うつ病
抑うつ気分・興味・喜びの喪失を主症状とし、意欲低下・集中力低下・睡眠障害・食欲変化・自殺念慮などを伴う気分障害。神経伝達物質(主に セロトニン(5-HT)・ノルアドレナリン(NA))の機能低下が病態に関与すると考えられている(モノアミン仮説)。治療は 薬物療法+精神療法 の両輪が基本。
主な症状
| 領域 | 症状 |
|---|---|
| 気分 | 抑うつ気分、悲哀感、空虚感、興味・喜びの喪失 |
| 意欲・行動 | 意欲低下、気力の低下、精神運動制止(または焦燥) |
| 認知 | 集中力低下、判断力低下、罪責感、自己否定感 |
| 身体 | 睡眠障害(不眠または過眠)、食欲変化(低下または亢進)、倦怠感、性欲低下 |
| 自殺 | 死にたい気持ち、自殺念慮・自殺企図 |
- 抗うつ薬はシナプス間隙の 5-HT・NAの濃度を上昇 させることで効果を発揮
- 効果発現に2~4週間 かかる(受容体のダウンレギュレーションに時間を要する)
- 副作用は治療効果より先に出現することが多い
- 第一選択は SSRIまたはSNRI。無効の場合に切り替えや増強療法を行う
- 寛解後も 維持療法(6ヵ月~1年以上)を続け、漸減中止が原則
抗うつ薬の分類
| 分類 | 作用機序 | 例 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| SSRI | 5-HT再取り込みを選択的に阻害 | フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム | 第一選択。三環系より副作用が少ない。消化器症状(悪心等)が初期に多い |
| SNRI | 5-HTとNAの再取り込みを阻害 | デュロキセチン、ミルナシプラン、ベンラファキシン | 第一選択。痛みを伴ううつにも有効。血圧上昇・排尿障害に注意 |
| NaSSA | α₂自己受容体拮抗 + 5-HT₂/₃拮抗 | ミルタザピン | 鎮静・食欲増進があり、不眠・食欲低下が強いうつに有用。体重増加・眠気に注意 |
| S-RIM | 5-HT再取り込み阻害 + 5-HT受容体調節 | ボルチオキセチン | 性機能障害が少ない。認知機能改善が期待される |
| 三環系 | 5-HT・NA再取り込み阻害(非選択的) | アミトリプチリン、イミプラミン、クロミプラミン | 効果は強いが、抗コリン・H₁拮抗・α₁拮抗による副作用が多い。過量投与で致死的 |
| 四環系 | NA再取り込み阻害が主 | マプロチリン | 三環系より抗コリン作用が少ない。眠気が多い |
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
| 一般名 | 先発品例 | 特徴 |
|---|---|---|
| フルボキサミン | デプロメール®・ルボックス® | うつ病・OCD・社交不安障害に適応。CYP1A2・CYP2C19を強く阻害 → 相互作用が多い(ラメルテオンと併用禁忌) |
| パロキセチン | パキシル® | うつ病・OCD・パニック障害・PTSD等に幅広い適応。抗コリン作用がやや強い。体重増加・中止時の離脱症状に注意 |
| セルトラリン | ジェイゾロフト® | うつ病・パニック障害・PTSDに適忚。相互作用が比較的少なく使いやすい |
| エスシタロプラム | レクサプロ® | シタロプラムのS体。SSRIの中で最も選択性が高い。副作用が少ない |
SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
| 一般名 | 先発品例 | 特徴 |
|---|---|---|
| デュロキセチン | サインバルタ® | うつ病・線維筋痛症・慢性腰痛症・OAに適応。痛みを伴ううつ に有効。排尿障害に注意 |
| ミルナシプラン | トレドミン® | うつ病・うつ状態に適忚。1日1回投与 |
| ベンラファキシン | イフェクサー® | うつ病・うつ状態に適忚。徐放制式で悪心が比較的少ない |
NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
| 一般名 | 先発品例 | 特徴 |
|---|---|---|
| ミルタザピン | リフレックス®・レメロン® | α₂自己受容体拮抗によりNA・5-HT放出促進 + 5-HT₂A/₂C/₃拮抗。鎮静・食欲増進が強い → 不眠・食欲低下が強いうつに適する。体重増加・眠気が最大の欠点 |
S-RIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬)
| 一般名 | 先発品例 | 特徴 |
|---|---|---|
| ボルチオキセチン | トリンテリックス® | 5-HT再取り込み阻害 + 5-HT₁Aアゴニスト + 5-HT₃拮抗 + 5-HT₁B部分作動薬 + 5-HT₁D/₇拮抗。性機能障害が少ない。認知機能改善が期待される |
三環系抗うつ薬(TCA)
| 一般名 | 先発品例 | 特徴 |
|---|---|---|
| アミトリプチリン | トリプタノール® | 5-HT・NA再取り込み阻害。抗コリン作用が強い。過量投与で心毒性あり |
| イミプラミン | トフラニール® | 5-HT再取り込み阻害が強い。過量投与で心毒性あり |
| クロミプラミン | アナフラニール® | 5-HT再取り込み阻害が強い。点滴静注製剤あり。けいれん閾値低下に注意 |
- 自殺リスク(最重要):投与初期・増量時に アクティベーションシンドローム が起こりうる(意欲が先に回復し、気分の回復が遅れるため自殺行動のリスクが上昇) → 投与開始後1~2週間は特に注意深く観察
- 効果発現に時間がかかる:2~4週間 → 「効かない」と自己中断しないよう説明
- 急な中止を避ける:中断症状(離脱症状) が起こる(めまい・悪心・不安・不眠・電気ショック様感覚) → 漸減中止が原則。特にパロキセチン・ベンラファキシンで起こりやすい
- セロトニン症候群:興奮・下痢・ミオクローヌス・発汗・振戦 → SSRI・SNRI + トリプタン等のセロトニン作動薬併用時・MAOI併用時にリスク上昇 → 致死的となりうる
- 消化器症状(初期):悪心・嘘吐・下痢・食欲不振 → 特にSSRI・SNRIの投与初期に多い。1~2週間で軽減することが多い
- 性機能障害:性欲低下・勃起障害・射精障害 → 特にSSRI(パロキセチン)で多い。アドヒアランス低下の原因となる
- 体重増加:特にNaSSA(ミルタザピン)・パロキセチン・三環系で多い
- 抗コリン作用(三環系):口渇・便秘・排尿困難・眼圧上昇 → 狭隅角緑内障・前立腺肥大の患者には禁忌
- 心毒性(三環系):QT延長・不整脈 → 過量投与で致死的 → 自殺リスクのある患者には大量処方を避ける
- 血圧上昇(SNRI):NA再取り込み阻害による → 定期的な血圧モニタリング
- 排尿障害(SNRI):特にデュロキセチンで注意
- 若年者への注意:24歳以下で自殺念慮・自殺行動のリスクが上昇する報告がある → 特に注意深く観察