β遮断薬

β遮断薬(βブロッカー)

1. 定義

β遮断薬(βブロッカー)とは、心臓・血管・気道・代謝組織などに存在するβアドレナリン受容体(β₁, β₂, β₃)のうち、主にβ₁受容体および/またはβ₂受容体を遮断することで、交感神経刺激による心拍数・心収縮力・末梢血管拡張・気道拡張などの応答を抑制し、心血管疾患やその他領域で有用な薬剤群です。
β遮断薬は以下のように大別されます。
非選択的β遮断薬
  • β₁受容体だけでなくβ₂受容体も同程度に遮断する。
  • 例:プロプラノロール、ナドロール、チモロール(点眼)、オクスプレノロールなど。
選択的β₁遮断薬(β₁セレクティブ)
  • β₁受容体への親和性が高く、β₂受容体への作用は相対的に弱い。
  • 例:アテノロール、メトプロロール、ビソプロロール、ベタキソロール、セビノロールなど。
ISA(内因性交感神経作動活性)をもつβ遮断薬
  • 低用量では弱いβ作動作用を示し、強い遮断作用と組み合わされる。
  • 例:ピンドロール、セラゾール(非選択的/選択的を問わず存在)。
α₁遮断作用を併せ持つβ遮断薬
  • β遮断に加え末梢血管のα₁受容体も遮断する二重拮抗作用を有する。
  • 例:カルベジロール、ラベタロール、セビノロール(一部α₁遮断作用あり)。
 

2. 作用機序

β₁受容体遮断
  • 心房・心室筋や洞房結節、房室結節に存在するβ₁受容体を遮断し、ノルアドレナリン/アドレナリンによる刺激を抑える。
  • → 心拍数(Chronotropy)の低下、心筋収縮力(Inotropy)の抑制、房室伝導(Dromotropy)の遅延により、心拍出量と心筋酸素消費量が減少する。
β₂受容体遮断
  • 気道平滑筋や血管平滑筋、骨格筋の血管にも存在するβ₂受容体を遮断すると、気道収縮や末梢血管収縮を招く可能性がある。
  • → 非選択的β遮断薬で特に気道閉塞リスクが高くなるため、喘息やCOPD例では慎重投与が必要。
ISA(内因性交感神経作動活性)
  • ISAをもつβ遮断薬は、完全遮断の反面として「一部のβ受容体を弱く刺激する作用」があり、安静時の心拍数低下を緩和し、動脈硬化患者の血流低下や末梢循環障害リスクをやや軽減する特徴がある。
  • → しかし、心筋保護や心不全適応ではISAがない薬剤のほうがエビデンスが強い。
α₁遮断作用併用薬
  • β遮断だけでなく末梢血管のα₁受容体も阻害し、血管拡張作用を付与する。
  • → 血圧低下効果を強めつつ反射性頻脈を抑制できるが、起立性低血圧リスクにも注意が必要。
 

3. 薬理作用ごとの特徴

β遮断薬はそれぞれの化学構造や受容体親和性、薬物動態的な性質の違いにより、以下のような特徴を示します。
受容体選択性
  • 非選択的:β₁とβ₂両方を遮断(プロプラノロール、ナドロール、チモロールなど)。
  • 選択的β₁:β₁への親和性が高く、β₂作用は相対的に弱い(アテノロール、メトプロロール、ビソプロロール、ベタキソロールなど)。
  • β₃への作用:β₃受容体遮断作用をもつ薬剤はほとんどなく、臨床的にはβ₁/β₂が中心。
内因性交感神経作動活性(ISA)
  • ISAをもつ薬剤は動悸や末梢冷感を若干軽減するが、心不全や心筋梗塞後管理ではISAのない薬剤(ビソプロロール、メトプロロール徐放など)が推奨される。
  • ISA例:ピンドロール(非選択的)、アセプロロール(β₁選択的だがISAあり)、セラゾールなど。
付加的α₁遮断作用
  • カルベジロール、ラベタロール、セビノロールは末梢血管のα₁も遮断し、血管拡張作用を有する。
  • → 血圧低下を強化できるが、起立性低血圧・末梢浮腫リスクがやや高まる。
脂溶性 vs 水溶性
  • 脂溶性:メトプロロール、ビソプロロール、プロプラノロールなど。肝代謝主体で中枢移行性が高く、倦怠感や抑うつ、睡眠障害が出やすい。
  • 水溶性:アテノロール、ベタキソロール、エスモロールなど。主に腎排泄で中枢移行性が低く、副作用として中枢系症状は少なめ。
半減期・投与頻度
  • 短時間型:エスモロール(静注、t₁/₂約9分で極めて短い)、メトプロロール速崩(t₁/₂約3~4時間)
  • 中間型:アテノロール(約6~7時間)、ベタキソロール(約12時間)、ピンドロール(約2~3時間)、ビソプロロール(約10~12時間)
  • 長時間型:メトプロロール徐放(約8~12時間)、ビソプロロール徐放、セビノロール(約18時間)、カルベジロール(約6~10時間だが活性代謝物を含むと長い)
  • 半減期が長い薬剤は1日1回投与で済むため、服薬アドヒアランスが向上する。
代謝・排泄経路
  • 肝代謝主体(CYP系):メトプロロール(CYP2D6)、ビソプロロール(CYP2D6一部)、プロプラノロール(CYP2D6など)。肝機能障害例は用量調整を検討。
  • 腎排泄主体:アテノロール、ベタキソロール、エスモロールの不活性代謝物など。腎機能低下例では用量調整が必要。
  • 複合排泄:カルベジロールは約50%が肝代謝、残りが腎排泄。
心血管リモデリング抑制能
  • ビソプロロールメトプロロール徐放などは、左室リモデリング抑制や心筋保護効果を示すエビデンスが強い。慢性心不全管理のガイドラインで推奨される代表薬。
  • プロプラノロールは心筋保護というよりも、強力なβ₁+β₂遮断により不整脈や心筋梗塞急性期管理に用いられる。

4. 主な薬剤例

5. 対象疾患

本態性高血圧症
  • β遮断薬は降圧薬としてACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、利尿薬と並ぶが、第一選択薬には位置づけられない。
  • 高心拍数を伴う高血圧例や若年者、狭心症合併例ではβ遮断薬が優先される場合がある。
狭心症
  • β₁遮断による心拍数低下で心筋酸素需要を減少させ、狭心症発作予防に有用。
  • プロプラノロール、メトプロロール徐放、ビソプロロール、ベタキソロールなどが狭心症適応を持つ。
  • 心筋梗塞急性期や二次予防では、β₁遮断薬が生命予後を改善するエビデンスがある。
不整脈
  • 心房細動/心房粗動:房室伝導を遅延させることで心室応答を制限し、心拍数コントロールを行う(メトプロロール、アテノロール、プロプラノロールなど)。
  • 心室頻拍:エスモロール静注がカテコラミン誘発性心室頻拍や術中頻拍に有用。
  • ワソラン(ベラパミル)やジソピラミドなど他剤と併用管理されるケースもある。
心不全(HFrEF)
  • ビソプロロールメトプロロールカルベジロールが左室駆出率低下型心不全の標準治療薬。
  • ACE阻害薬/ARB+β遮断薬+MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)を併用することで、生命予後改善と症状緩和効果を得る。
心筋梗塞後管理
  • 心筋梗塞急性期:プロプラノロール静注や経口β₁遮断薬を用いて心拍数や心筋酸素需要を抑制し、梗塞拡大を防ぐ。
  • 二次予防:心筋梗塞既往例において、適切なβ₁遮断薬(ビソプロロール、メトプロロール徐放など)を長期継続することで生命予後改善が示されている。
甲状腺機能亢進症
  • 甲状腺ホルモン増加による交感神経亢進から来る頻脈や振戦を緩和する。
  • プロプラノロールが第一選択となるが、喘息合併例や高齢者ではアテノロールメトプロロールが選択されることが多い。
眼科領域(緑内障)
  • チモロール点眼は開放隅角緑内障や高眼圧症に対し、房水産生抑制を介して眼圧を下降させる。
  • 点眼薬として用いられ、全身性の副作用発現リスクを考慮し、閉塞隅角緑内障や気道疾患合併例では慎重投与。
その他保険外適応
  • 緊張型頭痛や片頭痛予防に対して、プロプラノロールやメトプロロールが使用されることがある(国内では保険適用外)。
  • パニック障害や社会不安障害の身体症状緩和に非選択的β遮断薬(プロプラノロール)が用いられることがあるが、これも保険外。

6. 注意点・副作用

β遮断薬には、作用機序に由来する特徴的な副作用と、薬剤ごとの性質に応じた注意点があります。以下に主要なものをまとめます。
徐脈/高次房室ブロック
  • 概要:β₁遮断により洞結節の自動能が抑制され、房室伝導速度も低下する。投与開始時や増量時に心拍数が40〜50/分以下になる徐脈や、第2度、第3度房室ブロックを来すことがある。
  • 対策
    • 投与前に心電図で洞拍数、PR間隔、房室ブロックの有無を確認
    • 脈拍が50/分未満、または第2度・第3度房室ブロックがある場合は禁忌または慎重投与
    • 少量から漸増投与し、徐脈やめまい・失神など自覚症状がある場合は速やかに評価し、用量減少や中止を検討。
    • ペースメーカー既装着例では比較的安全に使用可能
気道攣縮・喘息悪化
  • 概要:非選択的β遮断薬(β₂遮断含む)は気道平滑筋のβ₂受容体を遮断し、気管支攣縮を起こしやすい。選択的β₁遮断薬でも高用量や腎機能低下例ではβ₂遮断作用が顕著になることがある。
  • 対策
    • 喘息やCOPD既往例は原則禁忌。どうしても必要な場合は選択的β₁遮断薬を最低有効用量で慎重投与し、気管支拡張薬(β₂作動薬)を併用する。
    • 呼吸苦や喘鳴が出現したら速やかに中止し、別の降圧薬や抗不整脈薬へ切り替え
末梢血管収縮・冷感/間欠性跛行悪化
  • 概要:β₂遮断による末梢血管拡張抑制で、特に末梢動脈疾患(PAD)やレイノー症候群を有する患者では冷え症や間欠性跛行を悪化させる。
  • 対策
    • 末梢血流障害合併例は慎重投与。症状増悪時には用量減少または他薬へ変更。
    • 必要に応じて末梢血管拡張薬(Ca拮抗薬、硝酸薬など)を併用し、手足の血流を改善する。
心不全悪化
  • 概要:β₁遮断による心収縮力低下で、うっ血性心不全が増悪する可能性がある。
  • 対策
    • 急性心不全(うっ血が強い状態)ではβ遮断薬は原則中止。鎮静的にエスモロールなど短時間型静注薬でモニタリングを行いながら心拍数を調整する場合がある。
    • 慢性心不全管理では、まずACE阻害薬/ARB/利尿薬などでうっ血をコントロールし、安定期に少量から漸増導入(ガイドライン通り)。
    • 投与開始後は体重・浮腫・呼吸困難など心不全徴候をモニタリングし、悪化時は速やかに用量調整または中止
代謝異常(耐糖能・脂質異常)
  • 概要:β遮断薬はインスリン分泌を抑制し、末梢インスリン抵抗性を増大させる可能性があるため、耐糖能異常や血中脂質プロファイル(↑トリグリセリド、↓HDL)が悪化しうる。
  • 対策
    • 糖尿病患者では血糖値やHbA1cを定期的に測定し、必要に応じて糖尿病薬を調整
    • 脂質異常症合併例はコレステロールやトリグリセリドの定期測定を行い、食事・運動療法やスタチン併用を検討
    • 選択的β₁遮断薬では影響は比較的軽度だが、長期投与で注意。
中枢神経症状(倦怠感・抑うつ・睡眠障害)
  • 概要:脂溶性β遮断薬(プロプラノロール、メトプロロール、ビソプロロールなど)は中枢移行性が高く、倦怠感、抑うつ、不眠、悪夢、集中力低下などを来すことがある。
  • 対策
    • 中枢副作用が強い場合は水溶性β遮断薬(アテノロール、ベタキソロール、エスモロールなど)への切り替えを検討
    • 倦怠感が強い場合は、投与タイミングを調整(就寝前→朝食後など)し、症状が改善するか観察
低血圧・起立性低血圧
  • 概要:心拍数低下と交感神経活動減弱により、特に高齢者、脱水例、他降圧薬併用例ではめまい・立ちくらみ・失神のリスクがある。
  • 対策
    • 少量から漸増投与し、血圧と脈拍を頻回に確認。
    • 服用タイミングを就寝前とし、起立性低血圧リスクを軽減する。
    • 他降圧薬との併用バランスを調整し、脱水傾向を避ける
薬剤性肝酵素上昇・肝障害(まれ)
  • 概要:β遮断薬自体による肝障害は稀だが、肝代謝型薬剤(メトプロロール、ビソプロロール、プロプラノロールなど)は肝機能障害例で代謝遅延をきたしやすい。重度肝障害例では用量調整や別剤選択を検討。
  • 対策
    • 投与前に肝機能検査を実施し、中等度以上の肝障害例では慎重投与
    • 肝酵素上昇が認められた場合は用量減少または休薬し、必要に応じて他剤へ切り替え
薬剤性アレルギー(発疹、かゆみ、血管性浮腫など)
  • 概要:まれに皮疹やかゆみ、血管性浮腫を来すことがある。機序は不明だが、全身性の過敏反応として扱う。
  • 対策
    • 初回投与後数日~数週間以内に皮疹などが出たら速やかに中止し、抗ヒスタミン薬やステロイド投与で対応。
    • 過敏既往歴がある患者では慎重投与し、早期に異常があれば他クラスへ変更
胎児・乳児への影響(慎重投与 / 禁忌)
  • 概要:β遮断薬は胎盤通過性があり、胎児心拍数低下、低血糖、呼吸抑制などを発生させる可能性がある。妊娠末期(妊娠36週以降)の投与には慎重が必要。
  • 対策
    • 妊娠中の女性には原則避け、他の安全な降圧薬(Ca拮抗薬、α₁遮断薬など)へ切り替える
    • 出生直後の乳児は低血糖や徐脈を起こす可能性があるため、投与中止後も数日間は慎重なモニタリングが必要。

7. 類薬との使い分け

β遮断薬を用いる際には、他の降圧薬や抗心不全薬、抗不整脈薬との使い分け・併用ポイントを理解しておくことが重要です。
非選択的β遮断薬 vs 選択的β₁遮断薬
  • 喘息やCOPD合併例:非選択的β遮断薬ではβ₂遮断による気道攣縮リスクが高いため、選択的β₁遮断薬を優先選択。
  • 代謝・脂質異常リスク:選択的β₁遮断薬では代謝異常リスクが若干低いが、プロプラノロールなど脂溶性薬剤は中枢移行しやすく副作用が出やすい。
  • 急性期の使用:頻拍性不整脈の急性期にはエスモロール静注やプロプラノロール静注が有用。慢性期管理では徐放型β₁遮断薬(メトプロロール徐放、ビソプロロールなど)を使用。
カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)との使い分け・併用
  • 狭心症合併例や高血圧例:DHP系Ca拮抗薬+β₁遮断薬併用により、β₁遮断で反射性頻脈を抑えつつ血管拡張による降圧を得られる。
  • 心機能低下例:non‐DHP系Ca拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)とβ₁遮断薬の併用は徐脈や房室伝導障害リスクが高いため、慎重投与。
ACE阻害薬/ARBとの使い分け・併用
  • 心不全管理:ACE阻害薬/ARBとβ₁遮断薬を併用することで、相乗的に左室リモデリング抑制や心機能改善が得られる。
  • 高血圧管理:ACE-I/ARB+β₁遮断薬の併用で、RA系ブロックと心拍数抑制を同時に実現するが、徐脈・低血圧・腎機能悪化・高カリウム血症リスクがあるため、段階的に投与開始・増量を行う。
利尿薬との併用
  • 相乗的降圧:β₁遮断薬と利尿薬併用により、心拍出量と循環血漿量の両面で調整されるため、降圧効果が強化される。
  • 脱水・電解質異常リスク:利尿薬併用で脱水や電解質(K⁺)異常が起こりやすいため、体重・血圧・電解質・腎機能を頻回にチェックし、必要なら利尿薬量を調整。
α₁遮断薬との併用
  • 良性前立腺肥大を伴う高血圧:α₁遮断薬(シロドシン、タムスロシンなど)で排尿症状を改善しつつ、β₁遮断薬で心拍数と心機能を抑制する。併用により血圧低下効果が強くなるが、起立性低血圧リスクも高まるため、少量から段階的に導入
抗不整脈薬(クラスIII、IVなど)との併用
  • クラスIII抗不整脈薬(ソタロール):β遮断作用と抗不整脈作用(K⁺チャネル遮断)を併せ持つ。併用ではQT延長や徐脈リスクを観察。
  • クラスIV抗不整脈薬(ベラパミル、ジルチアゼム):房室伝導を強力に抑制するため、β₁遮断薬と併用すると徐脈・AVブロックリスクが増大。併用は慎重かつ心電図モニタリングを厳密に行う
まとめ
ポイント:
β遮断薬は心血管疾患(高血圧、狭心症、心不全、不整脈など)や眼科・内分泌分野(緑内障、甲状腺機能亢進症)に幅広く応用される。
化学構造や受容体選択性、ISAの有無、付加的α₁遮断作用、脂溶性・水溶性、半減期、代謝排泄経路などが薬剤ごとに異なり、適切な薬剤選択が求められる。主な副作用としては「徐脈・AVブロック」「気道攣縮」「心不全悪化」「代謝異常」「末梢血管収縮による冷感」「中枢症状」「低血圧」などがあるため、投与前には心電図・肝腎機能・呼吸機能を評価し、投与後は血圧・脈拍・呼吸状態・代謝状態を定期的にモニタリングすることが重要である。他の降圧薬や抗不整脈薬との併用では相乗効果が期待できる一方、徐脈や低血圧、腎機能悪化などのリスクが増大するため、段階的導入と細やかな観察が必要となる。