037 呼吸器概要
呼吸器の役割
外界から酸素(O₂)を取り込み、体内で生じた二酸化炭素(CO₂)を排出する。呼吸は、換気・拡散・肺血流・酸素運搬・呼吸調節が連続して成立する生命維持機能である。
① 呼吸器を構成する4つの系
| 構成 | 主な役割 | 障害時にみられること |
|---|---|---|
| 気道系 | 空気を肺胞まで運ぶ | 気道狭窄・分泌物・異物により、喘鳴、呼気延長、換気障害が起こる |
| 肺循環系 | 右心系から肺へ血液を送り、ガス交換後に左心系へ戻す | 肺血栓塞栓症や肺高血圧では、換気されても血流が不足する |
| 間質・肺胞系 | 肺胞と毛細血管の間でO₂・CO₂を拡散させる | 肺炎、肺水腫、間質性肺炎では拡散距離が増え、低酸素血症が起こる |
| 胸膜系 | 肺表面を覆い、胸郭運動に合わせて肺を広げる | 気胸・胸水・胸膜炎では肺が広がりにくくなり、胸痛や呼吸困難が起こる |
③ 呼吸が成立するまで
| 段階 | 機能 | 内容 |
|---|---|---|
| ① | 換気 | 横隔膜・呼吸筋の運動により、空気を肺胞へ出し入れする |
| ② | 拡散 | 肺胞気と肺毛細血管血液の間でO₂とCO₂を交換する |
| ③ | 肺血流 | ガス交換のための血液を肺胞周囲へ運ぶ |
| ④ | 運搬 | O₂は主にヘモグロビンと結合して組織へ運ばれ、CO₂は主に重炭酸イオンとして肺へ戻る |
| ⑤ | 組織呼吸 | 細胞がO₂を利用してエネルギーを産生し、CO₂を生じる |
換気と血流のバランス(V/Q)
- 空気が届いても血流がなければ、十分なガス交換はできない
- 血流があっても肺胞換気がなければ、酸素化できない
- 喘息・COPD・肺炎・肺血栓塞栓症などでは、換気血流比の不均衡が低酸素血症の原因となる
酸素化と換気は別に評価する。
SpO₂は主に酸素化を示す。CO₂排出=換気の評価には、呼吸数・呼吸の深さ・意識・呼気終末CO₂(EtCO₂)・動脈血ガスなどが必要である。
④ 呼吸運動と呼吸調節
呼吸筋
- 吸気:主に横隔膜が収縮し、胸腔が広がる
- 安静時の呼気:肺の弾性収縮により受動的に起こる
- 努力呼吸:胸鎖乳突筋・斜角筋・腹筋などの補助呼吸筋が働く
呼吸中枢
- 延髄・橋が呼吸のリズムを調節する
- 中枢化学受容器は主にCO₂上昇に伴うpH変化を感知する
- 末梢化学受容器は低酸素血症、CO₂、pH変化を感知する
CO₂と血液pH
- CO₂が蓄積するとH⁺が増え、呼吸性アシドーシスに傾く
- CO₂を過度に排出するとH⁺が減り、呼吸性アルカローシスに傾く
- 過換気では、口周囲・手足のしびれ、めまい、動悸、手指のこわばりなどが起こり得る
ポイントC:CO₂は単なる不要物ではなく、血液pHの維持に関与する。過換気によるCO₂の過剰排出は呼吸性アルカローシスを起こし、過換気症候群の症状につながる。[2]
⑤ 呼吸状態のアセスメント
観察の順序
- 気道:発声、いびき様呼吸、喘鳴、分泌物、異物
- 呼吸:呼吸数、深さ、リズム、胸郭運動、努力呼吸
- 酸素化:SpO₂、チアノーゼ、皮膚色
- 換気:意識状態、呼吸の深さ、EtCO₂、血液ガス
- 循環:脈拍、血圧、末梢冷感、尿量
重要な観察項目
- 呼吸数・呼吸パターン・左右差
- 会話の可否、起座呼吸、補助呼吸筋の使用
- 呼吸音:喘鳴、crackles、呼吸音減弱
- 咳、痰の量・色・粘稠度、血痰
- SpO₂、意識状態、チアノーゼ
- 胸痛、発熱、浮腫、体重変化
緊急性の高いサイン:会話困難、強い努力呼吸、呼吸数の著しい増減、SpO₂低下、チアノーゼ、意識低下、片側の呼吸音消失、突然の胸痛・呼吸困難。数値だけでなく患者の外観と経時変化を優先する。
⑥ 呼吸器薬を学ぶための全体像
| 治療の標的 | 主な薬効群 | 看護で確認すること |
|---|---|---|
| 気道を広げる | β₂刺激薬、抗コリン薬、テオフィリン | 呼吸音、呼吸困難、脈拍、振戦、吸入手技 |
| 気道炎症を抑える | 吸入ステロイド、抗ロイコトリエン薬、生物学的製剤 | 症状・増悪回数、感染、嗄声・口腔カンジダ、うがい |
| 痰を出しやすくする | 去痰薬、気道分泌調整薬 | 痰の量・性状、水分状態、排痰力 |
| 咳を抑える | 中枢性・末梢性鎮咳薬 | 咳の原因、痰の有無、眠気、呼吸抑制 |
| 感染を治療する | 抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬 | 培養、体温、呼吸状態、アレルギー、臓器機能 |
| 低酸素を補う | 酸素療法 | 投与デバイス・流量、SpO₂、意識、CO₂貯留リスク、火気管理 |
薬理学につなげる視点
呼吸器薬は「何の病名か」だけでなく、どこに問題があるか(気道・肺胞/間質・肺血流・胸膜・呼吸中枢)を考えると整理しやすい。投与前後で呼吸数、SpO₂、呼吸音、痰、会話、活動耐容能を比較し、治療効果と副作用を同時に評価する。
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