糖尿病標準診療マニュアル2026
主な構成と内容
1. 糖尿病とは
- インスリン作用不足による慢性高血糖を主徴とする代謝症候群
- 1型:自己免疫性β細胞破壊 / 2型:遺伝因子+環境因子(過食・運動不足・肥満・加齢)
- 診断基準:空腹時血糖≧126、OGTT 2h≧200、随時血糖≧200、HbA1c≧6.5%の組合せ
2. 診療目的
- 細小血管症(網膜症・腎症・神経障害)および動脈硬化性疾患の発症・進展阻止
- 糖尿病のない人と変わらない寿命とQOLの実現
3. 必須病歴聴取・診察・検査
- 初診時:病歴聴取、内科的診察・足診察・神経所見、血液検査・検尿、合併症精査(網膜症→眼科、腎症→尿アルブミン、神経障害、大血管症→心電図・BNP)
- 再診時:毎回(体重・血圧・血糖・HbA1c・脂質)、最低年1回(足診察・神経所見・eGFR・眼底検査等)
4. 治療目標値
| 項目 | 目標値 |
|---|---|
| 体重 | BMI≧25の場合:5%以上の減量 |
| 血圧 | 130/80 mmHg未満(家庭血圧125/75未満) |
| 血糖 | HbA1c 7.0%未満、空腹時血糖130未満 |
| LDL-C | 120未満(冠動脈疾患合併100未満、高リスク70未満考慮) |
| TG | 空腹時150未満 |
| HDL-C | 40以上 |
- 個別化血糖目標:罹病期間・低血糖リスク・合併症等に応じてHbA1c 6.0〜8.0%の範囲で設定
5. 治療の流れ(薬物療法ステップ)
- 食事・運動療法を基本とし、数ヵ月で反応不十分なら薬物療法開始
- ステップ1:ビグアナイド薬(メトホルミン、eGFR≧30)
- ステップ2:1剤上乗せ — SGLT2阻害薬 / DPP-4阻害薬 / 経口GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)
- ステップ3:さらに1剤上乗せ(異なるステップ2薬剤追加、またはオプション:α-GI、SU薬/グリニド薬、チアゾリジン薬、イメグリミン)
- ステップ4〜5:多剤併用、インスリン・注射GLP-1/GIP受容体作動薬を考慮 → 専門医紹介
- インスリン絶対適応:1型、DKA、重症肝・腎障害・感染症、妊娠
- インスリン相対適応:著明な高血糖(≒300以上)、HbA1c≧9.0%
6. 合併症管理
- 網膜症:眼科との連携、厳格な血糖・血圧・脂質管理
- 腎症:SGLT2阻害薬の積極的投与、ACEI/ARBによる腎保護、MRA(フィネレノン)考慮
- 神経障害:プレガバリン、デュロキセチン、アミトリプチリン、カルバマゼピン等
- 血圧:ACEI/ARB、Ca拮抗薬、サイアザイド系類似利尿薬
- 脂質:スタチン(ピタバスタチン)、エゼチミブ、フィブラート系、EPA
7. 専門医紹介の適応
- 1型・妊娠・二次性、DKA・意識障害、HbA1c≧9.0%持続、頻回低血糖、インスリン/注射薬導入、慢性合併症ハイリスク者の評価・治療 等
糖尿病標準診療マニュアル2026(PDF)
前版からの主な改訂点
全体としては大きな変更はなく、主にフローチャート(糖尿病の治療の流れ)に関する2点の追記がなされました。
1. 経口GLP-1受容体作動薬への積極的投与の追記
- ステップ2「1剤上乗せ」 の「GLP-1受容体作動薬(経口薬)」に対して、「心血管疾患の既往、肥満を有する場合は積極的に投与開始」 との注記が追加されました。
- これまでSGLT2阻害薬には同様の記載がありましたが、経口セマグルチド(リベルサス)にも積極的投与の位置づけが明記された形です。
2. 併用禁忌に関するGIP/GLP-1受容体作動薬の追記
- 一部薬剤の併用禁忌の記載が拡充され、「DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の併用は避ける」 という記載に変更されました。
- 前版では「GLP-1受容体作動薬」のみの記載だったところに、GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチドなど)が明示的に加えられています。
いずれもGLP-1関連薬の臨床エビデンス蓄積を反映した改訂であり、治療アルゴリズムの骨格やその他の治療目標値・薬剤推奨に大きな変更はありません。