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2.対面授業90分

到達目標

  1. NSAIDsとアセトアミノフェンの違いを説明できる
  1. オピオイド投与後の呼吸・意識・便通を評価できる
  1. 周術期の麻酔薬による呼吸・循環への影響を説明できる
  1. 発熱性好中球減少症を疑い、緊急対応につなげられる
  1. 抗がん薬の血管外漏出時の初期対応を説明できる

時間配分

時間内容
0~5分事前学習確認
5~12分NSAIDs・アセトアミノフェン
12~22分オピオイド・がん疼痛管理
22~27分麻酔薬・周術期薬
27~35分抗がん薬・支持療法
35~45分薬効・副作用整理演習
45~60分症例1:オピオイド開始後
60~73分症例2:発熱性好中球減少症
73~85分症例3:血管外漏出
85~90分確認小テスト

3.NSAIDsとアセトアミノフェン

NSAIDs

アラキドン酸
↓ COX
プロスタグランジン
↓
炎症・疼痛・発熱
NSAIDsはCOXを阻害して、プロスタグランジン産生を抑える。

効果と副作用は同じ機序から考える

プロスタグランジン低下の部位起こり得ること
炎症部位炎症・疼痛・発熱の軽減
胃粘膜潰瘍・消化管出血
腎臓腎血流低下、AKI、Na・水貯留
血小板止血への影響
気道一部患者で喘息増悪
心血管系血圧・心不全・血栓リスクへの影響

NSAIDs投与前後に確認すること

  • 潰瘍・消化管出血歴
  • 腎機能
  • 脱水
  • 心不全・高血圧
  • 喘息歴
  • 抗凝固薬・抗血小板薬
  • 他のNSAIDs
  • 高齢、低体重
  • 疼痛の原因と効果

アセトアミノフェン

アセトアミノフェンはNSAIDsではない。解熱・鎮痛作用を持つが、末梢の抗炎症作用は強くない。

注意点

  • 肝機能障害
  • 低栄養
  • 多量飲酒
  • 敗血症など
  • 配合剤との成分重複
  • 過量投与
  • 投与量と投与間隔
総合感冒薬や鎮痛配合剤にも含まれるため、商品名だけでなく成分を確認する。

4.オピオイド・がん疼痛管理

μ受容体を介する主な作用

作用患者に現れる変化
鎮痛痛みの軽減、動作・睡眠の改善
呼吸中枢抑制呼吸数低下、傾眠
消化管運動抑制便秘
化学受容器引金帯への作用悪心・嘔吐
中枢神経作用眠気、せん妄など

鎮痛薬の選択

以前の「弱い鎮痛薬から順番に必ず階段状に上げる」という固定的な理解は正確ではない。
現在は、
  • 痛みの強さ
  • 痛みの機序
  • 持続痛・突出痛
  • 臓器機能
  • 既往歴
  • 患者の希望
から適切な薬を選び、効果と副作用を再評価する。
日本緩和医療学会は「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」を公開している。(日本緩和医療学会)

定時薬とレスキュー薬

薬目的
定時薬持続痛を継続的に抑える
レスキュー薬突出痛を速やかに軽減する

効果判定

  • NRSなどの疼痛強度
  • 安静時痛・体動時痛
  • 睡眠
  • 食事
  • 離床・歩行
  • レスキュー使用回数
  • 効果発現までの時間
  • 効果持続時間

副作用の観察

  • 呼吸数
  • 呼吸の深さ
  • SpO₂
  • 意識・傾眠
  • 瞳孔
  • 血圧
  • 悪心・嘔吐
  • 排便
  • 尿閉
  • せん妄

便秘

オピオイドによる便秘には耐性が形成されにくい。禁忌がなければ、開始時から予防的な便秘対策を検討する。

呼吸抑制

眠っているから呼吸数を確認しなくてよい、という判断は危険である。過鎮静が呼吸抑制に先行することがある。
重度の呼吸抑制では、気道・呼吸への対応とともに、必要に応じてオピオイド拮抗薬を使用する。

5.麻酔薬・周術期薬物療法

周術期に使う薬の目的

薬効群目的
静脈麻酔薬・吸入麻酔薬意識消失・麻酔維持
オピオイド鎮痛
筋弛緩薬挿管・手術操作を可能にする
局所麻酔薬神経伝導を遮断する
昇圧薬・輸液循環を維持する
制吐薬術後悪心・嘔吐を予防・治療する
筋弛緩拮抗薬残存筋弛緩を回復させる

周術期の観察

  • 酸素化
  • 換気
  • 呼吸数
  • 呼気CO₂
  • 血圧
  • 心電図
  • 体温
  • 筋弛緩
  • 覚醒
  • 疼痛
  • 悪心・嘔吐
日本麻酔科学会の「安全な麻酔のためのモニター指針」は2025年8月に改訂され、酸素化、換気、循環、体温、筋弛緩などの監視を示している。(日本麻酔科学会)

術後に注意すること

  • 舌根沈下・気道閉塞
  • オピオイドによる呼吸抑制
  • 残存筋弛緩
  • 低血圧
  • 低体温
  • 術後悪心・嘔吐
  • せん妄
  • 疼痛
SpO₂が保たれていても、酸素投与中には換気低下が隠れる場合がある。呼吸数、呼吸の深さ、意識も確認する。

6.抗がん薬

大きな分類

分類主な標的重要な有害事象
殺細胞性抗がん薬DNA、微小管、細胞分裂など骨髄抑制、粘膜障害、脱毛、臓器障害
分子標的薬がん細胞の特定分子皮膚障害、高血圧、心障害など薬剤別
免疫チェックポイント阻害薬抗腫瘍免疫の抑制を解除免疫関連有害事象
ホルモン療法ホルモン依存性増殖血栓、骨、代謝など

免疫関連有害事象

免疫チェックポイント阻害薬では、
  • 皮膚
  • 消化管
  • 肺
  • 肝臓
  • 甲状腺
  • 下垂体
  • 副腎
  • 心筋
  • 神経・筋
など、全身の臓器に炎症性障害が起こり得る。投与終了後に発現する場合もあるため、治療歴の確認が重要になる。

7.支持療法

支持療法は「抗がん薬治療に付随する補助」ではなく、治療継続と安全性を支える重要な治療である。
有害事象・症状支持療法の例
悪心・嘔吐制吐薬
好中球減少G-CSF
貧血原因評価、輸血など
血小板減少出血予防、必要時の輸血
口腔粘膜障害口腔ケア、疼痛管理
疼痛鎮痛薬
便秘・下痢原因に応じた治療
栄養障害栄養評価・介入
腫瘍崩壊症候群水分・尿酸管理、電解質監視など

8.整理演習

学生に「薬の作用」と「観察項目」を対応させる。
薬・治療期待する効果重要な観察
NSAIDs疼痛・炎症軽減消化管、腎機能、血圧
アセトアミノフェン解熱・鎮痛総投与量、肝機能、重複
オピオイド鎮痛呼吸、意識、便通、悪心
全身麻酔意識消失・手術可能な状態酸素化、換気、循環、覚醒
抗がん薬腫瘍縮小・進行抑制血算、感染、臓器障害
G-CSF好中球回復促進血算、骨痛など

9.症例1|オピオイド開始後

74歳男性。進行がんによる持続痛に対してオピオイドが開始された。
翌朝、痛みはNRS 8から3に改善した。
呼びかけると開眼するがすぐ眠る。呼吸数8回/分。
3日間排便がない。

Q1|鎮痛できているので問題ないか

問題がある。鎮痛効果は得られているが、過鎮静・呼吸抑制と便秘を評価する必要がある。

Q2|直ちに確認すること

  • 意識
  • 呼吸数・深さ
  • SpO₂
  • 血圧・脈拍
  • 瞳孔
  • 最終投与時刻
  • 定時薬・レスキュー使用量
  • 腎・肝機能
  • 併用する睡眠薬・抗不安薬
  • 疼痛

Q3|便秘について確認すること

  • 最終排便日
  • 便性状
  • 排ガス
  • 腹痛・膨満
  • 悪心・嘔吐
  • 腸閉塞徴候
  • 下剤の使用状況
  • 食事・水分・活動量
呼吸抑制への対応を優先しつつ、鎮痛を不必要に失わないよう、原因と投与状況を整理して治療調整につなげる。

10.症例2|発熱性好中球減少症

58歳女性。抗がん薬治療後10日目。
「少し寒気がする」と話し、体温38.2℃。
好中球数300/μL。血圧96/58mmHg、脈拍112回/分。

Q1|何を考えるか

発熱性好中球減少症を考える。
一般に、一定以上の発熱と好中球数500/μL未満、または近く500/μL未満になると予測される状態を組み合わせて評価する。体温の測定部位などを含め、施設基準も確認する。

Q2|なぜ緊急性が高いか

好中球減少時は局所の炎症反応が乏しく、明確な感染巣がなくても急速に敗血症へ進行する可能性がある。

Q3|確認・対応

  • ABC
  • 意識
  • 血圧、脈拍、呼吸数、SpO₂
  • 悪寒戦慄
  • 好中球数
  • 中心静脈カテーテル
  • 口腔、皮膚、肛門周囲
  • 咳、排尿症状、下痢
  • 血液培養などの採取
  • 抗菌薬開始時刻
可能なら抗菌薬投与前に適切な培養を採取するが、重症患者の治療開始を不当に遅らせない。
国内の現行版は「発熱性好中球減少症診療ガイドライン改訂第3版」で、2024年2月に刊行されている。(日本臨床腫瘍学会)

11.症例3|血管外漏出

乳がん患者に末梢静脈から抗がん薬を投与中。
患者が「針の周りが焼けるように痛い」と訴えた。
刺入部周囲に腫脹と発赤がある。

Q1|最初に行うこと

  1. 投与を直ちに停止する
  1. ルートを抜去せず、まず留置針から可能な範囲で薬液を吸引する
  1. ルート内をフラッシュしない
  1. 医師・薬剤師などへ速やかに連絡する
  1. 薬剤名、濃度、投与量、漏出推定量を確認する

Q2|その後の対応

  • 漏出範囲をマーキングする
  • 皮膚所見を記録する
  • 写真・計測など施設手順に従う
  • 患肢を挙上する
  • 薬剤ごとに冷罨法・温罨法を選択する
  • 必要な解毒薬・処置を確認する
  • 経時的に疼痛、水疱、壊死を観察する
すべての抗がん薬漏出に同じ罨法を行うのは間違っている。薬剤によって対応が異なる。
血管外漏出については、日本臨床腫瘍学会・日本がん看護学会・日本臨床腫瘍薬学会による合同ガイドラインが整備されている。(日本がん看護学会)

12.Take Home Message

  1. 鎮痛薬は疼痛の強さ・機序・患者背景から選ぶ
  1. NSAIDsでは消化管・腎機能・循環への影響をみる
  1. オピオイド開始・増量後は呼吸・意識・便通を評価する
  1. 発熱性好中球減少症は感染巣が不明でも緊急性が高い
  1. 抗がん薬投与中の疼痛・腫脹は血管外漏出を疑う
  1. 漏出時は投与を止め、フラッシュせず、薬剤別に対応する