心筋梗塞
心筋梗塞
概要
心筋梗塞(myocardial infarction: MI)は、冠動脈の閉塞により心筋への血流が途絶え、心筋細胞が壊死に至る疾患である。主な原因は 動脈硬化性プラークの破綻 と、それに続く 血栓形成 による冠動脈の急性閉塞である。
病態生理
- 冠動脈の動脈硬化(粥状硬化)が進行
- プラークが破綻し、血管内皮が損傷
- 血小板の粘着・凝集が起こり、血栓が形成
- 冠動脈が閉塞し、心筋への酸素供給が途絶
- 心筋細胞が虚血→壊死に至る
主な症状
- 胸痛:前胸部の激しい圧迫感・絞扼感(30分以上持続、ニトログリセリンで改善しない)
- 放散痛:左肩・左腕・顎・背部への痛み
- 随伴症状:冷汗、悪心・嘔吐、呼吸困難、不安感
- 無痛性心筋梗塞:高齢者や糖尿病患者では胸痛を伴わないことがある
診断
- 心電図:ST上昇(STEMI)またはST非上昇(NSTEMI)
- 血液検査:心筋逸脱酵素の上昇(トロポニンT/I、CK-MB、AST、LDH)
- 冠動脈造影:閉塞部位の確認
薬物治療
心筋梗塞の治療は 急性期治療 と 二次予防(再発予防) に大別される。
急性期の薬物治療
1. 抗血小板薬
血小板凝集を抑制し、血栓の拡大を防ぐ。
- アスピリン(低用量):COX-1を不可逆的に阻害し、トロンボキサンA₂(TXA₂)の産生を抑制
- クロピドグレル、プラスグレル:ADP受容体(P2Y₁₂)を阻害し、血小板凝集を抑制
- 急性期には DAPT(抗血小板薬2剤併用療法) が標準(アスピリン+P2Y₁₂阻害薬)
2. 抗凝固薬
血栓の進展を防止する。
- ヘパリン(未分画ヘパリン):アンチトロンビンⅢを介してトロンビン・第Ⅹa因子を阻害
- PCI(経皮的冠動脈インターベンション)施行時に使用
3. 血栓溶解薬
PCIが迅速に行えない場合に考慮される。
- アルテプラーゼ(t-PA):フィブリンに結合してプラスミノーゲンをプラスミンに変換し、血栓を溶解
4. 硝酸薬
冠動脈の拡張と前負荷の軽減により、心筋酸素需要を低下させる。
- ニトログリセリン(舌下錠・静注):血管平滑筋においてNO(一酸化窒素)を遊離し、cGMPを増加させて血管を拡張
- 心筋梗塞ではニトログリセリン舌下で改善しないことが 狭心症との鑑別点
5. β遮断薬
心拍数・心筋収縮力を低下させ、心筋酸素需要を減少させる。
- プロプラノロール、メトプロロール、ビソプロロール など
- 不整脈の予防、梗塞巣の拡大防止にも有用
6. モルヒネ
- 激しい胸痛の緩和、不安の軽減
- 静脈拡張による前負荷軽減効果もある
二次予防(再発予防)の薬物治療
心筋梗塞後は再発予防として、以下の薬剤を長期的に継続する。
1. 抗血小板薬
- アスピリン:生涯にわたり継続
- DAPT:PCI後、一定期間(通常6〜12ヶ月)継続後、アスピリン単剤へ
2. スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)
LDLコレステロールを低下させ、プラークの安定化・退縮を促す。
- アトルバスタチン、ロスバスタチン など
- プラークの安定化作用(抗炎症作用)も重要
3. ACE阻害薬 / ARB
心臓リモデリングの抑制、心不全の予防。
- エナラプリル、リシノプリル(ACE阻害薬)
- バルサルタン、カンデサルタン(ARB):ACE阻害薬で咳嗽が出る場合に代替
4. β遮断薬
- 心筋梗塞後の死亡率低下のエビデンスが確立
- 長期投与により心臓突然死のリスクを減少
5. 抗アルドステロン薬
- スピロノラクトン、エプレレノン
- 左室機能低下を伴う場合に追加