NK1 受容体遮断薬
NK₁受容体遮断薬は、嘔吐中枢におけるサブスタンスP(SP)のNK₁受容体を遮断することで、強力な制吐作用を発揮する薬。特にがん化学療法(抗がん薬)による嘔吐(CINV)の予防に使用され、特に遅発性嘔吐(投与24時間以降)に対して優れた効果を示す。現在の制吐療法では、5-HT₃受容体遮断薬やデキサメタゾンとの3剤併用が標準となっている。
がん化学療法による嘔吐(CINV)のメカニズム:
- 抗がん薬投与 → 消化管粘膜のクロム親和性細胞からセロトニン(5-HT)が放出
- 5-HTが求心性迷走神経の5-HT₃受容体を刺激 → 急性嘔吐(24時間以内)
- 同時に、嘔吐中枢でサブスタンスPがNK₁受容体を刺激 → 遅発性嘔吐(24時間以降)
NK₁受容体遮断薬の作用:
- 嘔吐中枢のNK₁受容体を遮断 → サブスタンスPによる嘔吐シグナルを抑制
- 特に遅発性嘔吐に対して優れた効果
- 急性嘔吐にも一定の効果あり(5-HT₃遮断薬との相加作用)
CINVの時相と制吐薬の対応:
| 嘔吐の時相 | 時期 | 主なメディエーター | 有効な制吐薬 |
|---|---|---|---|
| 急性嘔吐 | 投与後24時間以内 | 5-HT(セロトニン) | 5-HT₃受容体遮断薬(グラニセトロン等) |
| 遅発性嘔吐 | 投与後24時間~数日 | サブスタンスP | NK₁受容体遮断薬(アプレピタント等) |
| 予測性嘔吐 | 投与前(心理的) | 不安・条件反射 | ベンゾジアゼピン系(ロラゼパム等) |
| 代表薬(一般名) | 先発品 | 特徴 |
|---|---|---|
| アプレピタント | イメンド® | NK₁受容体遮断薬の第一世代。経口薬。高度催吐性リスクの抗がん薬(シスプラチン等)と併用。CYP3A4で代謝され、CYP3A4の基質・阻害薬でもある。デキサメタゾンの作用を減弱させる可能性がある(CYP2C9誘導) |
| ホスアプレピタント | プロイメンド® | アプレピタントのプロドラッグ。注射薬(点滴静注)。経口投与が困難な患者に使用 |
標準的な3剤併用レジメン(高度催吐性リスク):
- NK₁受容体遮断薬(アプレピタント) → 遅発性嘔吐に対応
- 5-HT₃受容体遮断薬(グラニセトロン、パロノセトロン等) → 急性嘔吐に対応
- デキサメタゾン(副腘皮質ステロイド) → 幅広い制吐効果
主な副作用:
- 倔怠感・疲労 → 最も多い副作用
- 食欲不振 → 制吐薬でありながら食欲に影響することがある
- 便秘・下痢 → 消化器症状の観察
- しゃっくり → まれに出現
- 肝機能障害 → AST/ALTのモニタリング
服薬指導:
- 抗がん薬投与1時間前に服用(アプレピタント)
- Day 1は抗がん薬投与前、Day 2・3は朝服用(レジメンによって異なる)
- 食事の有無にかかわらず服用可能
薬物相互作用:
- アプレピタントはCYP3A4の基質かつ阻害薬 → 併用薬の確認が重要
- ワルファリン:アプレピタントがCYP2C9を誘導 → ワルファリンの代謝促進 → 効果減弱の可能性 → PT-INRのモニタリング
- デキサメタゾン:CYP3A4で代謝されるため、アプレピタントにより血中濃度が変動する可能性
患者支援:
- がん化学療法中の患者は精神的にも輛い → 制吐薬の効果を伝えることで不安軽減につなげる
- 嘔吐の程度とタイミングを記録 → 次サイクルの制吐薬調整に活用