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2.対面授業90分

到達目標

  1. 糖尿病薬を作用点で分類できる
  1. インスリンの種類と食事の関係を説明できる
  1. 低血糖を発見し、初期対応につなげられる
  1. 腎機能低下時に薬剤の再評価が必要な理由を説明できる
  1. 脂質・骨・尿酸治療の目的と重要な注意点を説明できる

時間配分

時間内容
0~5分事前学習確認
5~20分糖尿病薬・インスリン
20~25分脂質異常症治療薬
25~31分骨粗鬆症治療薬
31~35分高尿酸血症・痛風治療薬
35~40分栄養関連薬・骨関節疾患
40~55分薬効群整理演習
55~85分段階提示型症例
85~90分確認小テスト

3.糖尿病薬を作用点で整理する

糖尿病薬の全体像

薬効群主な作用特に注意すること
インスリン不足するインスリンを補う低血糖、食事、投与量、取り違え
スルホニル尿素薬インスリン分泌を促進低血糖、遷延性低血糖
速効型インスリン分泌促進薬食後の分泌を促進食事を摂らない場合の低血糖
DPP-4阻害薬内因性インクレチン作用を増強腎機能による用量調整が必要な薬がある
GLP-1受容体作動薬血糖依存的分泌促進、食欲・胃排出に影響悪心、嘔吐、食事摂取低下
ビグアナイド薬肝糖産生を抑制腎機能、脱水、低酸素状態、乳酸アシドーシス
チアゾリジン薬インスリン抵抗性を改善浮腫、心不全、体重増加
α-グルコシダーゼ阻害薬糖質吸収を遅らせる腹部症状、低血糖時はブドウ糖で対応
SGLT2阻害薬尿中への糖排泄を促進脱水、尿路・性器感染、ケトアシドーシス
配合薬複数機序を組み合わせる成分の重複、薬効の見落とし
糖尿病薬は「新しい薬ほど強い」「HbA1cだけで選ぶ」というものではない。心不全、CKD、肥満、低血糖リスク、年齢、食事、認知・生活状況などによって治療選択が変わる。
国内では「糖尿病診療ガイドライン2024」が公開され、2026年には「糖尿病治療の手びき2026」も刊行されている。(日本糖尿病学会Minds)

4.インスリンの整理

種類主な役割食事との関係
超速効型・速効型食後血糖を抑える食事摂取と密接に関連
中間型基礎分泌を補う食事だけでは判断できない
持効型溶解基礎分泌を補う食事を摂らないから一律に中止、ではない
混合型基礎分泌と食事分泌を補う食事時刻・摂取量の影響が大きい

学生に残す原則

  • インスリン名だけでなく、種類と作用時間を確認する
  • 投与量を単位で確認する
  • 食前血糖と食事摂取予定を確認する
  • 投与後に食事が摂れなかった場合は低血糖を警戒する
  • 1型糖尿病では、基礎インスリンを自己判断で中止するとケトアシドーシスの危険がある
  • 「食べないからすべてのインスリンを中止する」という理解は間違っている

5.低血糖の理解

交感神経症状

  • 発汗
  • 振戦
  • 動悸
  • 空腹感
  • 不安感

中枢神経症状

  • 集中力低下
  • 異常行動
  • 傾眠
  • 意識障害
  • けいれん
高齢者では、典型的な発汗や振戦が目立たず、
  • ぼんやりしている
  • 元気がない
  • 転倒した
  • いつもと行動が違う
という形で現れる場合がある。

初期対応の考え方

意識があり、安全に嚥下できる

施設の手順に従い、速やかにブドウ糖を摂取させ、一定時間後に血糖を再確認する。
α-グルコシダーゼ阻害薬服用中は、砂糖ではなくブドウ糖を用いる。

意識障害・嚥下困難がある

無理に飲ませない。誤嚥の危険があるため、静脈内ブドウ糖やグルカゴンなどの緊急対応につなげる。

6.腎機能低下と糖尿病薬

腎機能が低下すると、
  • インスリンの作用が遷延する
  • 腎排泄型薬剤が蓄積する
  • 低血糖が長引く
  • 脱水や急性疾患時の有害事象が増える
  • 使用できない薬や用量調整が必要な薬がある
という問題が起こる。

特に確認すること

  • eGFR
  • 脱水
  • 食事・水分摂取
  • 嘔吐・下痢
  • 発熱・感染
  • 造影検査・手術
  • 低血糖歴
  • 糖尿病薬の種類と最終服用時刻

7.B/C領域の整理

脂質異常症治療薬

薬効群主な作用重要な観察
スタチン肝臓でのコレステロール合成を抑える筋症状、CK、肝機能、相互作用
小腸コレステロール吸収阻害薬小腸からの吸収を抑える肝機能、併用薬
PCSK9阻害薬LDL受容体の分解を抑える注射部位、治療継続
フィブラート系など中性脂肪を低下させる腎機能、肝機能、筋症状
治療目的は検査値を下げることだけでなく、将来の動脈硬化性疾患を予防することである。(日本動脈硬化学会・動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022)

骨粗鬆症治療薬

治療方向代表的な薬効群重要な注意点
骨吸収を抑えるビスホスホネート、デノスマブ、SERMなど低Ca血症、顎骨、投与法
骨形成を促進する副甲状腺ホルモン関連薬など投与期間、Ca
骨形成促進+骨吸収抑制抗スクレロスチン抗体心血管病歴など
Ca代謝を整える活性型ビタミンD製剤など高Ca血症、腎機能
経口ビスホスホネート薬では、薬剤ごとの指示に従い、
  • 起床時など空腹時に服用
  • 水で服用
  • 服用後は一定時間横にならない
  • 飲食や他薬との間隔を空ける
といった服薬方法が重要になる。
現行の公式資料は「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版」である。(日本骨粗鬆症学会)

高尿酸血症・痛風治療薬

急性発作時

目的は炎症と疼痛を抑えることである。
  • NSAIDs
  • コルヒチン
  • 副腎皮質ステロイド薬
などが用いられる。

長期管理

目的は血清尿酸値を低下させ、発作・尿路結石・関節障害などを予防することである。
  • 尿酸生成抑制薬
  • 尿酸排泄促進薬
  • 尿酸分解酵素薬など
「発作を止める薬」と「尿酸値を長期的に下げる薬」は目的が異なる。既に服用している尿酸降下薬を、発作時に自己判断で中止しない。(Minds・高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版/2022年追補版)

栄養・ビタミン・微量元素関連薬

補充は、欠乏や必要性を確認して行う。
  • 脂溶性ビタミンは体内に蓄積しやすい
  • ビタミンKは抗凝固薬に影響する
  • 鉄・Ca・Mgなどは他薬の吸収に影響する
  • 腎機能低下時は電解質・微量元素の過剰に注意する
「ビタミンだから安全」「多いほどよい」という理解は間違っている。

8.整理演習

学生に薬剤カードを配り、次の4項目に分類させる。
  1. どこに作用するか
  1. 何を改善するか
  1. 何が起こり過ぎる可能性があるか
  1. 何を観察するか

作用起こり得る問題観察
インスリン血糖を低下させる低血糖血糖、食事、意識
SGLT2阻害薬尿中へ糖を排泄脱水、感染、ケトアシドーシス水分、尿、全身状態
スタチンコレステロール合成抑制筋障害筋痛、脱力、CK
ビスホスホネート骨吸収抑制食道障害、低Ca血症など服薬方法、Ca、口腔
尿酸降下薬尿酸値を低下皮疹、肝腎機能障害など皮膚、肝腎機能

9.段階提示型症例

第1段階|食事摂取不良とインスリン

78歳女性。2型糖尿病で入院中。
持効型インスリンと毎食前の超速効型インスリンを使用している。
朝食前血糖98mg/dL。悪心があり、「今日は食べられない」と話している。
eGFR 28mL/min/1.73㎡。

Q1|投与前に確認することは何か

  • インスリンの名称と種類
  • 投与量
  • 投与時刻
  • 食事の準備・摂取予定
  • 悪心・嘔吐
  • 現在の血糖値
  • 直前の低血糖
  • 腎機能
  • 投与指示や食事摂取不良時の指示

Q2|食べられないので、すべてのインスリンを中止してよいか

一律に中止するのは適切ではない。
  • 追加インスリンは食事摂取との関係が大きい
  • 基礎インスリンは空腹時の糖産生を抑える役割がある
  • 糖尿病の病型や病状によっては、中止により著しい高血糖やケトアシドーシスを起こす
自己判断せず、血糖・食事・インスリンの種類を整理して確認・報告する。

第2段階|低血糖

超速効型インスリン投与後、朝食をほとんど摂取できなかった。
1時間後、冷汗、手指振戦、反応の鈍さがみられた。
血糖値48mg/dL。

Q3|何が起きているか

食事摂取不足とインスリン作用による低血糖を考える。腎機能低下も低血糖の遷延に関与する可能性がある。

Q4|最初に何を評価するか

  • 意識
  • 嚥下可能性
  • 呼吸・循環
  • 血糖値
  • インスリンの種類・投与時刻
  • 食事摂取量
  • 他の血糖降下薬

Q5|改善後に何をするか

  • 血糖を再測定する
  • 症状の再燃を観察する
  • 食事摂取量を確認する
  • 原因を分析する
  • 次回のインスリン・食事調整につなげる
  • 投与時刻や食事確認手順を振り返る
血糖が一度上がっても、作用時間の長いインスリンや薬剤では低血糖が再発する場合がある。

第3段階|腎機能低下時の薬剤評価

内服薬としてビグアナイド薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬も処方されている。
患者には悪心、食事・水分摂取低下が続いている。

Q6|どのような視点で薬を再評価するか

  • eGFRによる禁忌・用量調整
  • 脱水
  • 急性腎障害
  • 低血糖リスク
  • 乳酸アシドーシスのリスク
  • 正常血糖に近い値でも起こり得るケトアシドーシス
  • 各薬の最終服用時刻
  • Sick day時の指示
ここでは学生に薬剤の中止を決定させるのではなく、
どの薬が、どの患者背景によって危険になり得るかを整理して報告する
ことを目標とする。

10.Take Home Message

  1. インスリンは種類によって食事との関係が異なる
  1. 食事摂取不良時に、すべてのインスリンを一律に中止しない
  1. 低血糖では意識と嚥下可能性を最初に確認する
  1. 腎機能低下では薬物蓄積と低血糖遷延に注意する
  1. 糖尿病薬は血糖値だけでなく心・腎・体重・生活背景から選ばれる
  1. 脂質・骨・尿酸治療は、将来の合併症予防を目的とする