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2.対面授業90分

授業目標

消化器症状の原因と治療目的を整理し、患者背景から薬の効果・重大副作用・使用上の問題を説明できる。

時間配分

時間内容
0~5分事前学習確認
5~20分胃酸関連疾患と治療薬
20~30分制吐薬・消化管運動改善薬
30~42分下剤・止痢薬
42~50分IBD・肝胆膵領域
50~65分薬効群の整理演習
65~75分症例1:NSAIDsと潰瘍予防
75~85分症例2:便秘患者の下剤選択
85~90分Exit Ticket

3.胃酸関連疾患と治療薬

胃酸分泌抑制薬

薬効群主な作用学生に残す注意点
PPIプロトンポンプを阻害効果発現、服薬継続、長期使用の必要性を見直す
P-CABK⁺競合的に酸分泌を抑制強力な酸分泌抑制
H₂受容体拮抗薬ヒスタミンによる酸分泌を抑制腎機能低下時の蓄積に注意
制酸薬胃酸を中和他薬の吸収への影響、腎機能、電解質
粘膜保護薬粘膜防御を補助酸分泌抑制薬と目的が異なる
GERDの治療では、酸分泌抑制が中心になる。現時点で一般公開されている日本消化器病学会の公式版は「GERD診療ガイドライン2021」であり、2026年版は改訂作業段階である。(日本消化器病学会)

原因治療との違い

症状・粘膜障害を抑える

胃酸分泌抑制薬
胃内pH上昇
疼痛・逆流症状の改善、潰瘍治癒の促進

原因を除去する

H. pylori感染
酸分泌抑制薬+複数の抗菌薬
除菌
除菌判定
「胃潰瘍だからPPIだけ」とは限らない。H. pylori、NSAIDs、低用量アスピリンなどの原因を確認する必要がある。

4.制吐薬・消化管運動改善薬

悪心・嘔吐は、原因によって関与する経路が異なる。
主な経路・受容体関連する場面注意する副作用
D₂受容体薬剤性、消化管運動低下など錐体外路症状、プロラクチン関連症状
5-HT₃受容体抗がん薬、術後など便秘、QT延長
NK₁受容体抗がん薬による嘔吐相互作用
H₁受容体動揺病・前庭性嘔吐眠気、抗コリン作用
ムスカリン受容体動揺病など口渇、尿閉、便秘
消化管運動改善胃内容排出の遅延など不整脈、錐体外路症状など
「吐いているから制吐薬」だけでは不十分である。
  • 腸閉塞
  • 頭蓋内圧亢進
  • 消化管出血
  • 薬剤性
  • 感染症
  • 妊娠
  • 抗がん薬治療
などの原因を先に考える。

5.下剤・止痢薬

下剤の整理

薬効群作用主な注意点
浸透圧性下剤腸管内に水分を保持する脱水、電解質、腎機能
酸化マグネシウム腸管内に水分を引き込む腎機能低下、高Mg血症
PEG製剤腸管内の浸透圧を高める腹部膨満など
上皮機能変容薬腸管内への水分分泌を促す悪心、下痢など
胆汁酸トランスポーター阻害薬胆汁酸を大腸に送る腹痛、下痢
刺激性下剤大腸運動・分泌を促進する腹痛、過量・漫然使用の見直し
膨張性下剤便量を増やす十分な水分、狭窄・閉塞への注意
便秘薬は「何日出ていないか」だけで選ばない。
  • Bristol便形状
  • いきみ
  • 残便感
  • 排便回数
  • 腹痛・嘔吐
  • 腹部膨満
  • 食事・水分・活動量
  • 腎機能
  • 便秘を起こす薬
  • 腸閉塞や器質的疾患の可能性
を確認する。
特に、腎機能低下患者に酸化マグネシウムを漫然と増量するのは不適切である。高Mg血症の危険がある。便秘治療の基準には「便通異常症診療ガイドライン2023」がある。(日本消化管学会Minds)

止痢薬

下痢を止めることが、常に適切とは限らない。
  • 血便
  • 高熱
  • 強い腹痛
  • 感染性腸炎の疑い
  • 抗菌薬使用後
  • 脱水
  • 炎症性腸疾患の増悪
がある場合は、原因評価を優先する。

6.IBD・肝胆膵領域

炎症性腸疾患

治療段階目的
寛解導入活動性炎症を抑える
寛解維持再燃を防ぐ
主な治療薬は、5-ASA製剤、副腎皮質ステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤、低分子化合物などである。
重要なのは、副腎皮質ステロイドは基本的に寛解維持薬ではないという点である。
観察項目は、血便、排便回数、腹痛、発熱、体重、栄養状態、感染徴候などとする。(日本消化器病学会・IBD診療ガイドライン)

肝疾患

  • ウイルス性肝炎:原因ウイルスに対する治療
  • 肝性脳症:腸管でのアンモニア産生・吸収を抑える
  • 腹水:Na・水分管理、利尿薬など
  • 胆汁うっ滞:原因に応じた治療
  • 肝機能低下:薬物代謝低下や出血傾向に注意

胆道・膵疾患

  • 胆管炎・胆囊炎:抗菌薬だけでなく、必要に応じてドレナージや手術
  • 急性膵炎:輸液、疼痛管理、栄養管理などが中心
  • 慢性膵炎・膵外分泌不全:消化酵素補充
  • 膵内分泌機能低下:血糖管理
「胆石を薬で溶かす」「膵炎を薬だけで治す」と単純化しない。

7.整理演習

次の項目を「治療目的」で分類させる。
治療目的
症状を抑える制吐薬、止痢薬、消化管運動改善薬
攻撃因子を抑えるPPI、P-CAB、H₂受容体拮抗薬
防御機能を補う粘膜保護薬
原因を除くH. pylori除菌、肝炎ウイルス治療
炎症を抑える5-ASA、ステロイド、生物学的製剤
不足する機能を補う膵消化酵素補充
合併症を改善する肝性脳症・腹水に対する治療

演習の問い

同じ「腹部症状に使う薬」でも、治療目的はどのように違うか。

8.症例1|NSAIDs使用患者の潰瘍予防

72歳女性。変形性膝関節症でNSAIDsを連日服用している。
5年前に胃潰瘍による入院歴がある。
現在、胃痛はない。便は「最近少し黒っぽい気がする」と話す。

Q1|胃痛がなければ、潰瘍は否定できるか

否定できない。高齢者やNSAIDs使用者では、疼痛が目立たないまま潰瘍や出血が進行する場合がある。

Q2|確認する情報は何か

  • NSAIDsの種類、用量、使用期間
  • 低用量アスピリン、抗凝固薬、ステロイドの併用
  • 潰瘍・消化管出血歴
  • H. pylori感染・除菌歴
  • 黒色便、吐血、ふらつき
  • 血圧、脈拍
  • Hb、BUNなど
  • 飲酒、喫煙
  • 酸分泌抑制薬の使用状況

Q3|治療上の検討事項は何か

  • NSAIDsを継続する必要性
  • 他の鎮痛方法への変更可能性
  • 消化管リスクに応じた潰瘍予防
  • H. pylori感染の評価
  • 消化管出血の有無
「胃薬を何か併用すればよい」ではなく、潰瘍リスクと予防効果を考える。

9.症例2|便秘患者の下剤選択

78歳女性。5日間排便がない。
少量の硬い便が出るが、強くいきまないと出ない。Bristol便形状スケール1。
eGFR 28 mL/min/1.73㎡。
酸化マグネシウムを毎日服用し、便が出ない日は刺激性下剤を追加している。
「酸化マグネシウムを増やしてほしい」と話す。

Q1|追加で確認することは何か

  • 腹痛、嘔吐、腹部膨満
  • 排ガス
  • 血便
  • 食事・水分量
  • 活動量
  • 排便姿勢
  • 残便感
  • 併用薬
  • 血清Mg、腎機能、電解質
  • 意識、血圧、脈拍

Q2|酸化マグネシウムを増量してよいか

腎機能が低下しており、安易な増量は適切ではない。高Mg血症の危険を考え、血清Mg値、現在の投与量、症状を確認して報告する。

Q3|下剤選択を何から考えるか

  • 便が硬いのか
  • 腸管運動が低下しているのか
  • 排出動作に問題があるのか
  • 腸閉塞などの禁忌がないか
  • 腎機能や電解質異常がないか

10.Exit Ticket

学生に次の1文を完成させてもらう。
消化器症状の患者に薬を使う前に、私は「________」を確認する。
想定される回答は、「症状の原因」「警告徴候」「排便・嘔吐の具体的状況」「腎機能」「原因薬」などである。