鉄欠乏性貧血

鉄欠乏性貧血

病態

鉄欠乏性貧血(IDA:iron deficiency anemia)は、体内の鉄が不足してヘモグロビン合成が低下し、十分な赤血球を作れなくなる貧血。典型的には小球性低色素性貧血を示すが、初期にはMCVが正常のこともある。

鉄欠乏が貧血になるまで

段階体内で起こること主な検査変化
① 貯蔵鉄の減少肝臓・骨髄などに蓄えられた鉄が減るフェリチン低下。Hbは正常のことがある
② 鉄欠乏性造血骨髄への鉄供給が不足し、ヘモグロビン合成が低下血清鉄・TSAT低下、TIBC上昇
③ 鉄欠乏性貧血小さく色の薄い赤血球が増え、酸素運搬能が低下Hb・MCV・MCH低下、RDW上昇

主な原因

原因代表例確認するポイント
慢性出血月経過多、子宮筋腫、消化管出血、痔、頻回の献血など月経量、黒色便・血便、鎮痛薬使用歴、消化器症状
鉄需要の増加妊娠・授乳、成長期年齢、妊娠の有無、食事摂取状況
摂取不足偏食、過度なダイエット、低栄養食事内容、体重変化、生活背景
吸収障害胃切除後、セリアック病、炎症性腸疾患など消化管疾患・手術歴、下痢、経口鉄への反応
その他持続する血尿、寄生虫症など症状と背景に応じて原因検索
⚠️
成人男性や閉経後女性の鉄欠乏では、消化管出血などの原因検索が特に重要。鉄剤の投与だけで終わらせず、鉄が不足した理由を確認する。

主な症状

分類症状・所見
貧血の一般症状倦怠感、易疲労感、息切れ、動悸、めまい、頭痛、集中力低下
身体所見皮膚・眼瞼結膜の蒼白、頻脈。重症時には胸痛、失神、心不全
鉄欠乏に特徴的異食症(氷食症など)、匙状爪、舌炎、口角炎、嚥下障害、脱毛、むずむず脚症候群など

検査・診断

💡
Hb低下+フェリチン低下が診断の中心。血清鉄は日内変動や食事の影響を受けるため、フェリチン・TIBC・TSATなどを組み合わせて評価する。

① 血算

検査項目典型的な変化読み方
Hb・Ht貧血の程度を評価
MCV↓(80 fL未満)小球性。ただし初期は正常の場合がある
MCH・MCHC低色素性を示す
RDW赤血球の大きさのばらつきが増える。早期から上昇することがある
網赤血球低値〜正常治療開始後に増加すれば造血反応の目安となる
血小板正常〜↑反応性に増加することがある

② 鉄代謝検査

検査項目典型的な変化意味・注意点
血清フェリチン貯蔵鉄の指標。低値は鉄欠乏を強く示唆するが、炎症・感染・肝疾患では見かけ上高くなる
血清鉄変動が大きいため単独では判断しない
TIBC鉄を運搬できる能力が増加
UIBC鉄と結合していないトランスフェリンが増加
TSATトランスフェリン飽和度。利用可能な鉄の不足を反映
CRP背景による炎症の有無を確認し、フェリチンを解釈する

③ 慢性炎症に伴う貧血との鑑別

検査鉄欠乏性貧血慢性炎症に伴う貧血
血清鉄
フェリチン正常〜↑
TIBC正常〜↓
TSAT
CRP通常は正常↑のことが多い

④ 原因検索

  • 問診:月経量、妊娠、食事、献血、薬剤(NSAIDs・抗血栓薬など)、消化器症状
  • 出血評価:便潜血、尿検査、婦人科的評価
  • 必要に応じて上部・下部消化管内視鏡検査
  • 治療しても改善しない場合は、服薬状況、吸収障害、持続出血、診断の再検討を行う

治療

治療の基本は、原因の除去・治療+鉄補充。Hbの正常化だけでなく、フェリチンを確認しながら貯蔵鉄を回復させる

① 原因治療

  • 月経過多・婦人科疾患、消化管出血などの出血源を治療する
  • 食事不足や偏食を是正する
  • 吸収障害や基礎疾患を評価・治療する

② 鉄補充療法

治療適応・特徴主な注意点
経口鉄剤基本となる治療。クエン酸第一鉄、硫酸鉄、フマル酸第一鉄など悪心、腹痛、便秘、下痢、黒色便。忍容性に応じて服用方法を調整
静注鉄剤経口鉄が使用できない、吸収不良、効果不十分、迅速な補充が必要な場合など過敏反応、血圧低下、鉄過剰など。必要鉄量を評価して投与
赤血球輸血循環動態が不安定、重い症状を伴う高度貧血などで検討鉄欠乏そのものの治療ではない。適応は症状と全身状態を含めて判断

③ 治療効果の確認

  • 網赤血球:治療開始後1〜2週間程度で増加がみられることがある
  • Hb:通常は数週間かけて上昇。定期的に推移を確認する
  • フェリチン・TSAT:貯蔵鉄と利用可能な鉄の回復を確認する
  • Hbが正常化しても、貯蔵鉄を補うため一定期間は治療を継続する
  • 反応が乏しい場合は、服薬不良、持続出血、吸収障害、炎症、他の貧血の併存を再評価する

看護のポイント(観察事項)

症状・原因に関する観察

  • 倦怠感、息切れ、動悸、めまい、胸痛、活動耐容能を確認
  • 顔色、眼瞼結膜、脈拍、血圧を観察
  • 月経量、黒色便・血便、血尿などの出血徴候を確認
  • 氷食症、匙状爪、舌炎、口角炎など鉄欠乏に特徴的な所見を確認

検査値・治療に関する観察

  • Hb、MCV、網赤血球、フェリチン、TSATを経時的に確認
  • 経口鉄剤による悪心、腹痛、便秘・下痢の有無を確認
  • 鉄剤による黒色便は起こり得るが、タール状便や体調悪化があれば消化管出血との鑑別につなげる
  • 静注鉄剤投与中・投与後は、発疹、呼吸困難、血圧低下などの過敏反応を観察

服薬・生活指導

  • 鉄剤は自己判断で中止せず、Hb改善後も指示された期間継続する
  • 空腹時の方が吸収されやすいが、胃腸症状が強い場合は医療者の指示に沿って食後投与などを検討する
  • 制酸薬、カルシウム製剤、お茶・コーヒーなどは鉄吸収に影響することがあるため、併用・摂取間隔を確認する
  • 赤身肉、魚介類、レバー、豆類、緑黄色野菜などを取り入れ、バランスのよい食事を支援する
  • 食事療法だけでは補充が不十分な場合があることを説明する