吸入抗コリン薬
吸入抗コリン薬は、気道のムスカリン受容体(主にM₃)を遮断して、迷走神経による気管支収縮・粘液分泌を抑制する 気管支拡張薬 。 短時間作用型(SAMA)と長時間作用型(LAMA)に分かれ、LAMAは COPD治療の第一選択薬 として位置づけられる。吸入投与のため全身性の抗コリン作用は少ないが、緑内障・前立腺肥大には注意が必要。
- 気道平滑筋・粘膜下腪の ムスカリンM₃受容体 を競合的に遮断
- 通常、迷走神経から遊離された アセチルコリン(ACh) がM₃受容体に結合すると:
- Gqタンパク質 → PLC活性化 → IP₃↑ → 細胞内Ca²⁺↑ → 気管支平滑筋収縮・粘液分泌亢進
- 抗コリン薬はこの経路を 遮断 することで:
- 気管支平滑筋の収縮抑制 → 気管支拡張
- 粘液分泌の抑制 → 痰の減少
- β₂刺激薬(cAMP↑)とは 異なる機序 → 併用で相加効果
- COPDでは迷走神経緊張が気道収縮の主因 → 抗コリン薬が特に有効
- LAMAは一部の薬剤で M₃選択性 が高く、M₂(自己受容体)からの解離が速い → ACh遊離のネガティブフィードバックを保持 → 副作用軽減
SAMA(短時間作用型吸入抗コリン薬)
| 一般名 | 商品名 | 剤形 | 特徴・備考 |
|---|---|---|---|
| イプラトロピウム | アトロベント® | pMDI | 作用発現:15〜30分、持続:4〜6時間。発作時にSABAと併用。 |
イプラトロピウム(アトロベント®)[pMDI]

LAMA(長時間作用型吸入抗コリン薬)
| 一般名 | 商品名 | 剤形 | 特徴・備考 |
|---|---|---|---|
| チオトロピウム | スピリーバ® | DPI(ハンディヘラー)/SMI(レスピマット®) | LAMAの代表薬。1日1回。1回2吸入。作用持続24時間以上。喘息にも適応あり。 |
| グリコピロニウム | シーブリ® | DPI(ブリーズヘラー®) | 1日1回。LABA配合剤:ウルティブロ®(+インダカテロール) |
| ウメクリジニウム | エンクラッセ® | DPI(エリプタ®) | 1日1回。LABA配合剤:アノーロ®(+ビランテロール) |
| アクリジニウム | エクリラ® | DPI(ジェヌエア®) | 1日2回。COPD用。 |
チオトロピウム(スピリーバ®)[DPI]
吸入用カプセルをセットして使う

チオトロピウム(スピリーバ®)[SMI]

グリコピロニウム(シーブリ®)[DPI]

ウメクリジニウム(エンクラッセ®)[DPI]

アクリジニウム(エクリラ®)[DPI]

主な配合剤
| 配合内容 | 商品名 | 用途 |
|---|---|---|
| LAMA/LABA | ウルティブロ®、スピオルト®レスピマト、アノーロ® | COPDの長期管理(相加効果) |
| ICS/LAMA/LABA(トリプル) | テリルジー®、ビレーズトリ® | 重症COPD・難治性喘息 |
| SABA/SAMA | コンビベント® | 急性発作時(相加効果) |
- 吸入手技の確認・指導
- デバイスごとに操作が異なるため、切り替え時には再指導が必要
- DPI(ハンディヘラー・ブリーズヘラー等):強く深く吸入
- SMI(スピリーバ®レスピマト):噴霧がゴャで同調が容易。高齢者にも使いやすい
- pMDI(アトロベント®):噴霧と吸気の同調が必要
- 吸入後は 息止め(5〜10秒)
- ⚠️ 緑内障への注意
- 閉塞隅角緑内障 の患者には 禁忌
- 吸入液が直接眼に入ると 急性緑内障発作 のリスク
- ネブライザー使用時は マウスピースを密着 させ、薬液が眼に入らないよう注意
- 眼痛・視力低下・充血があれば直ちに受診するよう指導
- ⚠️ 前立腺肥大・排尿障害への注意
- 抗コリン作用により 排尿困難・尿闉 が生じることがある
- 前立腺肥大の既往がある高齢男性は特に注意
- 排尿状況(尿量・残尿感・排尿困難)を観察
- 副作用の観察
- 口渇:最も多い副作用。こまめな水分摂取・口腔ケアを推奨
- 便秘:消化管運動の抑制
- 頭痛・めまい
- 咳嗽:吸入時の局所刺激による
- 全身性抗コリン作用は吸入投与のため比較的少ないが、高齢者では注意
- 継続使用の重要性
- LAMAは毎日定時に使用(発作止めではない)
- 症状がなくても自己判断で中止しないよう指導
- 効果判定
- 呼吸困難・運動耐容能の改善
- COPD増悪頻度の減少
- FEV₁(努力性肺活量1秒率)の改善
COPD
- LAMAはCOPD治療の第一選択薬 の一つ
- 単剤で不十分 → LAMA/LABA配合剤 で相加効果
- 增悪頻回・好酸球高値 → ICS追加(トリプル療法:ICS/LAMA/LABA)
- 急性増悪時 → SABA±SAMAで対応
気管支喘息
- ICS/LABAでコントロール不良な場合 → LAMA追加(ステップ4以上)
- チオトロピウム(スピリーバ®レスピマト)が喘息にも適応
- 重症発作時 → SABA+SAMAの併用で相加効果
ACO(喘息-COPDオーバーラップ)
- ICS/LABA+LAMAのトリプル療法が基本
- 他の抗コリン作用薬との併用 → 抗コリン作用が相加的に増強
- 口渇・便秘・排尿困難・眼圧上昇のリスク増大
- 主な抗コリン作用薬:三環系抗うつ薬、フェノチアジン系、抱水クロラール、パロキセチン、一部の抗ヒスタミン薬等
- β₂刺激薬との併用 → 異なる機序で 相加的な気管支拡張効果(配合剤多数)
- 緑内障治療薬(ピロカルピン等) との相互作用は報告ないが、緑内障の有無自体を確認することが重要
- 全般的に吸入抗コリン薬は全身吸収が少ないため、薬物相互作用は比較的少ない
- LAMA同士の併用(例:LAMA単剤+LAMA/LABA配合剤)は 過量投与 となるため避ける