アスピリン喘息
- 正式名称はNSAIDs過敏喘息(NERD: NSAIDs-Exacerbated Respiratory Disease)
- 「アスピリン」の名を冠するが、アスピリンに限らずCOX-1阻害作用を持つほぼ全てのNSAIDsで発症しうる
- 成人喘息患者の約5〜10%に合併するとされる
- 成人発症が多く(20〜40代)、小児ではまれ
- 鼻茸(鼻ポリープ)・慢性副鼻腔炎・喘息の3徴(Samterの三徴)を伴うことが多い
- IgEを介したアレルギー反応ではなく、アラキドン酸代謝異常による薬理学的機序で発症する
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| ① COX-1阻害 | NSAIDsがシクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)を阻害し、プロスタグランジン(PG)の産生が低下 |
| ② PGE₂の減少 | 気道において気管支拡張作用・抗炎症作用を持つPGE₂が減少する |
| ③ LT経路へのシフト | アラキドン酸代謝が5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)経路に偏り、ロイコトリエン(LTC₄/D₄/E₄)の産生が過剰になる |
| ④ 喘息発作 | ロイコトリエンによる強力な気管支収縮・粘膜浮腫・粘液分泌亢進→重篤な喘息発作が誘発される |
ポイント:IgE介在のアレルギー(Ⅰ型)ではなく、COX-1阻害→PGE₂↓→LT↑というアラキドン酸代謝の不均衡が本態。したがって「過敏症」であって「アレルギー」ではない。
- 発作の特徴
- NSAIDs服用後30分〜数時間以内に発症
- 鼻閉・鼻汁(水様性)→喘息発作(喘鳴・呼吸困難)の順に進行することが多い
- 重症例では意識障害・ショックに至ることもある
- Samterの三徴(アスピリン三徴)
- 気管支喘息
- 鼻茸(鼻ポリープ)
- アスピリン(NSAIDs)過敏
- 嗅覚障害を伴うことが多い
誘発リスクのある薬物(禁忌・注意)
| 分類 | 代表薬 | 備考 |
|---|---|---|
| 酸性NSAIDs(COX-1阻害作用が強い) | アスピリン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、インドメタシン、イブプロフェン 等 | 原則禁忌。COX-1阻害が強いほど発作リスクが高い |
| アセトアミノフェン(高用量) | アセトアミノフェン(1回1000mg以上) | 高用量ではCOX-1阻害が生じ発作を誘発する可能性あり |
比較的安全に使用できる薬物
| 分類 | 代表薬 | 備考 |
|---|---|---|
| アセトアミノフェン(低用量) | アセトアミノフェン(1回300〜500mg以下) | 低用量では比較的安全。ただし初回は慎重投与 |
| COX-2選択的阻害薬 | セレコキシブ(セレコックス) | COX-1阻害が弱いため発作誘発リスクが低い |
| 塩基性NSAIDs | チアラミド(ソランタール) | COX阻害作用が弱く比較的安全 |
- 急性発作時
- 原因薬物の即時中止
- アドレナリン(エピネフリン)筋注:重症例・アナフィラキシー様反応に対応
- 酸素投与・β₂刺激薬吸入(サルブタモール等)
- 副腎皮質ステロイド静注(ヒドロコルチゾン等)※ただしコハク酸エステル型は避ける(添加物で発作誘発の報告あり)→リン酸エステル型(デキサメタゾン等)を使用
- 長期管理
- 基本は通常の喘息治療に準じる(吸入ステロイド+LABA等)
- ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA):モンテルカスト、プランルカスト等が特に有効
- 原因薬物(全てのCOX-1阻害NSAIDs)の厳格な回避
- 薬歴・アレルギー歴の確認:NSAIDs使用前に必ずアスピリン喘息の既往・喘息合併の有無を聴取
- 患者教育:「アスピリン喘息」はアスピリンだけでなくほぼ全ての解熱鎮痛薬(NSAIDs)で起こりうることを説明。市販の風邪薬・鎮痛薬にも注意が必要であることを指導
- 発作時の迅速な対応:NSAIDs投与後30分〜数時間は呼吸状態・SpO₂のモニタリングを行い、喘鳴・鼻閉・呼吸困難の出現に注意
- 安全な代替薬の周知:低用量アセトアミノフェンやCOX-2選択的阻害薬が代替になりうることを医療チームで共有
- お薬手帳・アレルギーカード:患者に「NSAIDs過敏」であることをお薬手帳やアレルギーカードに明記するよう指導
注意:アスピリン喘息患者にステロイドのコハク酸エステル型(ソル・コーテフ、サクシゾン等)を使用すると発作を誘発する報告がある。ステロイド静注が必要な場合はリン酸エステル型(デキサメタゾン等)を選択する。