抗てんかん薬

消化器症状・食欲不振

|薬効群

抗てんかん薬

抗てんかん薬の中でも特に食欲不振・体重減少を起こしやすい薬剤と、消化器症状(悪心・嘔吐)を起こしやすい薬剤がある。
食欲不振・体重減少を起こしやすい薬剤:
  • トピラマート(トピナ®)
  • ゾニサミド(エクセグラン®)
  • ルフィナミド(イノベロン®)
  • スチリペントール(ディアコミット®)
  • スルチアム(オスポロット®)
消化器症状(悪心・嘔吐)を起こしやすい薬剤:
  • バルプロ酸(デパケン®、セレニカ®)…悪心・嘔吐・食欲不振が多い
  • カルバマゼピン(テグレトール®)…悪心・嘔吐
  • フェニトイン(アレビアチン®)…悪心・嘔吐
  • レベチラセタム(イーケプラ®)…食欲減退は比較的少ないが、行動異常に注意
多くの抗てんかん薬は消化器症状を起こし得るが、特にトピラマートとゾニサミドは食欲不振・体重減少が特徴的な副作用である。一方、バルプロ酸・ガバペンチンは体重増加を起こしやすい。

|作用機序

抗てんかん薬による食欲不振は、薬剤により機序が異なる。

(1) 炭酸脱水酵素(CA)阻害作用(トピラマート・ゾニサミド)

  • トピラマート・ゾニサミドは炭酸脱水酵素(CA)阻害作用を有する
  • CA阻害により代謝性アシドーシスが生じ、食欲不振を引き起こす
  • また、味覚変化(特に炭酸飲料の味が変わる)を通じて食欲が低下する

(2) 中枢性食欲抑制(トピラマート・ゾニサミド)

  • 視床下部の摂食中枢への作用により、食欲を直接抑制する
  • トピラマートはグルタミン酸受容体(AMPA/カイニン酸型)拮抗作用も有し、これが食欲抑制に関与する可能性がある

(3) 消化管への直接刺激(バルプロ酸)

  • バルプロ酸は消化管粘膜を直接刺激し、悪心・嘔吐・食欲不振を起こす
  • 特に投与初期に多く、食後投与や徐放製剤で軽減できる場合がある

(4) 中枢神経抑制に伴う食欲低下

  • 多くの抗てんかん薬はGABA作用増強やNaチャネル阻害による中枢神経抑制作用を有する
  • 傾眠・めまい・運動失調により活動性が低下し、間接的に食欲不振に関与する

(5) 高アンモニア血症(バルプロ酸)

  • バルプロ酸は尿素サイクルを抑制し、高アンモニア血症を起こすことがある
  • 高アンモニア血症は悪心・嘔吐・食欲不振・意識障害の原因となる
⚠️
トピラマート・ゾニサミドでは発汗減少がみられることがあり、特に夏季は体温上昇・熱中症に注意が必要。また、尿路結石のリスクもあるため水分摂取を促す。

|薬剤別の食欲・体重への影響

薬剤食欲・体重特徴
トピラマート食欲不振・体重減少CA阻害+中枢性食欲抑制。精神症状・言語障害も併せて注意
ゾニサミド食欲不振・体重減少CA阻害+中枢性食欲抑制。認知機能低下にも注意
バルプロ酸悪心・嘔吐(体重増加も)消化管直接刺激。高アンモニア血症・膵炎にも注意
カルバマゼピン悪心・嘔吐中枢性の悪心が多い。低Na血症にも注意
フェニトイン悪心・嘔吐用量依存的に出現。歯肉増殖にも注意
ルフィナミド食欲減退小児てんかんに使用
レベチラセタム比較的少ない行動異常・不機嫌に注意
ラモトリギン比較的少ない食欲への影響は少ない

|対策

(1) 漸増投与

  • 少量から開始し、消化器症状や食欲の変化を確認しながら漸増する

(2) 薬剤の変更

  • 食欲不振が強い場合、食欲への影響が少ない薬剤(レベチラセタム、ラモトリギンなど)への変更を検討
  • バルプロ酸の悪心 → 徐放製剤(デパケンR®)への変更で軽減できる場合がある

(3) 服薬タイミングの工夫

  • バルプロ酸は食後に服用することで消化器症状を軽減できる

(4) 食事の工夫

  • 少量頻回食、高カロリー食品の提供
  • トピラマート・ゾニサミド服用中は十分な水分摂取を促す(尿路結石予防)

(5) 電解質・アンモニアのモニタリング

  • バルプロ酸服用中は血中アンモニア値を定期的に確認
  • トピラマート・ゾニサミド服用中は血液ガス(HCO₃⁻)を確認(代謝性アシドーシス)
 

|アセスメント

薬剤性の食欲不振(抗てんかん薬)を疑った場合、以下の項目を確認する。

(1) 時間的関連性

  • 抗てんかん薬の開始時期・増量時期と症状出現が一致するか?
  • 減量・中止後に症状が改善したか?(デチャレンジ)

(2) 消化器症状の評価

  • 食欲不振:程度・食事摂取量の変化
  • 悪心・嘔吐:頻度・程度・出現タイミング
  • 味覚変化:食べ物の味が変わったという訴え(CA阻害による)

(3) 食事摂取・体重の評価

  • 食事摂取量の変化:食欲不振により食事量が減少していないか
  • 体重の推移:意図しない体重減少がないか(特にトピラマート・ゾニサミド)
  • 脱水徴候:口渇、尿量減少
  • 低栄養のリスク:特に高齢者・小児ではサルコペニア・成長障害に注意

(4) 代謝性異常の確認

  • 代謝性アシドーシス(トピラマート・ゾニサミド):血液ガス(HCO₃⁻)の確認
  • 高アンモニア血症(バルプロ酸):血中アンモニア値の確認。悪心・意識障害の原因となる
  • 低ナトリウム血症(カルバマゼピン):悪心・倦怠感の原因となる

(5) 中枢神経症状の確認

  • 傾眠・めまい・運動失調:活動性低下による間接的な食欲不振
  • 精神症状:抱うつ、無関心、行動異常
  • 認知機能低下:特にトピラマート・ゾニサミド・フェノバルビタールで注意
  • 発汗減少(トピラマート・ゾニサミド):特に夏季の体温上昇・熱中症リスク

(6) 重篤な合併症の除外

  • 膵炎(バルプロ酸):強い腹痛・背部痛、血清リパーゼ・アミラーゼ上昇
  • 高アンモニア血症性脳症(バルプロ酸):意識障害・嘔吐
  • 尿路結石(トピラマート・ゾニサミド)

(7) 他の原因の除外

  • 消化器疾患の合併
  • 他の薬剤による消化器症状
  • てんかんの基礎疾患(脳腫瘍など)による症状
  • 抱うつ・精神症状による食欲低下
薬剤性を示唆する所見のまとめ
  • 抗てんかん薬の開始・増量と食欲不振・体重減少の出現に時間的関連がある
  • トピラマート・ゾニサミドでは食欲不振・体重減少が特徴的である
  • バルプロ酸では悪心・嘔吐が主たる症状である
  • 代謝性アシドーシスや高アンモニア血症などの代謝性異常が確認された
  • 減量・中止後に症状が改善した