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2.対面授業90分

授業目標

授業終了時、学生が次のことを考えられることを目指す。
感染症を疑った患者について、抗菌薬投与前の確認、投与中の観察、効果・副作用の評価、培養結果後の治療見直しを説明できる。

時間配分

時間内容方法
0~5分事前学習確認3問クイズ
5~15分感染部位・病原体・検体ミニ講義
15~25分抗菌薬の選択と使い分けミニ講義
25~32分効果・副作用・腎機能ミニ講義
32~35分その他の抗感染症薬全体像の整理
35~50分治療過程整理演習ペアまたは小グループ
50~85分肺炎症例段階提示型演習
85~90分まとめExit Ticket

0~5分|確認クイズ

問1

「広域抗菌薬」とは何を意味するか。
A. 副作用が強い薬
B. 多くの種類の微生物を対象とする薬
C. すべての感染症を治療できる薬
D. 重症患者にしか使用できない薬
正解:B

問2

細菌培養検体を採取する主な目的は何か。
正解例:
原因微生物と薬剤感受性を確認し、その後の治療選択に役立てるため。

問3

抗菌薬の投与後、効果判定に必要な情報を一つ挙げる。
正解例:
  • 体温
  • 呼吸状態
  • 血圧・脈拍
  • 意識状態
  • 疼痛や咳などの症状
  • 白血球数やCRPの推移
  • 培養結果

3.ミニ講義

感染症治療の基本的な流れ

この流れの各段階で、看護師が観察・確認する事項がある。

抗菌薬投与前

  • 感染部位と症状
  • バイタルサイン、意識、呼吸・循環状態
  • 薬剤アレルギー歴
  • 腎機能・肝機能
  • 体重
  • 直近の抗菌薬使用歴
  • 併用薬
  • 培養検体の採取状況
  • 投与量、投与経路、投与速度
「ペニシリンアレルギーあり」という記録だけでなく、次を具体的に確認する。
  • どの薬だったか
  • どのような症状だったか
  • 投与後どのくらいで起きたか
  • 呼吸困難や血圧低下があったか
  • いつの出来事か

抗菌薬投与後

治療効果

  • 体温だけでなく全身状態
  • 呼吸数、SpO₂、酸素投与量
  • 血圧、脈拍
  • 意識状態
  • 食事・水分摂取
  • 咳、喀痰、疼痛などの症状
  • 炎症反応の推移
  • 培養・感受性結果

副作用

  • 発疹、呼吸困難、血圧低下
  • 悪心・嘔吐・下痢
  • 腎機能障害
  • 肝機能障害
  • 血球減少
  • 薬剤ごとの特徴的な副作用

4.整理演習

学生に次のカードを並べてもらう。
  • 感染部位を推定する
  • 重症度を判断する
  • 培養検体を採取する
  • 経験的治療を開始する
  • 効果と副作用を観察する
  • 培養結果を確認する
  • 抗菌薬を狭域化・変更・終了する

問い

なぜこの順番になるのか。看護師は、それぞれの場面で何を確認するのか。
ここでは「抗菌薬の名前を覚える」ことよりも、治療過程の全体像を形成することを優先する。

5.症例演習

第1段階|抗菌薬投与前

82歳男性。
38.7℃の発熱、湿性咳嗽、呼吸困難がある。
呼吸数28回/分、SpO₂ 89%(室内気)、脈拍108回/分、血圧104/62 mmHg。
普段より反応が鈍い。胸部画像で肺炎像が認められた。
eGFR 32 mL/min/1.73㎡。
血液培養・喀痰培養と静脈内抗菌薬が指示された。
診療録には「ペニシリンアレルギー」とだけ記載されている。

Q1|この患者で優先して評価することは何か

  • 呼吸状態と酸素化
  • 意識状態
  • 循環状態
  • 感染症の重症度
  • 敗血症への進行可能性

Q2|抗菌薬投与前に確認することは何か

  • アレルギーの具体的な内容
  • 培養検体の採取状況
  • 腎機能
  • 体重と投与量
  • 併用薬
  • 過去の抗菌薬使用歴
  • 投与経路、投与速度
  • 投与開始時刻

Q3|培養採取が完了するまで投与を待つべきか

原則として、可能なら抗菌薬投与前に適切な検体を採取する。
ただし、この患者は低酸素血症、頻呼吸、意識変化があり、治療の緊急性が高い。検体採取によって抗菌薬開始を不当に遅らせてはならない。

第2段階|治療開始後

酸素投与と抗菌薬治療が開始された。
48時間後、体温37.5℃、呼吸数20回/分。
酸素投与量は減少し、SpO₂ 94%を維持している。
意識状態と食事摂取量も改善した。
喀痰培養から、使用中の抗菌薬に感受性のある肺炎球菌が検出された。

Q4|治療効果を何で判断するか

  • 呼吸数の低下
  • 酸素化の改善
  • 必要酸素量の減少
  • 意識状態の改善
  • 食事摂取量の改善
  • 発熱や症状の改善
  • 炎症反応の推移
体温やCRPの一点だけではなく、患者全体の経時的変化で判断する。

Q5|培養結果を得た後に考えることは何か

  • 現在の薬が必要か
  • より狭域の薬に変更できるか
  • 投与量は適切か
  • 静脈内投与を継続する必要があるか
  • 投与期間は適切か
培養結果や臨床経過から対象を絞ることは、抗菌薬適正使用の重要な要素である。厚生労働省は2026年に「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版」を公開している。(厚生労働省)

第3段階|治療中の変化

治療5日目、1日6回の水様便と腹痛が出現した。
食事・水分摂取量が低下し、血清クレアチニン値が上昇している。

Q6|何を考えるか

  • 抗菌薬関連下痢症
  • Clostridioides difficile感染症
  • 下痢による脱水
  • 腎機能悪化
  • 抗菌薬の蓄積
  • 他の薬剤や感染症の影響

Q7|看護師として何を確認・報告するか

  • 排便回数、性状、量
  • 腹痛、発熱
  • 血圧、脈拍
  • 尿量
  • 水分出納
  • 腎機能と電解質
  • 抗菌薬の種類と投与期間
  • 感染対策の必要性
看護師が独自に抗菌薬を中止するのではなく、変化を整理して速やかに報告し、治療の再評価につなげる。

6.B治療理解型の扱い

A領域の症例演習と同じ深さにはせず、薬物治療の原則を短く整理する。
領域授業で残す内容
抗結核薬多剤併用、長期治療、服薬継続、耐性化の防止
抗ウイルス薬ウイルスごとに薬が異なり、開始時期が重要な薬がある
抗真菌薬真菌に対する薬で、相互作用や肝・腎機能に注意する
抗寄生虫薬寄生虫の種類と生活環に応じて薬を選ぶ
ワクチン能動免疫による感染・発症・重症化予防、接種後の観察

7.授業のまとめ

Take Home Message

  1. 感染症は「感染部位・病原体・患者の状態」で考える
  1. 検体は適切な部位・方法・タイミングで採取する
  1. 抗菌薬投与前にアレルギー歴と腎機能を確認する
  1. 効果判定はバイタル・症状・検査値を経時的にみる
  1. 培養結果を治療の狭域化・変更・終了につなげる
  1. 抗菌薬適正使用は看護師の観察と情報共有にも支えられている
抗菌薬適正使用支援は、入院・外来を含む組織的な活動として位置づけられている。(日本化学療法学会・8学会合同ガイダンス)