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うつ病

うつ病

① 概要

抑うつ気分・興味・喜びの喪失を主症状とし、意欲低下・集中力低下・睡眠障害・食欲変化・自殺念慮などを伴う気分障害。神経伝達物質(主に セロトニン(5-HT)・ノルアドレナリン(NA))の機能低下が病態に関与すると考えられている(モノアミン仮説)。治療は 薬物療法+精神療法 の両輪が基本。

主な症状

領域症状
気分抑うつ気分、悲哀感、空虚感、興味・喜びの喪失
意欲・行動意欲低下、気力の低下、精神運動制止(または焦燥)
認知集中力低下、判断力低下、罪責感、自己否定感
身体睡眠障害(不眠または過眠)、食欲変化(低下または亢進)、倦怠感、性欲低下
自殺死にたい気持ち、自殺念慮・自殺企図

② 薬物治療の全体像

  • 抗うつ薬はシナプス間隙の 5-HT・NAの濃度を上昇 させることで効果を発揮
  • 効果発現に2~4週間 かかる(受容体のダウンレギュレーションに時間を要する)
  • 副作用は治療効果より先に出現することが多い
  • 第一選択は SSRIまたはSNRI。無効の場合に切り替えや増強療法を行う
  • 寛解後も 維持療法(6ヵ月~1年以上)を続け、漸減中止が原則

抗うつ薬の分類

分類作用機序特徴
SSRI5-HT再取り込みを選択的に阻害フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム第一選択。三環系より副作用が少ない。消化器症状(悪心等)が初期に多い
SNRI5-HTとNAの再取り込みを阻害デュロキセチン、ミルナシプラン、ベンラファキシン第一選択。痛みを伴ううつにも有効。血圧上昇・排尿障害に注意
NaSSAα₂自己受容体拮抗 + 5-HT₂/₃拮抗ミルタザピン鎮静・食欲増進があり、不眠・食欲低下が強いうつに有用。体重増加・眠気に注意
S-RIM5-HT再取り込み阻害 + 5-HT受容体調節ボルチオキセチン性機能障害が少ない。認知機能改善が期待される
三環系5-HT・NA再取り込み阻害(非選択的)アミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラミン効果は強いが、抗コリン・H₁拮抗・α₁拮抗による副作用が多い。過量投与で致死的
四環系NA再取り込み阻害が主マプロチリン三環系より抗コリン作用が少ない。眠気が多い

③ 主な抗うつ薬

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

一般名先発品例特徴
フルボキサミンデプロメール®・ルボックス®うつ病・OCD・社交不安障害に適応。CYP1A2・CYP2C19を強く阻害 → 相互作用が多い(ラメルテオンと併用禁忌)
パロキセチンパキシル®うつ病・OCD・パニック障害・PTSD等に幅広い適応。抗コリン作用がやや強い。体重増加・中止時の離脱症状に注意
セルトラリンジェイゾロフト®うつ病・パニック障害・PTSDに適忚。相互作用が比較的少なく使いやすい
エスシタロプラムレクサプロ®シタロプラムのS体。SSRIの中で最も選択性が高い。副作用が少ない

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

一般名先発品例特徴
デュロキセチンサインバルタ®うつ病・線維筋痛症・慢性腰痛症・OAに適応。痛みを伴ううつ に有効。排尿障害に注意
ミルナシプラントレドミン®うつ病・うつ状態に適忚。1日1回投与
ベンラファキシンイフェクサー®うつ病・うつ状態に適忚。徐放制式で悪心が比較的少ない

NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)

一般名先発品例特徴
ミルタザピンリフレックス®・レメロン®α₂自己受容体拮抗によりNA・5-HT放出促進 + 5-HT₂A/₂C/₃拮抗。鎮静・食欲増進が強い → 不眠・食欲低下が強いうつに適する。体重増加・眠気が最大の欠点

S-RIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬)

一般名先発品例特徴
ボルチオキセチントリンテリックス®5-HT再取り込み阻害 + 5-HT₁Aアゴニスト + 5-HT₃拮抗 + 5-HT₁B部分作動薬 + 5-HT₁D/₇拮抗。性機能障害が少ない。認知機能改善が期待される

三環系抗うつ薬(TCA)

一般名先発品例特徴
アミトリプチリントリプタノール®5-HT・NA再取り込み阻害。抗コリン作用が強い。過量投与で心毒性あり
イミプラミントフラニール®5-HT再取り込み阻害が強い。過量投与で心毒性あり
クロミプラミンアナフラニール®5-HT再取り込み阻害が強い。点滴静注製剤あり。けいれん閾値低下に注意

④ 看護のポイント(観察事項)

  • 自殺リスク(最重要):投与初期・増量時に アクティベーションシンドローム が起こりうる(意欲が先に回復し、気分の回復が遅れるため自殺行動のリスクが上昇) → 投与開始後1~2週間は特に注意深く観察
  • 効果発現に時間がかかる:2~4週間 → 「効かない」と自己中断しないよう説明
  • 急な中止を避ける中断症状(離脱症状) が起こる(めまい・悪心・不安・不眠・電気ショック様感覚) → 漸減中止が原則。特にパロキセチン・ベンラファキシンで起こりやすい
  • セロトニン症候群:興奮・下痢・ミオクローヌス・発汗・振戦 → SSRI・SNRI + トリプタン等のセロトニン作動薬併用時・MAOI併用時にリスク上昇 → 致死的となりうる
  • 消化器症状(初期):悪心・嘘吐・下痢・食欲不振 → 特にSSRI・SNRIの投与初期に多い。1~2週間で軽減することが多い
  • 性機能障害:性欲低下・勃起障害・射精障害 → 特にSSRI(パロキセチン)で多い。アドヒアランス低下の原因となる
  • 体重増加:特にNaSSA(ミルタザピン)・パロキセチン・三環系で多い
  • 抗コリン作用(三環系):口渇・便秘・排尿困難・眼圧上昇 → 狭隅角緑内障・前立腺肥大の患者には禁忌
  • 心毒性(三環系):QT延長・不整脈 → 過量投与で致死的 → 自殺リスクのある患者には大量処方を避ける
  • 血圧上昇(SNRI):NA再取り込み阻害による → 定期的な血圧モニタリング
  • 排尿障害(SNRI):特にデュロキセチンで注意
  • 若年者への注意:24歳以下で自殺念慮・自殺行動のリスクが上昇する報告がある → 特に注意深く観察

治療における位置づけ:

  • 第一選択:SSRIまたはSNRI → 三環系より副作用が少なく安全性が高い
  • 痛みを伴ううつ → SNRI(デュロキセチン)が有用
  • 不眠・食欲低下が強い → NaSSA(ミルタザピン)が有用
  • 性機能障害を避けたい → S-RIM(ボルチオキセチン)
  • 治療抵抗性 → 薬剤切り替え、または増強療法(非定型抗精神病薬の併用:アリピプラゾール・ブレクスピプラゾール等)
  • 三環系 → SSRI・SNRIで無効の場合や、重症例に限定。過量投与の致死性から自殺リスクのある患者には注意
  • 維持療法:寛解後も 6ヵ月~1年以上 継続。再発歴があれば更に長期。漸減中止が原則