副腎皮質ステロイド
- 副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)は、内因性の副腎皮質ホルモン(コルチゾール)と同様の構造を持つ合成ステロイドホルモンであり、強力な抗炎症作用・免疫抑制作用を有する
- 炎症性腸疾患(IBD)では、5-ASA製剤で効果不十分な中等症〜重症の活動期に寛解導入目的で使用する
- 寛解維持には使用しないのが原則。副作用のため寛解導入後は計画的に減量・中止し、5-ASA製剤や免疫調節薬に切り替える
- IBDにおいて使用されるステロイドには、全身性ステロイド(プレドニゾロン等)と局所作用型ステロイド(ブデソニド)がある
- ステロイドを漫然と使い続ける「ステロイド依存」や、ステロイドに反応しない「ステロイド抵抗性」の病態には、免疫調節薬や生物学的製剤へのステップアップが必要
抗炎症作用の分子機構
- ステロイドは脂溶性であるため細胞膜を通過し、細胞質内のグルココルチコイド受容体(GR)に結合する
- ステロイド-GR複合体は核内へ移行し、転写因子NF-κBやAP-1の活性を抑制する(トランスリプレッション)
- これにより、炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1β、IL-6等)、ケモカイン、接着分子、COX-2、iNOSなどの炎症関連遺伝子の発現が広範に抑制される
- 同時に、抗炎症性タンパク質(リポコルチン-1等)の発現を促進する(トランスアクティベーション)
免疫抑制作用
- T細胞の活性化・増殖を抑制し、リンパ球のアポトーシスを誘導
- 好中球の遊走・活性化を抑制し、炎症部位への白血球浸潤を減少させる
- マクロファージの抗原提示能を低下させ、免疫応答の開始を抑制
全身性ステロイドと局所作用型ステロイドの違い
- 全身性ステロイド(プレドニゾロン等):全身の炎症を強力に抑制するが、全身性副作用が出やすい
- 局所作用型ステロイド(ブデソニド):消化管局所で抗炎症作用を発揮し、吸収後は肝初回通過効果(約90%不活化)により全身性副作用が軽減される
IBDに使用される副腎皮質ステロイド
| 一般名 | 先発品 | 作用タイプ | 投与方法 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|
| プレドニゾロン | プレドニン | 全身性 | 経口・静注 | IBDにおける標準的なステロイド。中等症〜重症UC・CDの活動期に使用。効果発現が速いが全身性副作用が多い。通常0.5〜1mg/kg/日で開始し、寛解導入後に週単位で漸減 |
| メチルプレドニゾロン | メドロール(経口)/ソル・メドロール(静注) | 全身性 | 経口・静注 | 重症・劇症型UCに対してパルス療法(大量静注)で使用されることがある。プレドニゾロンより鉱質コルチコイド作用が弱い |
| ブデソニド | ゼンタコート(経口)/レクタブル(注腸フォーム) | 局所作用型 | 経口・注腸 | 肝初回通過効果により約90%が不活化され全身性副作用が少ない。ゼンタコートは回盲部で放出し軽症〜中等症CDに適応。レクタブルは左側UCの直腸〜S状結腸に局所投与 |
| ベタメタゾン | リンデロン | 全身性 | 経口・静注・注腸 | 抗炎症作用はプレドニゾロンの約5倍と強力。注腸製剤として遠位大腸型UCに使用されることがある |
| ヒドロコルチゾン | コートリル(経口)/ステロネマ(注腸) | 全身性(注腸は局所作用も期待) | 経口・注腸 | 内因性コルチゾールと同一構造。ステロネマ注腸液はヒドロコルチゾンの注腸製剤で、直腸〜S状結腸に限局するUCの局所治療に使用。全身性ステロイドに比べ副作用が少なく、5-ASA注腸と併用されることもある。経口での全身性ステロイドとしての使用は限定的 |
ヒドロコルチゾン(ステロネマ(R) 注腸)

ブデソニド(レクタブル (R) 注腸フォーム)

投与経路による使い分け
| 投与経路 | 適応場面 | 代表薬 |
|---|---|---|
| 経口投与 | 中等症の活動期UC・CD。最も一般的な投与経路 | プレドニゾロン、ブデソニド(ゼンタコート) |
| 静脈内投与 | 重症〜劇症型の活動期。経口摂取困難例や入院管理下で使用 | メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン |
| 注腸・坐剤(局所投与) | 直腸〜左側大腸に限局するUC。全身性副作用を軽減 | ブデソニド(レクタブル)、ベタメタゾン注腸 |
ステロイドの力価比較:プレドニゾロンを1とした場合、メチルプレドニゾロンは1.25倍、ベタメタゾンは5倍、デキサメタゾンは5倍の抗炎症力価を持つ。ただしIBDではプレドニゾロンが標準的であり、力価が強い=有効とは限らない。局所作用型のブデソニドは全身性副作用の軽減が最大の利点。
投与前の確認事項
- 感染症の除外:活動性の重篤な感染症(結核・真菌感染・ウイルス感染など)がないことを確認。ステロイドは感染症を悪化させる
- 血糖値・血圧・骨密度のベースライン測定:長期使用に備え、投与前の基準値を記録
- 消化性潰瘍の既往:潰瘍の既往がある場合はPPI(プロトンポンプ阻害薬)の予防投与を検討
- 精神疾患の既往:ステロイド精神病(不眠・興奮・抑うつ・せん妄)のリスク評価
投与中の観察
- 血糖値の変動:ステロイドは糖新生促進・インスリン抵抗性増大により高血糖を引き起こす。特に糖尿病患者では厳重なモニタリングが必要
- 血圧上昇:ナトリウム・水の貯留により血圧が上昇する。定期的な血圧測定
- 消化器症状:心窩部痛・悪心・黒色便がないか確認(消化性潰瘍の併発リスク)
- 感染徴候:発熱・咳嗽・倦怠感などの感染症状を早期に発見。ステロイドにより発熱が抑制されマスクされることに注意
- 精神症状:不眠・気分高揚・易怒性・抑うつ・せん妄。特に高用量使用時に出現しやすい
- ムーンフェイス・中心性肥満:クッシング症候群様症状の出現
減量・離脱時の注意
- 急な中止は禁忌:長期投与後の急な中止は副腎不全(副腎クリーゼ)を引き起こす。嘔吐・低血圧・意識障害・ショックに至ることがある
- 計画的な漸減:通常、1〜2週ごとに5〜10mg/日ずつ減量。患者への減量スケジュールの説明と自己判断での変更禁止の指導
- 離脱症状の観察:倦怠感・関節痛・筋肉痛・発熱・低血圧などの副腎機能不全の徴候に注意
- 再燃徴候の観察:減量中に血便・腹痛・下痢の増悪がないか。再燃時は減量ペースの見直しが必要
長期使用時の合併症モニタリング
- 骨粗鬆症:3か月以上の使用では骨密度測定(DEXA)を実施。予防的にビタミンD・カルシウム補充、必要に応じてビスホスホネート製剤を投与
- 易感染性:日和見感染症(ニューモシスチス肺炎・カンジダ症・帯状疱疹等)に注意
- 白内障・緑内障:定期的な眼科受診を推奨
- 大腿骨頭壊死:股関節痛・歩行障害があれば速やかにMRI検査
ステロイドは寛解維持には使用しない:IBDにおいてステロイドは活動期の寛解導入にのみ使用し、寛解導入後は速やかに漸減・中止する。ステロイドなしでは再燃を繰り返す「ステロイド依存」の状態に陥った場合は、免疫調節薬(アザチオプリン等)や生物学的製剤、JAK阻害薬への切り替えが必要。ステロイド依存・抵抗性は治療戦略の見直し(ステップアップ)のサインである。
ブデソニドの利点と限界:ブデソニドは全身性副作用が少なく、軽症〜中等症のCD(回盲部病変)やUC(左側型)に有用。しかし抗炎症力はプレドニゾロンより弱いため、重症例には不十分。重症例では全身性ステロイドが必要となる。