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インスリン製剤

インスリン製剤

① 薬効群の概要

インスリン製剤は、膵β細胞から分泌されるインスリンを補充する注射薬。1型糖尿病では必須、2型糖尿病では経口薬で血糖コントロール不十分な場合や、周術期・妊娠糖尿病・糖尿病ケトアシドーシスなどで使用される。

② 作用機序

  • インスリン受容体(チロシンキナーゼ型)に結合 → 細胞内シグナル伝達
    • 糖代謝:GLUT4を細胞膜に移行 → 筋肉・脂肪組織へのグルコース取り込み↑
    • 肝臓:グリコーゲン合成↑、糖新生↓ → 血糖値↓
    • 脂質代謝:脂肪合成↑、脂肪分解↓
    • タンパク質代謝:タンパク質合成↑
    • K⁺取り込み:細胞内へのK⁺移行↑(高K血症の緊急治療にも使用)

③ インスリン製剤の分類

分類代表薬作用発現作用持続特徴
超超速効型インスリンアスパルト(フィアスプ®) インスリンリスプロ(ルムジェブ®)約5分3〜5時間超速効型よりさらに速い作用発現。食直前または食事開始後20分以内にも投与可。食後血糖の抑制に優れる
超速効型インスリンリスプロ(ヒューマログ®) インスリンアスパルト(ノボラピッド®) インスリングルリジン(アピドラ®)10〜20分3〜5時間食直前に投与。食後血糖の上昇を抑制。ポンプにも使用
速効型ヒトインスリン(ヒューマリンR®・ノボリンR®)30分〜1時間5〜8時間食前30分に投与。静脈内投与が可能(DKA・周術期)
中間型NPHインスリン(ヒューマリンN®・ノボリンN®)1〜3時間18〜24時間プロタミンを添加して吸収を遅延。白濁懸濁液、使用前に転倒混和が必要
持効型溶解インスリングラルギン(ランタス®・トレシーバ®) インスリンデテミル(レベミル®) インスリンデグルデク(トレシーバ®)1〜2時間24〜42時間以上基礎インスリンとして1日1回投与。ピークがほぼなく安定した作用。透明溶液
混合型ヒューマログミックス25®・50® ノボラピッド30ミックス®10〜30分18〜24時間超速効型(または速効型)+中間型の混合。食事+基礎を1本でカバー
配合溶解型ライゾデグ®(デグルデク+アスパルト)10〜20分24時間以上持効型+超速効型の配合。白濁しない透明溶液。転倒混和不要
 
基礎-追加(Basal-Bolus)療法のイメージ
💉
基礎インスリン(持効型 1日1回)→ 空腹時血糖・夜間血糖をカバー 追加インスリン(超速効型 毎食前)→ 食後血糖の上昇をカバー → 生理的なインスリン分泌パターンに近づける

週1回投与のインスリン製剤

2025年1月30日に日本で発売された世界初の週1回投与の基礎インスリン製剤。従来の毎日1回投与から大幅に注射回数を削減できる。
項目内容
一般名インスリン イコデク(遺伝子組換え)
商品名アウィクリ®注 フレックスタッチ®(総量300単位・700単位)
適応インスリン療法が適応となる糖尿病(1型・2型)
用法・用量成人で1週間に1回皮下注射。初期量:1回30〜140単位。維持量:週1回30〜560単位(他のインスリン併用分を含む)
半減期1週間(約164時間)
週1回投与のインスリン製剤

作用機序の特徴

  • 皮下投与後、インスリン イコデクは可逆的にアルブミンと結合
  • 緩徐にアルブミンから解離 → インスリン受容体と結合
  • これにより血糖降下作用が1週間にわたり持続
 

従来製剤からの切り替え

  • 従来の基礎インスリン(ランタス®・トレシーバ®等)からの切り替え時は、従来製剤の1日量 × 7 を基本とする
  • 初回投与のみ約×1.5倍量を投与(効果発現が緩やかなため)
  • 低血糖リスクが高い患者では初回量を×1.0〜1.4に調整
  • インスリン未使用者の新規導入時は30〜50単位から開始
 

投与スケジュールと打ち忘れ時の対応

  • 毎週同じ曜日に投与(時刻は多少前後しても問題ない)
  • 打ち忘れた場合 → 気づいた時点で直ちに注射
  • 次回は元の曜日に戻すのではなく、4日以上の間隔を空けてから投与し、その後週1回のスケジュールに戻す
 

メリットと注意点

メリット
  • 注射回数の大幅削減(年365回 → 約52回)
  • 患者の心理的負担軽減・アドヒアランス向上
  • ADL・認知機能低下の高齢者でも、家族や訪問看護による週1回投与が可能
  • 1日1回投与の持効型と比較し、非劣性が検証済み(ONWARDS試験)
⚠️
注意点
  • 1目盛が10単位 → 微調整が難しい
  • 半減期が非常に長いため、低血糖が起きると遷延性低血糖のリスク
  • 投与後 2〜4日目の食前血糖が最も下がりやすい
  • シックデイや感染症時は(超)速効型インスリンの併用を検討
  • 用量調節の柔軟性に制限がある
 

高齢者での使用について(日本糖尿病学会・Recommendation)

  • 厳格すぎないHbA1c目標を設定し、低血糖回避を優先
  • CGM(持続血糖測定)や遠隔モニタリングも検討
  • 訪問看護・介護者との連携強化が重要
  • 緊急時の対応手段を事前に準備
 

④ インスリン投与の実際

投与経路

経路詳細
皮下注射最も一般的。腹部・上腕外側・大腿外側・臀部に投与。腹部が吸収最速・最安定
静脈内投与速効型のみ可能。DKA・HHS・周術期・高K血症の緊急時に使用
持続皮下注入(CSII)インスリンポンプで超速効型を持続注入。1型糖尿病で血糖変動が大きい場合に使用
 

注射部位のローテーション

⚠️
  • 同一部位への繰り返し注射を避ける → リポジストロフィー(脂肪肥大・脂肪萎縮)の予防
  • 同じ領域内(例:腹部)で2〜3cm ずらしてローテーション
  • 同一領域内でのローテーションが推奨(領域間の吸収速度の差を減らすため)
 

インスリン製剤の保管

状態保管方法
未使用冷蔵庫(2〜8℃)で保管。凍結させない(失活する)
使用中室温(30℃以下)で保管可能(4〜6週間以内に使い切る)。直射日光・高温を避ける

⑤ 主な副作用

副作用詳細
低血糖最も重要な副作用。冷汗・振戦・動悸・空腹感(交感神経症状)→ 意識障害・痙攣(中枢神経症状)。ブドウ糖10〜20g経口投与で対応。意識がない場合はグルカゴン注射またはブドウ糖静注
体重増加インスリンの同化作用による。食事療法・運動療法の継続が重要
注射部位の硬結注射部位の脂肪肥大(リポハイパートロフィー)または脂肪萎縮。注射部位のローテーションで予防
注射部位反応発赤・腫脹・疼痛(通常軽度で一過性)
低K血症インスリンによる細胞内へのK⁺移行。大量投与時に注意
アレルギー反応まれ。蕁麻疹・アナフィラキシー

⑥ 低血糖の対応

🚨
低血糖の症状と段階
  • 血糖値 70mg/dL以下:交感神経症状(冷汗、振戦、動悸、空腹感、不安)
  • 血糖値 50mg/dL以下:中枢神経症状(頭痛、眠気、集中力低下、異常行動)
  • 血糖値 30mg/dL以下:意識障害、痙攣、昏睡
対応
  • 意識あり → ブドウ糖10〜20g を経口摂取(砂糖は分解に時間がかかるためブドウ糖が望ましい)
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース等)併用時は必ずブドウ糖で対応(二糖類→単糖への分解が阻害されるため)
  • 意識なし → グルカゴン筋注/皮下注 または 50%ブドウ糖液20mL静注

⑦ 看護のポイント(観察事項)

  • 低血糖の観察と指導 → 症状の早期認識、ブドウ糖の常時携帯、補食のタイミング指導
  • 自己注射指導 → ペン型注入器の操作方法、空打ち(2単位)の確認、注射部位のローテーション
  • 血糖自己測定(SMBG) → 測定タイミング・記録方法の指導、目標血糖値の確認
  • シックデイルール → 発熱・嘔吐・下痢・食欲低下時の対応。インスリンは自己判断で中止しない。主治医に連絡
  • 保管管理 → 未使用品は冷蔵庫保管、凍結禁止。使用中は室温保管可能
  • 混合型・中間型の混和 → 白濁懸濁液は使用前にゆっくり転倒混和(10回程度)。振らない
  • 超速効型の投与タイミング → 食直前(食事が確保できてから投与)。食事摂取できない場合は投与しない
  • 持効型の投与タイミング → 毎日ほぼ同じ時刻に投与。食事に関係なく投与可能

医療安全

特に、医薬品の種類と量に注意
  • 医薬品の種類・・医薬品には多種の製剤がある(効果時間が異なる)
  • ・・量は、mLやgではなく、「単位」で表す

与薬(投薬)安全チェック:実務用まとめ

1) 投与前(準備〜投与直前)

  • 6R+患者状態まで(Right Patient/Drug/Purpose/Dose/Route/Time + 禁忌・慎重投与、腎機能、アレルギー、相互作用、妊娠/授乳など)
  • 2識別子で患者確認(リストバンド+氏名/生年月日 等) 同姓同名、ベッド移動、検査搬送後は要注意
  • 薬剤の取り違え防止(Right Drugの具体化)
    • 薬剤名+規格+剤形+濃度まで確認(徐放/即放、濃度違い、類似名称)
    • ラベル(患者名・薬剤名・用量・投与経路・投与時間)を読み上げ確認
  • 用量・単位・速度の罠を潰す(Right Dose/Time)
    • mg/mL/mEq、μg/kg/min、mL/h など単位を必ず言語化して確認
    • 計算がある場合は独立したダブルチェック(同じ式をなぞるだけは×)
  • 投与経路・ルート条件の確認(Right Route)
    • 「静注禁」「希釈要」「中心静脈のみ」「フィルター必須」「PVCフリー」などの条件
  • 中止・変更直後/臨時薬/持参薬は特に注意(オーダー切替・重複・中止漏れ)

2) 投与中(実施中)

  • 5つの“見落としやすいミス”
    • 患者取り違え(部屋移動・呼び間違い)
    • 薬剤取り違え(外観類似・類似名称)
    • 濃度取り違え(同一薬でも濃度違い)
    • ポンプ設定ミス(mL/h、希釈後濃度の反映漏れ)
    • 投与速度ミス(急速投与・早送り)
  • 観察のポイント
    • バイタル、意識、呼吸、SpO₂、疼痛など(薬効と副作用の方向性を意識)
    • ルート・刺入部(漏れ/血管外漏出、発赤・腫脹、固定)
    • 必要に応じて心電図・尿量・血糖など(薬剤ごとの評価指標)

3) 投与後(評価・記録・次につなぐ)

  • 効果の評価(症状・検査値・バイタルが意図どおりか)
  • 副作用・異常の早期発見(遅れて出るものもある)
  • 記録:投与量・時間・経路・実施者・観察所見・対応
  • ヒヤリ・ハットは“その場で共有”(再発防止:環境・手順・表示・保管の見直し)

4) 患者への説明(安全の最後の砦)

  • 目的(なぜ必要か)と、起きたらすぐ伝える症状を短く具体的に説明(例:動悸、しびれ、冷汗、ふるえ、息苦しさ、発疹、強い痛み)

単位を正しく理解する

  • mg・mL・μg・単位(Unit)など、薬剤ごとに使われる単位を正確に把握する
  • 特にインスリンは「単位」と「mL」の混同が重大事故につながる