page icon

狭心症

狭心症

概要

狭心症(angina pectoris)は、冠動脈の狭窄や攣縮により心筋への血流が一時的に不足し、心筋虚血 を生じる疾患である。心筋梗塞とは異なり、心筋の壊死には至らない。

分類

1. 労作性狭心症(安定狭心症)

  • 冠動脈の 動脈硬化 による器質的狭窄が原因
  • 運動・労作時に心筋の酸素需要が増加し、狭窄した冠動脈では十分な血流を供給できず虚血が発生
  • 安静にすると症状は改善する
  • ニトログリセリン舌下で速やかに改善

2. 冠攣縮性狭心症(異型狭心症・Prinzmetal型狭心症)

  • 冠動脈の 攣縮(スパズム) により血管が一過性に閉塞・狭窄
  • 安静時(特に早朝・夜間)に発作が起こることが多い
  • 心電図ではST上昇を認める
  • 喫煙・飲酒・ストレスが誘因

3. 不安定狭心症

  • 安定狭心症が増悪した状態(発作の頻度増加・持続時間延長・安静時にも発症)
  • プラークの破綻と血栓形成が関与
  • 急性冠症候群(ACS) の一型であり、心筋梗塞への移行リスクが高い

主な症状

  • 胸痛・胸部圧迫感:前胸部の締めつけ感・圧迫感(数分〜15分程度)
  • 放散痛:左肩・左腕・顎・背部への痛み
  • 随伴症状:息切れ、動悸、冷汗
⚠️
心筋梗塞との鑑別:狭心症はニトログリセリン舌下で改善するが、心筋梗塞では改善しない。また、狭心症の胸痛は通常15分以内に治まるが、心筋梗塞では30分以上持続する。

薬物治療

狭心症の薬物治療は、発作の寛解(治療)発作の予防 を目的とする。

治療の基本原則

  • 心筋の酸素需要を減少させる(心拍数↓・血圧↓・心筋収縮力↓)
  • 心筋への酸素供給を増加させる(冠動脈拡張・攣縮解除)

1. 硝酸薬(有機硝酸エステル)

血管平滑筋でNO(一酸化窒素)を遊離し、cGMPを増加させて血管を拡張する。
  • 静脈拡張(主作用)→ 前負荷の軽減 → 心筋酸素需要の減少
  • 冠動脈拡張 → 心筋への酸素供給の増加
  • 冠攣縮の解除にも有効
薬剤名用途
ニトログリセリン(舌下錠・スプレー)発作時の頓用(即効性)
硝酸イソソルビド発作予防(持続性製剤)
💡
耐性:硝酸薬の連続使用により耐性が生じやすい。休薬期間を設けることが重要である。

2. β遮断薬

心臓のβ₁受容体を遮断し、心拍数・心筋収縮力を低下させて心筋酸素需要を減少させる。
  • プロプラノロール(非選択的β遮断薬)
  • アテノロールメトプロロールビソプロロール(β₁選択的)
⚠️
冠攣縮性狭心症には禁忌:β遮断によりα受容体が優位になり、冠攣縮が増悪する可能性がある。
  • 主に 労作性狭心症 の発作予防に使用

3. Ca²⁺拮抗薬(カルシウム拮抗薬)

血管平滑筋のL型Ca²⁺チャネルを遮断し、冠動脈を拡張して酸素供給を増加させる。

ジヒドロピリジン系

  • ニフェジピンアムロジピン
  • 血管選択性が高く、強力な冠動脈拡張作用
  • 反射性頻脈に注意

ベンゾチアゼピン系

  • ジルチアゼム
  • 冠動脈拡張+心拍数抑制の両方の作用
  • 冠攣縮性狭心症に特に有効

フェニルアルキルアミン系

  • ベラパミル
  • 心筋抑制作用が強い(心拍数↓・収縮力↓)
💊
冠攣縮性狭心症の第一選択はCa²⁺拮抗薬(ジルチアゼム、ニフェジピンなど)である。

4. 抗血小板薬

動脈硬化性狭心症において、血栓形成を予防する。
  • アスピリン(低用量):COX-1阻害 → TXA₂産生抑制
  • 不安定狭心症では DAPT(アスピリン+P2Y₁₂阻害薬)が使用される

5. スタチン

LDLコレステロールを低下させ、動脈硬化の進行を抑制する。
  • アトルバスタチンロスバスタチン など
  • プラークの安定化作用も期待される

6. その他

  • ニコランジル:硝酸薬様のNO供与作用 + K⁺チャネル開口作用を併せもつ。冠動脈拡張と心筋保護効果がある

病型別の薬物治療選択

病型第一選択併用・追加注意点
労作性狭心症β遮断薬硝酸薬、Ca²⁺拮抗薬、アスピリン、スタチンニトログリセリン舌下は発作時に頓用
冠攣縮性狭心症Ca²⁺拮抗薬硝酸薬β遮断薬は禁忌(攣縮増悪の恐れ)
不安定狭心症抗血小板薬(DAPT)、抗凝固薬硝酸薬、β遮断薬心筋梗塞移行リスクが高く、早急な対応が必要

まとめ:狭心症治療薬の一覧

薬物分類代表薬主な作用機序適応する病型
硝酸薬ニトログリセリン、硝酸イソソルビドNO遊離→cGMP↑→血管拡張全病型(発作時・予防)
β遮断薬プロプラノロール、アテノロール心拍数↓・収縮力↓→酸素需要↓労作性(冠攣縮には禁忌)
Ca²⁺拮抗薬ニフェジピン、ジルチアゼムL型Ca²⁺チャネル遮断→冠動脈拡張冠攣縮性(第一選択)、労作性
抗血小板薬アスピリン、クロピドグレルCOX-1阻害、P2Y₁₂阻害動脈硬化性狭心症、不安定狭心症
スタチンアトルバスタチンHMG-CoA還元酵素阻害→LDL↓動脈硬化性狭心症
ニコランジルニコランジルNO供与+K⁺チャネル開口労作性狭心症