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躁病

躁病・双極性障害

躁病とは

気分が異常に高揚し、活動性の増大・多弁・誇大性・睡眠欲求の減少・易怒性 などを主徴とする病態。社会的・職業的機能の著しい障害を伴う。多くの場合、双極性障害(bipolar disorder) の躁病相として出現する。

双極性障害の概要

💡
双極性障害 は、躁病相(または軽躁病相)と うつ病相 を反復する気分障害。うつ病(単極性)とは治療が大きく異なるため、鑑別が重要。
  • 双極性Ⅰ型:躁病エピソード(重度)+うつ病エピソード
  • 双極性Ⅱ型:軽躁病エピソード+うつ病エピソード
  • うつ病相から発症し、後に躁病相が現れて初めて双極性障害と診断されることが多い

躁病相の主な症状

症状内容
気分高揚異常なほど明るく、開放的、易怒的な気分
活動性の増大目標指向性の活動が著しく増加。休まず動き回る
多弁・多動観念奔逸(次々と考えが飛ぶ)、多弁(しゃべり続ける)
睡眠欲求の減少短時間の睡眠でも疲れを感じない
誇大性自分の能力や地位を過大評価。誇大妄想に至ることも
浪費・脱抑制無謀な買い物、性的逸脱、危険な行動
易怒性ささいなことで激怒する

薬物治療

気分安定薬(ムードスタビライザー)

双極性障害の治療の中心。躁病相の改善再発予防(躁・うつの両方) に使用。
代表薬(一般名)先発品例作用機序・特徴
炭酸リチウムリーマス®気分安定薬の第一選択。躁病の急性期治療・再発予防 に有効。作用機序は完全には解明されていない(イノシトールリン酸回路の抑制等)。有効血中濃度が狭い → 血中濃度モニタリングが必須(0.6〜1.2 mEq/L)
バルプロ酸ナトリウムデパケン®抗てんかん薬。躁病急性期・再発予防に有効。GABA作用增強等。肝機能障害・催奇形性 に注意(妊娠可能年齢の女性には原則禁忌)
カルバマゼピンテグレトール®抗てんかん薬。躁病急性期・再発予防。Naチャネル阻害。有効血中濃度が狭い。Stevens-Johnson症候群無顔粒球症 のリスク。血中濃度モニタリングが必要
ラモトリギンラミクタール®抗てんかん薬。双極性障害の うつ病相の再発予防 に有効。Naチャネル阻害。重篤な皮膚障害(SJS・TEN)のリスク → 漸増投与が必須

非定型抗精神病薬(躁病に使用)

躁病急性期の治療や、気分安定薬との併用で使用される。
代表薬(一般名)先発品例特徴
オランザピンジプレキサ®MARTA。躁病急性期に有効。体重増加・耐糖能異常に注意
クエチアピンセロクエル®MARTA。躁病・双極性うつ病相にも有効
アリピプラゾールエビリファイ®DSS(D₂部分アゴニスト)。躁病急性期・再発予防。代謝性副作用が少ない

躁病の急性期治療と維持療法

治療段階目的主な薬剤
急性期治療躁症状の逓速な改善リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、非定型抗精神病薬(オランザピン・アリピプラゾール)。重症例では併用
維持療法躁・うつの再発予防リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン、アリピプラゾール。長期的な服薬が必要

リチウムの重要ポイント

⚠️
リチウムは有効血中濃度の範囲が狭い(治療域が狭い)
  • 有効血中濃度:0.6〜1.2 mEq/L
  • 中毒域:1.5 mEq/L以上 → 重篤な中毒症状
  • 定期的な血中濃度モニタリングが必須
リチウム中毒の症状
  • 軽度:悪心・嘔吐・下痢・振戦・口渇
  • 中等度:せん妄・運動失調・傾眠
  • 重度:意識障害・痙攻・腔不全・致死的
血中濃度が上昇する状況
  • 脱水(発熱・下痢・発汗・嘔吐)
  • 腎機能低下(リチウムは腎排泄)
  • NSAIDsACE阻害薬ARB利尿薬(特にサイアザイド)との併用
  • 低ナトリウム食(Naと競合的に再吸収されるため)
その他の副作用
  • 甲状腺機能低下(定期的な甲状腺機能検査)
  • 腎性尿崩症(多飲・多尿)
  • 体重増加
  • 催奇形性(Ebstein奇形)→ 妊娠初期は禁忌

うつ病(単極性)と双極性障害の治療の違い

💡
双極性障害とうつ病(単極性)では薬物治療が大きく異なる:
項目うつ病(単極性)双極性障害
治療の中心抗うつ薬(SSRI・SNRI等)気分安定薬(リチウム・バルプロ酸等)
抗うつ薬の使用第一選択原則単独使用しない(躁転のリスク)
躁転抗うつ薬単独投与で躁病相に転じる(躁転)リスク
維持療法抗うつ薬の継続気分安定薬の長期継続

看護のポイント(観察事項)

🩺

躁病相の観察:

  • 気分・行動の変化:誇大的発言・易怒性・多弁・不眠・浪費行為の有無
  • 睡眠状況:睡眠欲求の減少を観察(入眠困難とは異なり「眠る必要を感じない」)
  • 自傷・他傷のリスク:脱抑制・易怒性によるリスク評価
  • 服薬アドヒアランス:躁病相では「自分は健康」と感じて服薬を中断しやすい

リチウム使用時の観察:

  • 定期的な血中濃度モニタリング(0.6〜1.2 mEq/L)
  • 中毒症状の早期発見:悪心・嘔吐・振戦・せん妄・意識障害
  • 脱水の予防:十分な水分摂取の指導。発熱・下痢・発汗時は特に注意
  • 併用薬の確認:NSAIDs・利尿薬・ACE阻害薬・ARBはリチウム血中濃度を上昇させる
  • 甲状腺機能・腎機能の定期検査
  • 急な中止を避ける → 再発のリスク

バルプロ酸使用時の観察:

  • 肝機能検査(肝障害のリスク)
  • 催奇形性:妊娠可能年齢の女性には原則禁忌。避妊の確認
  • 体重増加・脱毛・振戦の観察
例えば、診察室ではうつ状態の症状しか見られないが、それ以外の場面で、「躁状態」のエピソードがある→医師に共有すべき重要な情報