運動誘発性アレルギー
用語の整理
「運動誘発性アレルギー」は正式な単一疾患名ではなく、主に運動誘発アナフィラキシー(EIAn)と食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)を指して用いられる。
一方、「運動誘発性喘息」は現在、運動誘発性気管支収縮(EIB)と呼ぶことが推奨される。EIBは気道の一過性狭窄であり、アナフィラキシーとは別の病態である。
① 疾患の概要
- EIAn:運動そのものを契機として、全身性のアレルギー症状が起こるまれな病態
- FDEIA:特定の食物を摂取した後に運動することでアナフィラキシーが誘発される病態
- FDEIAでは、原因食物を食べただけ、または運動しただけでは症状が出ないことが多い
- 日本では原因食物として小麦や甲殻類が多い
② 原因・病態
多くはIgEを介した即時型アレルギー反応である。運動により、消化管からのアレルゲン吸収や肥満細胞が活性化する閾値が変化し、症状が起こりやすくなると考えられている。
発症を助ける補助因子
- NSAIDs(アスピリンなど)
- 飲酒
- 感染・発熱・疲労・睡眠不足
- 月経
- 高温・低温、高湿度などの環境条件
③ 主な症状
| 系統 | 主な症状 |
|---|---|
| 皮膚・粘膜 | 全身のかゆみ、蕁麻疹、紅潮、眼瞼・口唇の腫れ |
| 呼吸器 | 咽頭違和感、嗄声、喘鳴、咳、呼吸困難 |
| 消化器 | 腹痛、悪心、嘔吐、下痢 |
| 循環器・神経 | 血圧低下、めまい、意識低下、失神 |
運動中・運動後に複数の臓器症状が急に現れた場合や、呼吸困難・血圧低下を認めた場合は、皮膚症状がなくてもアナフィラキシーを疑う。
④ 運動誘発性喘息(EIB)との違い
| EIAn/FDEIA | 運動誘発性気管支収縮(EIB) | |
|---|---|---|
| 病態 | 全身性アレルギー反応 | 運動による一過性の気道狭窄 |
| 主症状 | 蕁麻疹、浮腫、呼吸器・消化器・循環器症状 | 咳、喘鳴、胸部圧迫感、息切れ |
| 出現時期 | 運動中〜運動後 | 運動中〜終了後、特に運動終了後に目立つことがある |
| 喘息との関係 | 喘息の有無にかかわらず起こり得る | 喘息患者に多いが、喘息の診断がない人にも起こり得る |
| 緊急治療 | アドレナリン筋注が第一選択 | 気管支拡張薬など。アナフィラキシーを伴う場合はアドレナリンを優先 |
EIBは、運動時の過換気により冷たく乾燥した空気が大量に気道へ入り、気道から熱・水分が失われることで気管支収縮が起こると考えられる。症状だけで決めつけず、呼吸機能検査や運動負荷試験などで客観的に評価する。
⑤ 治療・再発予防
アナフィラキシーが起きたとき
- 直ちに運動を中止する
- アナフィラキシーを疑えばアドレナリンを大腿外側へ筋注する
- 救急要請し、原則として仰臥位で安静を保つ。呼吸が苦しい場合などは状態に応じた体位とする
- 抗ヒスタミン薬・副腎皮質ステロイドは補助療法であり、アドレナリンの代わりにはならない
再発予防
- 食事内容、摂取時刻、運動内容、発症時刻、薬・飲酒・体調などを記録する
- アレルギー専門医の評価で原因食物と補助因子を絞り込む
- 医師から指示された時間帯は、原因食物の摂取と運動を組み合わせない
- 体調不良時やNSAIDs服用時など、発症しやすい状況では運動を避ける
- 処方されている場合はアドレナリン自己注射薬を携帯し、本人・家族・学校・職場で使い方を共有する
- 過度な食事制限や一律の運動禁止は避け、個別の安全計画を立てる
EIBへの対応
- 喘息があれば、ICSを含む治療で気道炎症を十分にコントロールする
- ウォームアップを行い、冷気・乾燥・花粉などの誘因を調整する
- 医師の指示により、運動前の吸入薬(SABAなど)やLTRAを用いる
- 吸入薬の頻用や運動制限が続く場合は、喘息コントロールと診断を見直す
- 適切に管理できれば、原則として運動そのものを避ける必要はない
⑥ 看護・観察ポイント
- 発症前の食事と運動の時間関係、運動強度、補助因子を確認する
- 皮膚だけでなく、呼吸・循環・消化器・意識状態を系統的に観察する
- アドレナリン自己注射薬の携帯状況、使用期限、使用手技を確認する
- EIBでは症状の出現時期、吸入薬の使用回数、吸入手技、運動への支障を確認する
- 「喘鳴=EIB」と決めつけず、蕁麻疹、咽頭症状、血圧低下などがあればアナフィラキシーを疑う