止瀉薬(止痢薬)
- 止瀉薬は下痢の症状を緩和する対症療法薬の総称
- 作用機序により、腸管運動抑制薬・収斂薬・吸着薬・殺菌薬 などに分類される
- 下痢の原因を鑑別することが最優先であり、安易な止瀉薬の使用は禁物
- 特に感染性腸炎(細菌性・ウイルス性)では、止瀉薬の使用が症状を悪化させる場合がある
最重要原則:「止めてよい下痢」と「止めてはいけない下痢」がある
- 血便・高熱・粘液便 を伴う下痢 → 感染性が疑われる → 安易に止めない
- 排菌・毒素排出を抑制 → 感染の遷延・重症化のリスク
腸管運動抑制薬
| 一般名 | 先発品名 | 作用機序 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| ロペラミド | ロペミン® | 腸管壁の末梢μオピオイド受容体に作用 → 蠕動↓+水分吸収↑+括約筋緊張↑ | BBBを通過しにくく中枢作用はほぼなし(鎮痛・依存性なし)。感染性腸炎には禁忌。イレウスに注意 |
セロトニン(5-HT₃)受容体拮抗薬
| 一般名 | 先発品名 | 作用機序 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| ラモセトロン | イリボー® | 5-HT₃受容体拮抗 → 腸管蠕動↓+内臓知覚過敏↓ → 下痢+腹痛を改善 | IBS-D(下痢型過敏性腸症候群)に第一選択。男女で用量が異なる。便秘に注意 |
収斂薬(しゅうれんやく)
| 一般名 | 先発品名 | 作用機序 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| タンニン酸アルブミン | タンナルビン® | 腸管粘膜のタンパク質と結合 → 粘膜表面に保護膜 → 炎症抑制・水分分泌↓ | 牛乳アレルギー患者には禁忌(アルブミンはカゼインから精製)。作用は穏やか |
| 次硝酸ビスマス | 次硝酸ビスマス | 収斂作用により腸管粘膜を保護 | 長期使用でビスマス蓄積のリスク。便が黒色化する(無害) |
吸着薬
| 一般名 | 先発品名 | 作用機序 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| 天然ケイ酸アルミニウム | アドソルビン® | 腸管内の毒素・過剰水分・ガスを吸着 → 下痢を緩和 | 他の薬剤の吸収も阻害する可能性 → 他剤と2時間以上あけて服用 |
腸内殺菌薬
| 一般名 | 先発品名 | 作用機序 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| ベルベリン(塩化ベルベリン) | フェロベリン®(ゲンノショウコエキス配合)、キョウベリン® など | 腸内の有害細菌に対する殺菌・静菌作用(イソキノリンアルカロイド)。腸管蠕動抑制作用・腸管内水分分泌抑制作用も併せもつ | 黄連(オウレン)・黄柏(オウバク)由来の生薬成分。腸管からほとんど吸収されず局所で作用 → 全身性副作用が少ない。感染性腸炎でも使用可能(排菌を妨げにくい)。OTC薬にも広く配合(正露丸糖衣A® など) |
消化管運動調律薬
| 一般名 | 先発品名 | 作用機序 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| トリメブチン | セレキノン® | オピオイド受容体に作用し、腸管運動を双方向に調節(亢進→抑制、低下→促進) | IBS全病型に使用可能。副作用が少なく長期使用しやすい |
便性状調整薬
| 一般名 | 先発品名 | 作用機序 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|---|
| ポリカルボフィルカルシウム | コロネル®/ポリフル® | 高分子重合体 → 腸管内で水分を吸収・保持 → 下痢時は便を固め、便秘時は便を軟化 | IBS全病型の第一選択。十分な水分とともに服用。制酸剤との併用で効果↓ |
| 下痢の原因 | 第一選択 | 注意点 |
|---|---|---|
| 急性の非感染性下痢(ストレス・冷え・食事性など) | ロペラミド(頓用)、収斂薬、吸着薬 | 原因が明らかで短期間であればロペラミドが有効 |
| IBS-D(下痢型) | ラモセトロン(イリボー)+ポリカルボフィルCa | ロペラミドは急性増悪時の頓用にとどめる。腹痛にはラモセトロンが有効 |
| 感染性腸炎(細菌性・ウイルス性) | 止瀉薬は原則禁忌 → 補液+原因菌に応じた抗菌薬 | 排菌を妨げ症状悪化。特にO157・赤痢・CDIでは絶対禁忌 |
| 抗菌薬関連下痢(CDI) | ロペラミド禁忌 → 原因抗菌薬の中止+バンコマイシン内服等 | 偽膜性大腸炎・中毒性巨大結腸のリスク |
| 化学療法誘発性下痢 | ロペラミド(高用量療法) | イリノテカンの遅発性下痢では早期介入が重要 |
- 便秘(効きすぎ → 用量調整が必要)
- 腹部膨満感
- イレウス(特にロペラミドで注意 → 蠕動抑制が過度 → 麻痺性イレウス)
- 脱水の見逃し:止瀉薬はあくまで対症療法 → 補液・経口補水が優先
⑤ 看護師の観察ポイント
📋 投与前の確認(最重要)
- 下痢の原因が感染性でないことを確認(血便・発熱・粘液便・抗菌薬使用後の下痢 → 要注意)
- 「止めてよい下痢か、止めてはいけない下痢か」を医師と共有
- 便培養・CDトキシン検査の結果を確認
🩸 排便状況のモニタリング
- 排便の回数・性状・量を毎日確認
- 便秘への転換に注意(止めすぎ → 用量調整が必要)
- 48時間使用しても改善なし → 効果なしと判断 → 医師に報告
⚡ 危険徴候の観察
- 腹部膨満の増悪・腸蠕動音の消失 → イレウスの可能性 → 直ちに報告
- 血便の出現・発熱の悪化 → 感染性腸炎の見逃し → 止瀉薬中止を検討
💧 脱水の評価(並行して最重要)
- 下痢による脱水は止瀉薬だけでは解決しない → 補液・経口補水が優先
- バイタルサイン・尿量・口腔粘膜の乾燥・皮膚ツルゴールを確認
- 特に高齢者・小児は脱水が進行しやすい → 早期からの補液介入
💬 患者教育のポイント
- 血便・高熱を伴う下痢では自己判断で止瀉薬を使用しない
- 市販薬(ストッパ®等)でも安易に使用しない → 受診を勧める
- 症状が改善したら速やかに服用を中止する
- 水分・電解質の補充(経口補水液等)が最も重要