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2.対面授業90分

到達目標

  1. 抗精神病薬の効果と主要副作用を説明できる
  1. 悪性症候群とセロトニン症候群を疑う徴候を挙げられる
  1. 抗うつ薬開始後の気分・行動変化を評価できる
  1. 睡眠薬による転倒・せん妄を評価できる
  1. 向精神薬の急な中止による離脱症状を説明できる

時間配分

時間内容
0~5分事前学習確認
5~17分抗精神病薬
17~27分抗うつ薬・気分安定薬
27~33分抗不安薬・睡眠薬
33~35分依存症治療・離脱管理
35~45分症状・薬・副作用の整理演習
45~60分症例1:発熱・筋強剛
60~75分症例2:希死念慮
75~85分症例3:転倒・せん妄
85~90分確認小テスト

3.抗精神病薬

作用の基本

中脳辺縁系のドパミンD₂作用を抑える
幻覚・妄想などの陽性症状を改善する
一方で、他のドパミン経路も遮断すると副作用が起こる。
ドパミン経路遮断による主な影響
黒質線条体系錐体外路症状
漏斗下垂体系高プロラクチン血症
中脳皮質系陰性症状・認知機能への影響
化学受容器引金帯制吐作用

主要な副作用

錐体外路症状

症状特徴
急性ジストニア頸部・眼球・顎などの異常な筋収縮
アカシジアじっとしていられない、足を動かし続ける
薬剤性Parkinson症候群動作緩慢、筋強剛、振戦
遅発性ジスキネジア口・舌・顔面などの反復運動
アカシジアは「落ち着きがない」「病状が悪化した」と誤認されやすい。

その他

  • 眠気・鎮静
  • 起立性低血圧
  • 抗コリン作用
  • QT延長
  • 体重増加
  • 高血糖・脂質異常
  • 高プロラクチン血症
  • 悪性症候群
「統合失調症薬物治療ガイドライン2022」は、関連学会・多職種・当事者等が参加して作成されている。(日本精神神経学会)

4.悪性症候群

抗精神病薬開始・増量など
中枢ドパミン機能の急激な低下
体温調節・筋緊張・自律神経機能の障害

主な徴候

  • 高熱
  • 強い筋強剛
  • 意識変化
  • 発汗
  • 頻脈
  • 血圧変動
  • CK上昇
  • ミオグロビン尿
  • 腎機能障害
これは単なる「抗精神病薬による発熱」ではなく、生命に関わる緊急状態である。

観察と対応

  • 体温
  • 意識
  • 筋緊張
  • 血圧・脈拍
  • 呼吸
  • 尿量・尿色
  • CK、腎機能、電解質
  • 抗精神病薬の開始・増量・変更時期
悪性症候群を疑った場合は、次回薬を通常どおり投与せず、緊急に医師・医療チームへ報告して対応につなげる。

5.抗うつ薬

主な薬効群

薬効群主な作用重要な注意点
SSRIセロトニン再取り込み阻害悪心、性機能、出血、低Na、セロトニン症候群
SNRIセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害血圧、脈拍、離脱症状
NaSSAノルアドレナリン・セロトニン系を調節眠気、食欲・体重増加
三環系抗うつ薬モノアミン再取り込み阻害など抗コリン作用、起立性低血圧、不整脈、過量中毒
その他薬剤ごとの機序眠気、相互作用など

効果判定

抗うつ薬は、服用直後に抑うつ症状が完全に改善する薬ではない。経時的に、
  • 気分
  • 興味・喜び
  • 睡眠
  • 食欲
  • 活動量
  • 会話
  • 希死念慮
  • 副作用
を評価する。
日本うつ病学会では、うつ病診療ガイドラインと双極症診療ガイドラインを整備している。薬物療法だけでなく、心理社会的支援や精神療法を含めて治療する。(日本うつ病学会)

6.セロトニン症候群

セロトニン作用薬
他のセロトニン作用薬、増量、相互作用
セロトニン作用過剰

主な徴候

  • 焦燥・興奮
  • 発汗
  • 発熱
  • 下痢
  • 頻脈
  • 振戦
  • 腱反射亢進
  • クローヌス

悪性症候群との比較

項目悪性症候群セロトニン症候群
主な原因ドパミン遮断などセロトニン作用過剰
筋所見強い筋強剛腱反射亢進、クローヌス
消化器症状目立たない場合が多い下痢などがみられる
発症数日かける場合もある比較的急速なことが多い
共通点発熱、意識変化、自律神経症状発熱、意識変化、自律神経症状
実際には所見が重なるため、看護師が確定診断するのではなく、原因薬・時間経過・神経所見を整理して緊急報告する。

7.気分安定薬

主な目的重要な注意点
リチウム躁状態・再発予防など腎機能、甲状腺、血中濃度、中毒
バルプロ酸躁状態・再発予防など肝機能、血小板、妊娠
カルバマゼピン躁状態など皮疹、低Na、血球減少、相互作用
ラモトリギン双極症の抑うつ・再発予防など皮疹、重症薬疹

リチウム中毒を疑う変化

  • 悪心・下痢
  • 粗大な振戦
  • 構音障害
  • ふらつき
  • 傾眠・意識障害
脱水、腎機能低下、NSAIDs、利尿薬などが血中濃度上昇に関係する場合がある。

8.抗不安薬・睡眠薬

主な薬効群

薬効群作用方向注意点
ベンゾジアゼピン系GABA作用を増強鎮静、筋弛緩、呼吸抑制、転倒、依存
非ベンゾジアゼピン系GABA系に作用転倒、健忘、異常行動、依存
メラトニン受容体作動薬概日リズムに作用眠気、相互作用
オレキシン受容体拮抗薬覚醒系を抑制翌朝の眠気、転倒、相互作用
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬も「高齢者に完全に安全な薬」ではない。

投与前後の観察

  • 不眠の種類
  • 昼寝
  • 夜間頻尿
  • 疼痛、呼吸困難
  • 睡眠時無呼吸
  • 飲酒
  • 服用時刻
  • 夜間覚醒時の追加服用
  • 翌朝の眠気
  • ふらつき・転倒
  • せん妄
  • 呼吸状態
日本睡眠学会は「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」を公開している。(日本睡眠学会)

9.依存と離脱

依存症は意思の弱さや性格だけで説明できるものではない。生物学的・心理的・社会的要因が関係する治療対象の疾患である。

急な中止で問題になる薬物

  • アルコール
  • ベンゾジアゼピン系薬
  • 一部の抗うつ薬
  • オピオイド
  • その他の依存性物質

アルコール離脱

  • 手指振戦
  • 発汗
  • 頻脈
  • 血圧上昇
  • 不安
  • 不眠
  • 幻覚
  • けいれん
  • 離脱せん妄

ベンゾジアゼピン系薬の離脱

  • 不安
  • 不眠
  • 焦燥
  • 振戦
  • 発汗
  • 知覚過敏
  • けいれん
長期服用後に自己判断で急に中止しない。

10.整理演習

学生に「症状カード」と「薬剤カード」を配る。

症状カード

  • じっとしていられない
  • 高熱と筋強剛
  • 振戦と下痢
  • 口渇と尿閉
  • 体重増加
  • 粗大な振戦と構音障害
  • 翌朝の眠気
  • 急な不眠・発汗・けいれん

整理する項目

  1. 原疾患の症状か
  1. 薬の副作用か
  1. 離脱症状か
  1. 緊急性はあるか
  1. 追加で何を確認するか

11.症例1|発熱・筋強剛

32歳男性。統合失調症で入院中。
抗精神病薬が増量されて3日後、39.4℃の発熱、全身の強い筋強剛、発汗、頻脈、反応の鈍さが出現した。
CK 3,500U/L。

Q1|何を考えるか

悪性症候群を最優先に考える。

Q2|確認することは何か

  • 抗精神病薬の種類
  • 開始・増量時期
  • 体温
  • 意識
  • 筋強剛
  • 血圧、脈拍
  • 呼吸
  • CK
  • 腎機能
  • 尿量・尿色
  • 脱水

Q3|看護師として何をするか

  • 緊急に報告する
  • ABCとバイタルを評価する
  • 次回投与を通常どおり進めない
  • 体温、循環、尿量を継続評価する
  • 転倒・誤嚥を予防する
  • 原因薬と症状の時間関係を整理する

12.症例2|抗うつ薬開始後の希死念慮

24歳女性。うつ病で抗うつ薬を開始して1週間。
以前より会話量と活動性は少し増えた。
「消えてしまいたい。薬を全部飲めば死ねるかもしれない」と話した。

Q1|直接、自殺について尋ねてもよいか

必要である。曖昧にせず、落ち着いて確認する。
  • 死にたい気持ちはあるか
  • 具体的な方法を考えているか
  • 実行する予定時刻はあるか
  • 手段を入手できるか
  • 過去の自傷・自殺企図はあるか
  • 一人になる予定があるか
  • 支えになる人・理由はあるか

Q2|「元気が出てきたので改善」と判断してよいか

判断できない。活動性が先に改善し、抑うつ気分や希死念慮が残っている可能性がある。

Q3|対応

  • 一人にしないなど安全を確保する
  • 薬や刃物などへのアクセスを確認する
  • 発言を否定・説教しない
  • 具体的内容を速やかに医療チームへ共有する
  • 家族・支援者との連携を検討する
  • 継続的に希死念慮を評価する

13.症例3|睡眠薬と転倒・せん妄

83歳男性。入院後の不眠に対して睡眠薬が追加された。
深夜にベッドから立ち上がって転倒した。
翌朝は眠気が強く、「ここは自宅だ」と話している。

Q1|何を考えるか

  • 睡眠薬による鎮静・筋弛緩
  • 夜間せん妄
  • 起立性低血圧
  • 薬物蓄積
  • 感染、低酸素、疼痛、尿閉、便秘
  • 環境変化
  • 頭部外傷

Q2|確認することは何か

  • 睡眠薬の種類、量、服用時刻
  • 追加服用
  • 併用する鎮静薬
  • 飲酒
  • 呼吸・SpO₂
  • 血圧
  • 意識・見当識
  • 疼痛、排尿、排便
  • 転倒時の頭部打撲
  • 腎・肝機能

Q3|薬を急に中止すればよいか

長期服用している薬では離脱症状が起こる可能性がある。一律に急中止するのではなく、薬剤、使用期間、依存・離脱リスクを整理して治療の見直しにつなげる。

14.Take Home Message

  1. 精神科薬の評価では行動・会話・睡眠・食事を経時的にみる
  1. 高熱・筋強剛・意識変化は悪性症候群を疑う
  1. クローヌス・反射亢進・下痢はセロトニン症候群を考える
  1. 希死念慮は曖昧にせず、具体性と切迫性を確認する
  1. 睡眠薬使用中は夜間転倒、翌朝の眠気、せん妄を観察する
  1. 向精神薬を自己判断で急に中止しない