鉄剤
- 適応の中心:鉄欠乏性貧血(出血・妊娠/授乳・栄養・吸収障害など原因を評価)
- 製剤:経口鉄(第一選択) と 静注鉄(内服困難/効果不十分/迅速補充が必要等)
- 治療目標:Hb改善+貯蔵鉄の補充(フェリチン)
鉄剤は造血を直接刺激する薬ではなく、ヘモグロビン合成に必要な材料である鉄を補充する薬。鉄欠乏によって滞っていたヘム合成を回復させ、赤血球産生と酸素運搬能を改善する。
経口鉄剤がヘモグロビンになるまで
| 段階 | 主な部位・分子 | 作用 |
|---|---|---|
| ① 吸収 | 十二指腸・上部空腸 DMT1 | 三価鉄(Fe³⁺)は二価鉄(Fe²⁺)に還元され、主にFe²⁺として腸管上皮細胞へ取り込まれる |
| ② 血中へ移行 | フェロポルチン | 腸管上皮細胞内の鉄は、貯蔵されるか、フェロポルチンを介して血中へ放出される |
| ③ 運搬 | トランスフェリン | 血中へ出た鉄はFe³⁺となってトランスフェリンに結合し、骨髄などへ運ばれる |
| ④ 赤芽球へ取り込み | 骨髄 トランスフェリン受容体 | 鉄–トランスフェリン複合体が赤芽球の受容体に結合し、細胞内へ取り込まれる |
| ⑤ ヘム合成 | 赤芽球のミトコンドリア | 鉄がプロトポルフィリンIXに組み込まれてヘムとなり、グロビンと結合してヘモグロビンを形成する |
| ⑥ 造血回復 | 骨髄・末梢血 | 網赤血球、赤血球、Hbが増加し、全身への酸素運搬能が改善する |
体内での鉄の行方
- 造血への利用:補充された鉄の多くは骨髄でヘモグロビン合成に使用される
- 貯蔵:余剰の鉄は肝臓・脾臓・骨髄などにフェリチンとして蓄えられる
- 再利用:老化赤血球はマクロファージに処理され、回収された鉄が再び造血に利用される
静注鉄剤の作用
- 消化管吸収を介さず血管内へ投与され、鉄–糖複合体などとして網内系に取り込まれる
- 鉄が徐々に放出されてトランスフェリンへ受け渡され、骨髄でヘム・ヘモグロビン合成に利用される
- 経口鉄が使いにくい場合、吸収障害、持続出血、CKD・透析、迅速な補充が必要な場合などに用いられる
ヘプシジンによる調節
肝臓で作られるヘプシジンはフェロポルチンを減少させ、腸管からの鉄吸収と貯蔵部位からの鉄放出を抑える。炎症やCKDではヘプシジンが上昇し、体内に鉄があっても骨髄で利用しにくい「機能的鉄欠乏」を起こし得る。
薬理作用からみた効果発現
- 治療開始後、まず網赤血球が増加し、その後Hbが数週間かけて上昇する
- Hbが正常化しても貯蔵鉄は不足していることがあるため、フェリチン・TSATの回復まで補充を継続する
- 鉄欠乏以外の貧血では十分な効果が得られないため、投与前に原因を確認する
| 代表薬(一般名) | 剤形 | ポイント |
|---|---|---|
| 硫酸鉄水和物 | 内服 | フェロ・グラデュメット®錠105mg。徐放性製剤。胃部不快感・悪心・便秘/下痢、黒色便などに注意 |
| フマル酸第一鉄 | 内服 | フェルム®カプセル100mg。徐放性製剤。1カプセル中、鉄として100mgを含有 |
| クエン酸第一鉄ナトリウム | 内服 | フェロミア®錠50mg/顆粒8.3%。錠剤は1錠中、鉄として50mgを含有 |
| 含糖酸化鉄 | 静注 | フェジン®静注40mg。経口鉄が困難・不適切な場合などに使用。過敏反応、血圧低下、鉄過剰に注意 |
| カルボキシマルトース第二鉄 | 静注 | フェインジェクト®静注500mg。1回に比較的大量の鉄を補充できる。過敏反応、低リン血症などに注意 |
| デルイソマルトース第二鉄 | 静注 | モノヴァー®静注500mg/1000mg。高用量の鉄補充が可能。過敏反応、血圧変動、鉄過剰などに注意 |
- 効果判定:Hb、網赤血球、フェリチン、TSAT(必要に応じて)
- 消化器症状(内服):悪心、胃部不快感、便秘/下痢。黒色便はよくあるが、出血との鑑別は必要
- 相互作用/服薬指導(内服):
- 吸収低下:制酸薬、Ca/乳製品、茶/コーヒー等(タンニン)など
- 服用タイミングは副作用と吸収のバランスで調整(指示に従う)
- 静注時の安全管理:
- 過敏反応(発疹、呼吸苦、喘鳴、血圧低下)
- 注射部位(漏出/疼痛)、投与速度(プロトコル遵守)
鉄欠乏の原因(出血源、吸収障害など)を見逃さない。静注鉄は過敏反応に備えて投与中/後を観察し、急変時対応ができる体制で実施する。