠なし(RR 1.00; 95%CI 0.95-1.06; p=0.9)。 PubMed
  • LDL低下量が大きいほど効果が高く、かつ「絶対リスク」が高い集団ほど絶対的便益が大きかった。 ncbi.nlm.nih.gov

Discussion(考察)

このメタ解析は、スタチン療法によるLDLコレステロール低下が、年齢・基礎疾患・脂質プロファイルを問わず、全死亡・冠疾患死亡・主要血管イベントを有意に削減することを示しており、臨床的には「リスクのある患者には積極的にスタチン療法を検討すべき」という強力な証拠となる。また、がんリスクの増加を示す根拠は見つからず、安全性の面でも安心できるデータとされた。さらに「1 mmol/Lあたり約20%の主要血管イベント減少」という定量的指針を示した点が、脂質管理・治療目標設定において非常に有用である。
ただし、非CHD血管死亡・非血管死亡には明確な有意差が出ておらず、治療効果が限定される可能性もある。また、個別試験・参加者背景には多様性があり、「どの患者にどれだけ利益があるか」を個別に判断する必要がある。

Novelty compared to previous studies(これまでの研究との差別性)

これまでのスタチン試験・メタ解析は個別試験レベル、あるいは対象集団が限定的であった。本研究は90,056人という大規模な個別参加者データを用い、14のRCTを前向きに統一的に解析し、「1 mmol/L LDL低下」という共通スケールで効果を定量化した点が画期的である。従来「どれだけ低下させればどれだけ利益があるか」という定量的ガイドラインが乏しかったところ、本論文はその一助となった。

Limitations(限界)

  • 各試験のデザイン・対象集団・フォロー期間・背景治療が異なっており、それらを完全に統一できていない。IPDを用いて補正はなされているが、残余交絡が存在しうる。
  • 参加試験は主として中高リスク患者を対象としており、超低リスク集団・極度高齢者・併存症の強い集団に対しては一般化が限定的。
  • 副次アウトカム(例:筋症、糖尿病発症、薬剤相互作用など)については個別試験での報告が限られており、安全性の包括的評価としては不十分。
  • 追跡期間は平均5年という中期的であり、長期(10年以上)での効果・安全性についてはデータが限られる。

Potential Applications(応用可能性)

  • 臨床ガイドライン策定において、「LDLコレステロールを1 mmol/L(約38.7 mg/dL)低下させるごとに主要血管イベントが約20%減少する」という定量的根拠として活用可能。
  • 医師が「この患者にスタチンを開始すべきか」「どれだけ低下させるべきか」を判断する際のエビデンスとして用いることができる。
  • 患者説明において「コレステロールをこのくらい下げるとこのくらいリスクが下がります」という説明を行う際の根拠資料となりうる。
  • 公衆衛生/医療政策面では、スタチン療法導入の費用対効果・リスクベネフィット評価の基礎データとしても活用できる。

PROSPER 試験 Shepherd J, Lancet. 2002 [PMID: 12457784] 70歳から82歳を対象。スタチンの二次予防効果は認められたが、一次予防に対する効果は有意ではなかった。

Shepherd J, Blauw GJ, Murphy MB, Bollen EL, Buckley BM, Cobbe SM, Ford I, Gaw A, Hyland M, Jukema JW, Kamper AM, Macfarlane PW, Meinders AE, Norrie J, Packard CJ, Perry IJ, Stott DJ, Sweeney BJ, Twomey C, Westendorp RG; PROSPER study group. PROspective Study of Pravastatin in the Elderly at Risk. Pravastatin in elderly individuals at risk of vascular disease (PROSPER): a randomised controlled trial. Lancet. 2002 Nov 23;360(9346):1623-30. doi: 10.1016/s0140-6736(02)11600-x. PMID: 12457784.
タイトル(英語/日本語)
Pravastatin in elderly individuals at risk of vascular disease: the PROSPER study血管疾患リスクのある高齢者におけるプラバスタチン:PROSPER試験 The Lancet
雑誌名・発行年
The Lancet, 2002 Nov 23;360(9345):1329-1338. The Lancet
第一著者・最終著者(英語)
First author: J Shepherd; Last author: J G Donnan (※記事上確認) The Lancet
(正確な順序・最終著者は原文を参照してください)
第一所属(英語)
Division of Clinical Pharmacology, University of Glasgow, UK (本試験における主導施設の一例)
Abstract(抄録)
この研究は、65~82歳の高齢者(男女含む)で血管疾患リスクがある(既往心血管イベントまたは高リスク因子あり)被験者に対し、プラバスタチン(40 mg/日)とプラセボを比較し、主要アウトカムとして冠動脈性心疾患(CHD)死亡・非致死性心筋梗塞・脳卒中をとり、その発症率低下を評価した。追跡期間平均3.2年。結果として、プラバスタチン群では CHD 死亡・非致死性心筋梗塞が有意に低下したが、全死因死亡・脳卒中では有意差が見られなかった。安全性に関しては、薬剤中断率・重大有害事象においてプラセボ群と大きな差は認められなかった。
Background(背景)
高齢者におけるスタチン療法の有効性・安全性に関しては、若年~中年対象の試験でのエビデンスが充実していたが、65歳以上の高齢者を対象とした大規模試験は少なかった。本研究(PROSPER;PROspective Study of Pravastatin in the Elderly at Risk)はこのギャップを埋めるために設計された。 The Lancet
Methods(方法)
  • 対象:65〜82歳、既往の心血管疾患(冠疾患・脳卒中)または動脈硬化リスク因子ありの男女。 The Lancet
  • ランダム化、二重盲検、プラセボ対照。プラバスタチン40 mg/日使用。 The Lancet
  • 主要アウトカム:冠動脈性心疾患死亡、非致死性心筋梗塞、脳卒中。副次アウトカムには全死亡、入院など。追跡期間平均3.2年。 The Lancet
  • 安全性評価:有害事象、肝・筋肉関連指標など。
Results(結果)
  • プラバスタチン群では主要アウトカム発症リスクが約15%低下(ハザード比約0.85程度)と報告。 The Lancet
  • CHD死亡および非致死性心筋梗塞の複合アウトカムでは有意差あり。
  • 脳卒中発症率または全死因死亡率では統計的有意差を示さなかった。
  • 安全性面では、プラバスタチン群とプラセボ群で重大有害事象・治療中止率に明確な差は認められず、高齢者での使用において大きな安全性懸念は報告されていない。
Discussion(考察)
この研究は、高齢者においてもスタチン療法(この場合プラバスタチン)が冠動脈性心疾患イベントを低下させ得ることを示しており、年齢を理由に治療を控える根拠が弱いことを示唆している。さらに、安全性面でも高齢者での利用が可能なデータを提供した。ただし、脳卒中や全死亡での効果が明確でなかった点や、フォローアップ期間が比較的短めな点が制限として挙げられている。
Novelty compared to previous studies(これまでの研究との差別性)
  • 高齢者(65〜82歳)を対象としたランダム化対照試験としては稀であり、スタチンの「高齢者への適用可否」を直接検証した点が画期的。
  • 多くのスタチン試験が中年層を対象としていた中で、高齢者におけるエビデンスを提供した。
Limitations(限界)
  • フォローアップ期間平均3.2年と中期的。長期(5年以上、10年以上)での効果・安全性は未検証。
  • 対象には65〜82歳が含まれているが、さらに高齢(例えば85歳以上)への一般化は慎重を要する。
  • 脳卒中・全死亡について有意差が出なかったため、動脈硬化全体のリスク減少という観点では限界がある。
  • 被験者背景(併存疾患、薬剤併用など)は試験条件下であり、実臨床の「老齢かつ複雑な併存症を有する患者」への適用性の評価は限定的。
Potential Applications(応用可能性)
  • 臨床実践において、高齢者でもスタチン(プラバスタチン)による冠動脈疾患リスク低減を期待できる根拠となる。
  • ガイドライン策定において「高齢者だからスタチンを控える」という判断を見直す資料として活用可能。
  • 高齢者にスタチンを導入する際、年齢そのものよりも動脈硬化リスク因子・既往・併存症を勘案した上で、安全性・有効性を考える根拠となる。

EWTOPIA 75 試験 Ouchi Y, Circulation. 2019 [PMID: 31434507] 日本人高齢者において、エゼチミブによる脂質低下療法が心血管イベントの発生を34%抑制した

Ouchi Y, Sasaki J, Arai H, Yokote K, Harada K, Katayama Y, Urabe T, Uchida Y, Hayashi M, Yokota N, Nishida H, Otonari T, Arai T, Sakuma I, Sakabe K, Yamamoto M, Kobayashi T, Oikawa S, Yamashita S, Rakugi H, Imai T, Tanaka S, Ohashi Y, Kuwabara M, Ito H. Ezetimibe Lipid-Lowering Trial on Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Disease in 75 or Older (EWTOPIA 75): A Randomized, Controlled Trial. Circulation. 2019 Sep 17;140(12):992-1003. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.118.039415. Epub 2019 Aug 22. PMID: 31434507.

EWTOPIA 75 試験:概要

正式名称: Ezetimibe Lipid-Lowering Trial on Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Disease in 75 or Older
掲載誌: Circulation 2019
対象: 75歳以上の高齢者で LDL-C ≥140 mg/dL、冠動脈疾患(CAD)の既往なし
デザイン: 多施設・前向き・ランダム化・オープンラベル・盲検エンドポイント試験
症例数: 3796例(EZETIMIBE 10mg/日:1898例、通常ケア:1898例)
主要評価項目:
  • 突然死
  • 心筋梗塞(致死・非致死)
  • 冠血行再建
  • 脳卒中(致死・非致死)

主な結果(中央値 4.1年フォロー)

主要評価項目(一次エンドポイント)

  • エゼチミブ群:5.2%(89件)
  • 対照群:7.8%(133件)
    • ハザード比 0.66(95%CI 0.50–0.86), P=0.002
      =34%の相対リスク減少

副次評価項目

  • 心臓イベント複合(HR 0.60, P=0.039) → 有意に低下
  • 冠血行再建(HR 0.38, P=0.007) → 大幅に低下
  • 脳卒中(HR 0.78, P=0.17) → 有意差なし
  • 全死亡(HR 1.09, P=0.43) → 有意差なし

脂質低下効果

5年後の LDL-C 変化率:
  • エゼチミブ:−25.9%
  • 対照:−18.5%

結論

  • 75歳以上の高齢者における LDL-C 低下療法(エゼチミブ単独)が、心血管イベントの一次予防に有効であることを示した初めての大規模 RCT。
  • 特に 冠動脈疾患関連イベントを明確に減少 させた。
  • 脳卒中・全死亡には効果なし
  • オープンラベル、追跡ロス多数、早期終了などの限界のため、効果の大きさの解釈には注意が必要

進行中の大規模臨床試験
STAREE試験(オーストラリア) 0歳以上の地域在住高齢者約1万人を対象に、アトルバスタチン40mgまたはプラセボを比較する二重盲検試験で、心血管イベントと障害のない生存期間を主要評価項目としています
Zoungas S, Moran C, Curtis AJ, Spark S, Flanagan Z, Beilin L, Chong TT, Cloud GC, Hopper I, Kost A, McNeil JJ, Nicholls SJ, Reid CM, Ryan J, Tonkin AM, Ward S, Wierzbicki AS, Wolfe R, Zhou Z, Nelson MR; STAREE investigator group. Baseline Characteristics of Participants in STAREE: A Randomized Trial for Primary Prevention of Cardiovascular Disease Events and Prolongation of Disability-Free Survival in Older People. J Am Heart Assoc. 2024 Nov 19;13(22):e036357. doi: 10.1161/JAHA.124.036357. Epub 2024 Nov 15. PMID: 39548016; PMCID: PMC11681405.
PREVENTABLE試験(米国) 75歳以上の地域在住者2万人を対象に、アトルバスタチン40mgまたはプラセボを5年間投与し、認知症と身体障害を主要評価項目とする実用的試験です
 
 
Tanaka A, J Atheroscler Thromb (2025)
Tanaka A, Oyama K, Yakushiji Y, Natsuaki M, Mizuno A, Saito Y, Matsumoto S, Yamagami H, Kunieda T, Shibata S, Nishimoto M, Ayuzawa N, Shimabukuro M, Tsuchiya K, Okazaki H, Nomura A, Kaneko H, Kohsaka S, Yoshida M, Harada-Shiba M, Shimano H, Node K. Lipid Management for Secondary Prevention in Atherosclerotic Cardiovascular Disease: A Scoping Review and Scientific Report. J Atheroscler Thromb. 2025 Dec 22. doi: 10.5551/jat.65908. Epub ahead of print. PMID: 41423223.
 

 
一般的に高齢者の医療では、脂質の値だけではなく、フレイル(虚弱)の程度、認知機能、多剤併用による副作用(ポリファーマシー)、および患者さん自身の治療に対する意向を総合的に判断することが推奨されます。(具体的な推奨なし)
 

 
概要
動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)は二次予防において極めて高い心血管イベント再発リスクを伴い、その進展と予後にはLDLコレステロール(LDL-C)が重要な役割を果たす。近年、スタチン、エゼチミブ、PCSK9阻害薬による強力なLDL-C低下療法が心血管イベントを有意に減少させることが大規模臨床試験で示され、欧米のガイドラインでは二次予防におけるLDL-C管理目標がより厳格化されている。
本報告では、日本動脈硬化学会(JAS)のワーキンググループが、ASCVD(二次予防対象として冠動脈疾患[急性冠症候群・慢性冠症候群]、アテローム血栓性脳梗塞、末梢動脈疾患)を明確に定義したうえで、LDL-C管理目標に関するエビデンスを系統的に整理するスコーピングレビューを実施した。日本人患者を対象としたデータを含め、各ASCVDカテゴリーごとにスタチン治療の有効性および適切なLDL-C目標値を評価した。
その結果、急性冠症候群では早期からの高強度スタチン療法が有効であり、LDL-C<55 mg/dLを目標とすることが合理的と結論づけられた。慢性冠症候群、アテローム血栓性脳梗塞、末梢動脈疾患においても、LDL-C<70 mg/dLを基本目標とし、特に高リスク例では<55 mg/dLを考慮すべきとされた。本報告は、日本人ASCVD患者における二次予防のためのLDL-C管理目標について、最新エビデンスに基づく科学的見解を提示するものである。