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肺高血圧症

疾患の概要

肺高血圧症(PH: Pulmonary Hypertension)は、肺動脈の血圧が持続的に上昇する病態の総称である。
通常、全身に血液を送る左心系に比べ、肺に血液を送る右心系(肺動脈)の血圧は低く保たれている。何らかの原因でこの肺動脈圧が上昇すると、右心室に過剰な負荷がかかり、やがて右心不全に至る。
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診断基準:安静時の平均肺動脈圧(mPAP)が 20 mmHg以上

分類(5群分類)

肺高血圧症は原因に基づき以下の5群に分類される。
分類特徴
第1群肺動脈性肺高血圧症(PAH)肺細動脈の血管リモデリングが本態。特発性・遺伝性・膠原病関連など
第2群左心疾患に伴うPH左心不全・弁膜症による肺静脈圧上昇
第3群肺疾患/低酸素に伴うPHCOPD・間質性肺炎など
第4群慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)器質化血栓による肺動脈閉塞
第5群原因不明・複合要因のPHサルコイドーシス・血液疾患など
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肺血管拡張薬による薬物療法の主な対象は 第1群(PAH)第4群(CTEPH) である。

主な症状

  • 労作時の息切れ(最も多い初発症状)
  • 易疲労感・倦怠感
  • 胸痛・動悸
  • 失神(重症例)
  • 下肢浮腫・腹水(右心不全進行時)

薬物治療

肺高血圧症(PAH)の薬物治療は、肺血管のトーンを制御する 3つの経路 を標的とする肺血管拡張薬が中心である。

治療標的となる3つの経路

  1. エンドセリン(ET)経路 — 血管収縮物質エンドセリンの作用を遮断
  1. 一酸化窒素(NO)経路 — NO-cGMPによる血管拡張を増強
  1. プロスタサイクリン(PGI₂)経路 — PGI₂による血管拡張・抗血小板作用

1. エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)

エンドセリンは強力な血管収縮物質であり、血管平滑筋の増殖も促進する。ERA はエンドセリン受容体(ET・ET)を遮断し、肺血管を拡張させる。
薬剤名特徴
マシテンタン(オプスミット®)ET/ET二重拮抗。組織浸透性が高い
ボセンタン(トラクリア®)ET/ET二重拮抗。初のERA
アンブリセンタン(ヴォリブリス®)ET選択的拮抗
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主な副作用・注意点
  • 肝機能障害(定期的な肝機能検査が必要)
  • 頭痛、顔面紅潮
  • 浮腫・体液貯留
  • 妊娠禁忌(催奇形性)

2. NO経路に作用する薬剤

PDE5阻害薬

NOはcGMP(サイクリックGMP)を介して血管拡張を起こす。PDE5はcGMPを分解する酵素であり、これを阻害することでcGMP濃度を上昇させ、肺血管拡張を持続させる。
薬剤名特徴
シルデナフィル(レバチオ®)PDE5選択的阻害。ED治療薬(バイアグラ®)と同成分だが適応が異なる
タダラフィル(アドシルカ®)PDE5阻害。長時間作用型(1日1回投与)

可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬

cGMPを産生する酵素であるsGCを直接刺激し、cGMP産生を増加させる。
薬剤名特徴
リオシグアト(アデムパス®)PAH・CTEPHの両方に適応あり
⚠️
主な副作用・注意点
  • 頭痛、低血圧、めまい
  • 硝酸薬との併用禁忌(過度の血圧低下)
  • PDE5阻害薬とsGC刺激薬の併用禁忌
  • 妊娠禁忌

3. PGI₂経路に作用する薬剤

プロスタサイクリン(PGI₂)は、血管拡張作用と抗血小板作用を有する。

PGI₂製剤

薬剤名投与経路特徴
エポプロステノール(フローラン®)持続静注(24時間)最も強力。重症例の標準治療。携帯型ポンプ使用
ベラプロスト(ドルナー®等)経口経口PGI₂製剤。効果はやや限定的
トレプロスチニル吸入PGI₂誘導体。肺に直接送達

選択的PGI₂受容体(IP受容体)作動薬

薬剤名特徴
セレキシパグ(ウプトラビ®)経口IP受容体作動薬。1日2回投与
⚠️
主な副作用・注意点
  • 頭痛、顎痛、下痢
  • 顔面紅潮、ほてり
  • 出血傾向
  • エポプロステノール:突然の投与中断でリバウンド性肺高血圧(致命的)→ 絶対に自己判断で中断しない

4. アクチビンシグナル伝達阻害薬(新規機序)

PAHでは肺動脈壁の細胞が異常増殖し、血管壁が肥厚・硬化する(血管リモデリング)。アクチビンシグナルがこの病態に関与しており、その阻害薬が登場した。
薬剤名特徴
ソタテルセプト(エアウィン®)3週間に1回の皮下注射。血管リモデリングを抑制する新機序

5. 支持療法・補助療法

治療内容
酸素療法低酸素血症の是正(在宅酸素療法:HOT)
利尿薬右心不全に伴う体液貯留の管理
抗凝固療法ワルファリン(特にCTEPHで重要)

治療のまとめ図

看護のポイント

  • バイタルサイン:血圧低下・頻脈・SpO₂低下に注意
  • 呼吸困難の程度:WHO/NYHA機能分類で評価
  • 体重・浮腫:右心不全の進行を示唆
  • 肝機能検査値:ERA使用時は定期モニタリング
  • 服薬アドヒアランス:エポプロステノールの中断は致命的 → 患者・家族教育が重要
  • 妊娠回避の指導:ERA・sGC刺激薬は催奇形性あり
  • 日常生活指導:過度な運動・重労働の制限、感染予防