アセチルコリン(中枢)

アセチルコリン(ACh)

アセチルコリンとは

アセチルコリン(acetylcholine: ACh) は、コリンとアセチルCoAから コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT) により合成される神経伝達物質。中枢および末梢で幅広く作用する。シナプスで放出後、アセチルコリンエステラーゼ(AChE) により速やかに分解される。

中枢アセチルコリン神経系(脳内)

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脳内のACh神経は主に マイネルト基底核(Meynert基底核)中隔野 から起始し、大脳皮質や海馬に投射する。また、線条体には コリン作動性介在ニューロン が存在する。
機能起始→投射先内容関連する疾患・薬剤
認知機能・記憶Meynert基底核→大脳皮質・海馬ACh不足 → 認知機能低下・記憶障害アルツハイマー型認知症:AChE阻害薬(ドネペジル・リバスチグミン・ガランタミン)でACh↑
運動調節線条体のコリン作動性介在ニューロンドパミンとバランスを保つ。ACh優位 → 振戦・固縮パーキンソン病:ドパミン不足→相対的ACh優位。抗コリン薬(トリヘキシフェニジル・ビペリデン)でACh抑制
覚醒・注意脳幹・基底前脳→皮質覚醒系の維持抗コリン作用のある薬剤 → 眠気・せん妄

末梢アセチルコリンの作用

AChは末梢神経系において極めて重要な役割を果たす。運動神経・副交感神経・自律神経節すべてのACh作動性部位を理解することが、抗コリン薬の副作用を理解する鍵。
作用部位受容体作用関連薬剤
神経筋接合部(運動神経)Nₘ(ニコチン性)骨格筋収縮筋弛緩薬(スキサメトニウム等)、重症筋無力症にはAChE阻害薬
自律神経節(交感・副交感共通)Nₙ(ニコチン性)神経節伝達神経節遮断薬(ヘキサメトニウム:降圧薬としては現在ほぼ不使用)
副交感神経終末(各臓器)M(ムスカリン性)下表参照抗コリン薬(M受容体遮断)、コリン作動薬
副腎髄質Nₙカテコールアミン(アドレナリン)放出
汗腺(交感神経支配だが例外)M発汗促進抗コリン薬 → 発汗抑制

副交感神経(M受容体)の臓器別作用

臓器ACh(副交感神経刺激)の作用抗コリン薬で遮断すると
心臓心拍数↓(徐脈)心拍数↑(頻脈)
気管支収縮・分泌↑拡張・分泌↓
消化管運動促進・分泌↑運動抑制 → 便秘
膜胱排尿筋収縮 → 排尿促進排尿筋弛緩 → 尿闉
瞳孔縮瞳(瞳孔括約筋収縮)散瞳
涯腺・售液腺分泌↑口渇
眼房水流出促進 → 眼圧↓眼圧↑(緑内障悪化のリスク)

アセチルコリン受容体の種類

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ACh受容体は大きく ニコチン性(N)受容体ムスカリン性(M)受容体 の2系統に分類される。名前はニコチン(タバコ)とムスカリン(ベニテンググサ)に反応することに由来。
受容体サブタイプ主な分布主な機能関連薬剤
ニコチン性(N)Nₘ(筋肉型)神経筋接合部骨格筋収縮筋弛緩薬(スキサメトニウム・ロクロニウム)。重症筋無力症にはAChE阻害薬
Nₙ(神経節型)自律神経節、副腎髄質神経節伝達、カテコールアミン放出神経節遮断薬
ムスカリン性(M)M₁大脳皮質、海馬、胃壁細胞認知機能、胃酸分泌ピレンゼピン(M₁選択的拮抗薬、胃酸分泎抑制)
M₂心臓心拍数↓・房室伝導抑制アトロピン(M遮断 → 心拍数↑、前投薬)
M₃平滑筋、分泌腺消化管運動促進・排尿筋収縮・分泌促進ベタネコール(M₃刺激、排尿促進)、オキシブチニン(M₃遮断、過活動膜胱治療)
M₄中枢神経系認知機能(研究段階)特定の薬剤なし
M₅瞳孔括約筋、涯腺縮瞳・售液分泌

AChの合成・代謝経路と薬剤の作用点

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合成
コリン + アセチルCoA →(ChAT)→ アセチルコリン(ACh)
分解
ACh →(AChE)→ コリン + 酢酸
薬剤の作用点
  • AChE阻害薬:AChの分解を阻害 → ACh↑
    • アルツハイマー型認知症:ドネペジル・リバスチグミン・ガランタミン
    • 重症筋無力症:ピリドスチグミン・ネオスチグミン
    • 有機リン中毒:コリンエステラーゼ阻害 → プラリドキシム(PAM)+アトロピンで治療
  • 抗コリン薬(M受容体遮断)
    • パーキンソン病:トリヘキシフェニジル・ビペリデン
    • 過活動膜胱:オキシブチニン
    • 散瞳:アトロピン・トロピカミド
    • 麻酔前投薬:アトロピン
  • 筋弛緩薬(Nₘ受容体遮断):スキサメトニウム・ロクロニウム

AChが関与する主な疾患

疾患AChの状態治療の方向性
アルツハイマー型認知症脳内ACh 不足(Meynert基底核の変性)AChE阻害薬でACh↑
パーキンソン病ドパミン不足 → 相対的ACh 優位抗コリン薬でACh抑制(振戦に有効)
重症筋無力症Nₘ受容体に対する自己抗体 → ACh伝達 障害AChE阻害薬でACh↑、免疫抑制療法
過活動膜胱排尿筋のM₃受容体過活動抗コリン薬(オキシブチニン)でM₃遮断
有機リン中毒AChE阻害 → ACh 過剰アトロピン(M遮断)+PAM(AChE再活性化)
緑内障(閉塞隅角)ピロカルピン(M刺激 → 縮瞳 → 房水流出促進 → 眼圧↓)

抗コリン作用の副作用(要注意)

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多くの薬剤(抗精神病薬・三環系抗うつ薬・抗ヒスタミン薬・抗パーキンソン薬など)が 抗コリン作用 を持つ。副作用の理解には副交感神経の作用の「裏返し」と考えるとわかりやすい:
  • 口渇(售液分泌↓)
  • 便秘(消化管運動↓)
  • 尿闉(排尿筋弛緩)
  • 散瞳(瞳孔括約筋弛緩)→ 緑内障悪化リスク
  • 眼圧上昇(房水流出低下)
  • 頭脈↑(心拍数↑)
  • 認知機能低下・せん妄(中枢性抗コリン作用)→ 高齢者で特に注意
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アセチルコリンのポイント
  • 中枢ではMeynert基底核から投射し、認知機能・運動調節・覚醒 に関与
  • 末梢では 神経筋接合部(Nₘ)・自律神経節(Nₙ)・副交感神経終末(M) すべてでAChが使われる
  • 受容体は N(ニコチン性:Nₘ/Nₙ)M(ムスカリン性:M₁〜M₅) の2系統
  • アルツハイマー型認知症 はACh不足、パーキンソン病 は相対的ACh優位
  • 抗コリン作用 は口渇・便秘・尿闉・散瞳・認知機能低下の原因 → 高齢者で特に注意