注腸
注腸剤とは、肛門から直腸・結腸内に薬液を注入する製剤のこと。直腸粘膜への局所作用を目的とするものと、直腸粘膜から吸収させて全身作用を目的とするものがある。下部直腸から吸収された薬物は肝臓を経由しにくく、初回通過効果を一部回避できる。
- 直腸粘膜から吸収された薬物は、静脈還流により肝臓を経由する経路/しない経路に分かれる
- 下部直腸:下直腸静脈 → 内腸骨静脈 → 下大静脈(肝臓を経由しない)
- 上部直腸:上直腸静脈 → 門脈(肝臓を経由する)
| 直腸内投与(注腸) | 参考:経口投与 | 参考:静脈投与 | |
|---|---|---|---|
| 投与部位 | 直腸・結腸(直腸粘膜) | 口腔→消化管 | 静脈内 |
| 作用の種類 | 局所作用(潰瘍性大腸炎等)or 全身作用 | 全身作用 | 全身作用 |
| 効果発現 | 局所:数時間〜 / 全身:15〜30分 | 30分〜2時間 | 即時 |
| 初回通過効果 | 一部回避(下部直腸からの吸収分) | 受ける | 受けない |
| 投与の簡便さ | 自己投与可能だが手技の習得が必要 | 最も簡便 | 医療者による投与 |
メリット
- 消化管上部(胃・小腸)の消化液・pH変動の影響を受けにくい
- 嘔吐がある場合にも投与可能
- 初回通過効果を一部回避できる
- 局所作用型は全身性副作用が少ない
- 潰瘍性大腸炎の直腸〜左側結腸病変に直接到達しやすい
デメリット
- 投与に心理的抵抗感がある(コンプライアンス低下の要因)
- 薬液の保持が困難(便意を催しやすい)
- 吸収が不安定(便の有無・腸管運動に左右される)
- 広範囲の大腸病変には到達しにくい(主に直腸〜左側結腸まで)
- 肛門・直腸の局所刺激(疼痛・出血)の可能性
| 剤形 | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
| 注腸液剤 | 薬液を直腸〜結腸に注入。比較的広範囲に薬物を到達させる | ペンタサ®注腸、(例)ステロネマ®注腸 |
| 注腸フォーム剤 | 泡状の製剤。液漏れが少なく保持しやすい | レクタブル®2mg注腸フォーム |
※ 坐剤は厳密には「注腸剤」ではないが、同じ直腸内投与製剤として比較対象になる。注腸剤は坐剤よりも到達範囲が広い(S状結腸〜脾弯曲部付近まで)。
局所作用(炎症性腸疾患など)
| 分類 | 代表薬 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 5-ASA製剤 | メサラジン(ペンタサ®注腸) | 潰瘍性大腸炎の寛解導入・維持療法。直腸〜左側結腸型に有効 |
| ステロイド注腸フォーム | ブデソニド(レクタブル®注腸フォーム) | 泡状で保持しやすい。局所作用が強く全身性副作用が少ない |
| ステロイド注腸液 | プレドニゾロン(プレドネマ®注腸)、ベタメタゾン(ステロネマ®注腸) | 従来型ステロイドのため全身性副作用に注意 |
その他の用途
| 分類 | 代表薬 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 浣腸剤(便秘治療) | グリセリン浣腸 | 直腸を刺激して排便を促す。検査前処置にも使用 |
| 検査用バリウム | 硫酸バリウム(注腸造影検査) | 大腸の形態評価。治療目的ではない |
- 投与前に排便を済ませる(薬液の保持を良くするため)
- 薬液は体温程度に温める(冷たいと腸管刺激 → 便意を誘発)
- 左側臥位で投与する(薬液がS状結腸方向に流れやすい)
- 投与後はそのまま横になった姿勢を保つ(目安:30分〜1時間)
- 必要に応じて体位変換(仰臥位→右側臥位)で、より広範囲に薬液が到達しやすい
- 継続使用の重要性:局所作用型(5-ASA、ステロイド)は数日〜数週間の継続で効果を発揮することがある
- 血便・強い腹痛・発熱など症状悪化時は自己判断で中止せず受診を促す(原疾患の活動性評価が必要な場合)