注腸

注腸

① 概要

注腸剤とは、肛門から直腸・結腸内に薬液を注入する製剤のこと。直腸粘膜への局所作用を目的とするものと、直腸粘膜から吸収させて全身作用を目的とするものがある。下部直腸から吸収された薬物は肝臓を経由しにくく、初回通過効果を一部回避できる。

② 直腸吸収の仕組みと投与経路の比較

  • 直腸粘膜から吸収された薬物は、静脈還流により肝臓を経由する経路/しない経路に分かれる
  • 下部直腸:下直腸静脈 → 内腸骨静脈 → 下大静脈(肝臓を経由しない
  • 上部直腸:上直腸静脈 → 門脈(肝臓を経由する
直腸内投与(注腸)参考:経口投与参考:静脈投与
投与部位直腸・結腸(直腸粘膜)口腔→消化管静脈内
作用の種類局所作用(潰瘍性大腸炎等)or 全身作用全身作用全身作用
効果発現局所:数時間〜 / 全身:15〜30分30分〜2時間即時
初回通過効果一部回避(下部直腸からの吸収分)受ける受けない
投与の簡便さ自己投与可能だが手技の習得が必要最も簡便医療者による投与

③ メリットとデメリット

メリット

  • 消化管上部(胃・小腸)の消化液・pH変動の影響を受けにくい
  • 嘔吐がある場合にも投与可能
  • 初回通過効果を一部回避できる
  • 局所作用型は全身性副作用が少ない
  • 潰瘍性大腸炎の直腸〜左側結腸病変に直接到達しやすい

デメリット

  • 投与に心理的抵抗感がある(コンプライアンス低下の要因)
  • 薬液の保持が困難(便意を催しやすい)
  • 吸収が不安定(便の有無・腸管運動に左右される)
  • 広範囲の大腸病変には到達しにくい(主に直腸〜左側結腸まで)
  • 肛門・直腸の局所刺激(疼痛・出血)の可能性

④ 注腸剤の種類(剤形)

剤形特徴
注腸液剤薬液を直腸〜結腸に注入。比較的広範囲に薬物を到達させるペンタサ®注腸、(例)ステロネマ®注腸
注腸フォーム剤泡状の製剤。液漏れが少なく保持しやすいレクタブル®2mg注腸フォーム
※ 坐剤は厳密には「注腸剤」ではないが、同じ直腸内投与製剤として比較対象になる。注腸剤は坐剤よりも到達範囲が広い(S状結腸〜脾弯曲部付近まで)。

⑤ 代表的な注腸剤(例)

局所作用(炎症性腸疾患など)

分類代表薬特徴・注意点
5-ASA製剤メサラジン(ペンタサ®注腸)潰瘍性大腸炎の寛解導入・維持療法。直腸〜左側結腸型に有効
ステロイド注腸フォームブデソニド(レクタブル®注腸フォーム)泡状で保持しやすい。局所作用が強く全身性副作用が少ない
ステロイド注腸液プレドニゾロン(プレドネマ®注腸)、ベタメタゾン(ステロネマ®注腸)従来型ステロイドのため全身性副作用に注意

その他の用途

分類代表薬特徴・注意点
浣腸剤(便秘治療)グリセリン浣腸直腸を刺激して排便を促す。検査前処置にも使用
検査用バリウム硫酸バリウム(注腸造影検査)大腸の形態評価。治療目的ではない

⑥ 使用上の注意(手順・指導ポイント)

  • 投与前に排便を済ませる(薬液の保持を良くするため)
  • 薬液は体温程度に温める(冷たいと腸管刺激 → 便意を誘発)
  • 左側臥位で投与する(薬液がS状結腸方向に流れやすい)
  • 投与後はそのまま横になった姿勢を保つ(目安:30分〜1時間)
  • 必要に応じて体位変換(仰臥位→右側臥位)で、より広範囲に薬液が到達しやすい
  • 継続使用の重要性:局所作用型(5-ASA、ステロイド)は数日〜数週間の継続で効果を発揮することがある
  • 血便・強い腹痛・発熱など症状悪化時は自己判断で中止せず受診を促す(原疾患の活動性評価が必要な場合)