皮内注射
表皮と真皮の間(皮内)に極少量の薬液を注入する投与法。主にアレルギー検査やツベルクリン反応検査など、診断目的で使用される。薬物治療目的の投与経路としてはほとんど用いられない。
投与経路の特徴
| 皮内注射(ID) | 参考:皮下注射(SC) | 参考:筋肉注射(IM) | |
|---|---|---|---|
| 投与部位 | 表皮と真皮の間 | 皮下組織 | 筋肉内 |
| 刺入角度 | ほぼ水平(5〜15°) | 10〜30° | 45〜90° |
| 針の太さ・長さ | 26〜27G / 短い針 | 23〜27G / 13〜16mm | 21〜23G / 25〜38mm |
| 注入量 | 0.02〜0.1 mL(極少量) | 最大2 mL | 最大5 mL |
| 吸収速度 | 極めて遅い | 緩やか | 中程度 |
| 主な目的 | 診断(アレルギー検査等) | 治療(インスリン等) | 治療(ワクチン等) |
| 注入後の変化 | 膨疹(ぼうしん)が形成される | 皮下に吸収 | 筋肉内に吸収 |
皮内注射の特徴
- 吸収が極めて遅い → 局所に薬液が留まりやすい → 診断目的に適する
- 注入後に皮膚表面に膨疹(直径6〜10mm程度の白い膨らみ)が形成されることで正しく皮内に入ったことを確認できる
- 真皮には免疫担当細胞(ランゲルハンス細胞・樹状細胞)が豊富 → アレルギー反応の観察に適する
- 薬物治療の目的ではほとんど使用されない(少量しか投与できないため)
皮内注射の適応
| 適応 | 使用薬剤・抗原 | 目的・詳細 |
|---|---|---|
| ツベルクリン反応検査 | ツベルクリン(PPD) | 結核感染の有無を判定前腕屈側中央に0.1 mL注入48時間後に発赤・硬結の大きさを測定 |
| 薬剤アレルギー検査 | 抗菌薬(ペニシリン系等)の希釈液 | 投与前のアレルギー反応の有無を確認15〜20分後に膨疹・発赤の変化を観察 |
| アレルゲン皮内テスト | 各種アレルゲン液 | アレルギーの原因物質を特定15〜20分後にⅠ型アレルギー反応を判定 |
| 局所麻酔 | リドカイン等(極少量) | 皮膚表面の局所麻酔(小手技前) |
| BCGワクチン | BCG(経皮接種) | 日本では管針法(スタンプ方式)だが、海外では皮内注射法もある |
注射手技
実施手順
- 部位の選定:前腕屈側(内側)が最も一般的
- 毛が少なく、皮膚が薄く、反応の観察がしやすい
- 日焼け・瘢痕・湿疹のない部位を選ぶ
- 消毒:アルコール綿で消毒し、完全に乾燥させる(消毒液の残留は反応に影響)
- 針の刺入:針の切り口を上向き(ベベルアップ)にして、皮膚に対してほぼ水平(5〜15°)で刺入
- 注入:ゆっくりと薬液を注入 → 膨疹の形成を確認
- 抜針:静かに抜針、揉まない(薬液が拡散してしまう)
正しく皮内に入った場合の確認ポイント
- 膨疹(ぼうしん)が形成される:直径約6〜10mmの白い膨らみ
- 皮膚表面に毛穴(鳥肌状)が見える
- 抵抗感が強い(皮下注射より注入に力が必要)
- 膨疹が形成されない場合 → 皮下に入ってしまった可能性 → 別の部位でやり直し
看護師が注意すべきこと
検査前の確認
- アレルギー歴の確認:特にアナフィラキシーの既往がある場合は慎重に
- 救急物品の準備:アナフィラキシーに備えて、アドレナリン・酸素・気道確保器具を準備
- 内服薬の確認:抗ヒスタミン薬・ステロイド服用中 → 反応が抑制される可能性あり → 医師に報告
検査中・検査後の観察
アレルギー検査時の重要観察ポイント
- 即時型反応(Ⅰ型):15〜20分後に判定
- 膨疹径・発赤径を測定し記録
- 対照(生理食塩水)との比較で判定
- 遅延型反応(Ⅳ型):48時間後に判定(ツベルクリン反応)
- 発赤の長径と硬結の有無・大きさを測定
- 検査中は患者のそばを離れない → アナフィラキシーの初期症状に注意
- 口腔内違和感・喉の締め付け感・呼吸困難・血圧低下・蕁麻疹
ツベルクリン反応の判定基準
| 判定 | 発赤径(長径) | 解釈 |
|---|---|---|
| 陰性(−) | 4mm以下 | 結核未感染の可能性BCG未接種の可能性 |
| 疑陽性(±) | 5〜9mm | BCG接種の影響の可能性 |
| 陽性(+) | 10mm以上 | 結核感染またはBCG接種の影響 |
| 強陽性(++) | 10mm以上+二重発赤・水疱・壊死 | 結核感染の可能性が高い |
ツベルクリン反応の注意点
- 判定は注射後48時間(最低でも72時間以内)
- 発赤ではなく硬結の大きさがより重要な指標(硬結 = 触って硬い部分)
- BCG接種歴がある場合、陽性になることがある → IGRA検査(QFT・T-SPOT)の方が特異性が高い
- 免疫抑制状態(HIV・ステロイド使用中)→ 偽陰性の可能性
その他の注意
- 注射後は部位を揉まない・こすらない・テープを貼らない(反応に影響する)
- ツベルクリン反応の場合、入浴は可能だが強くこすらないよう指導
- 複数のアレルゲンを検査する場合は2cm以上間隔をあける
- 記録:注射部位・注射時刻・薬液量・膨疹形成の有無を正確に記録