03 循環器①

03 対面授業

血圧・心不全・利尿薬――循環と体液

到達目標

授業終了時に学生が次のことを説明できる状態を目指す。
  1. 降圧薬を心臓・血管・腎臓への作用で整理できる
  1. 心不全治療薬を、うっ血改善と長期的治療の目的から整理できる
  1. 利尿薬の治療効果と過剰作用を区別できる
  1. 血圧、体重、浮腫、尿量、腎機能、電解質を確認する理由を説明できる

90分の時間配分

時間内容方法
0~8分事前学習確認クイズ3問
8~28分高血圧・降圧薬症例A
28~55分心不全治療薬症例B
55~75分利尿薬症例Bの経過
75~87分体液評価の統合症例比較
87~90分Exit Ticket個人記述

0~8分|事前学習確認

確認問題

問1

血圧を決める二つの要素は何か。
血圧≈心拍出量×末梢血管抵抗血圧 \approx 心拍出量 \times 末梢血管抵抗

問2

RAA系が活性化すると、血管と体液量はどう変化するか。
  • 血管収縮
  • Na・水貯留
  • 循環血液量増加

問3

利尿薬によってNa・水の排泄が増えると、循環血液量はどう変化するか。
ここでは正誤確認だけを行い、解説を長くしない。

8~28分|高血圧・降圧薬

症例A

78歳女性。高血圧でARBを服用している。
2週間前にアムロジピンが追加された。
血圧は158/88 mmHgから128/72 mmHgへ低下した。
最近、立ち上がったときにふらつくことがある。夕方になると両足首がむくむという。
体重増加や呼吸困難はない。

問1|治療効果は得られているか

血圧は低下しているため、降圧効果は得られている。
ただし、
血圧が下がったことと、患者にとって適切な治療であることは同じか
と問い直す。
血圧値だけでなく、ふらつきや生活への影響も評価する必要がある。

問2|なぜふらつきが起こるのか

血管拡張
末梢血管抵抗低下
血圧低下
さらに立位では、
下肢への血液移動
静脈還流低下
心拍出量低下
が加わるため、脳血流が一時的に低下し、ふらつく可能性がある。

確認する項目

  • 臥位・座位・立位の血圧
  • 脈拍
  • ふらつきが起こる時間・体位
  • 転倒歴
  • 水分・食事摂取
  • 降圧薬の開始・増量時期
  • 併用薬

問3|なぜ足首がむくむのか

アムロジピンなどのジヒドロピリジン系Ca拮抗薬では、
細動脈拡張
毛細血管内圧上昇
血管内から間質への水分移動
末梢性浮腫
が起こり得る。
ここで、
浮腫があるから、必ず体液量が増えているのか
と問う。
Ca拮抗薬による末梢性浮腫は、心不全による全身的な体液貯留と同じとは限らない。

28~55分|心不全治療薬

症例B

82歳男性。HFrEFで治療中。
3日間で体重が2.3kg増加した。
下腿浮腫があり、夜間に横になると息苦しい。
サクビトリルバルサルタン、ビソプロロール、スピロノラクトン、ダパグリフロジン、フロセミドを服用している。

問1|何が起きている可能性があるか

  • Na・水貯留
  • 循環血液量増加
  • 静脈圧上昇
  • 肺うっ血
  • 末梢浮腫
  • 心不全増悪
症例Aと異なり、体重増加と呼吸困難を伴っている点に注目させる。

問2|薬の目的を分類する

薬剤主な目的
フロセミドNa・水を排泄し、うっ血を改善する
サクビトリルバルサルタン神経体液性因子に作用し、心臓への負担を軽減する
ビソプロロール過剰な交感神経刺激を抑える
スピロノラクトンアルドステロン作用を抑える
ダパグリフロジン心不全悪化・入院などを減らす治療に用いる
HFrEFを例として、薬を二つの視点で整理する。

今のうっ血を改善する

  • 利尿薬

長期的に心不全悪化を防ぐ

  • ARNI・ACE阻害薬・ARB
  • β遮断薬
  • MRA
  • SGLT2阻害薬
実際には複数の目的が重なるが、初学者向けの基本整理とする。

問3|治療効果を何で判断するか

  • 呼吸困難の改善
  • 起坐呼吸・夜間症状の改善
  • 浮腫の軽減
  • 体重の減少
  • 尿量
  • SpO₂
  • 血圧・脈拍
  • 日常生活動作
  • 腎機能・電解質
薬を投与した事実ではなく、患者にどのような変化が現れたかを確認する
ことを強調する。

55~75分|利尿薬

利尿薬の作用点

薬効群主な作用部位主な特徴
ループ利尿薬ヘンレ係蹄上行脚強いNa利尿作用
サイアザイド系遠位尿細管高血圧治療などに使用
MRA・K保持性利尿薬遠位尿細管~集合管K排泄を抑える方向に働く
細かな輸送体の暗記より、Na・水とKがどう変化するかを中心にする。

症例Bの経過

フロセミド増量後、呼吸困難と浮腫は改善した。
2日間で体重が2.8kg減少したが、立位時のめまいが出現した。
血圧94/58 mmHg、血清Cr 1.1→1.6 mg/dL、K 3.2 mEq/L。

問1|治療効果は何か

  • 尿量増加
  • 体重減少
  • 浮腫軽減
  • 呼吸困難改善

問2|作用が強く出すぎた可能性を示すものは何か

  • 急激な体重減少
  • 低血圧
  • 立位時のめまい
  • 腎機能悪化
  • 低K血症

機序

Na・水排泄増加
循環血液量減少
静脈還流低下
血圧低下・腎血流低下
加えて、ループ利尿薬ではK排泄増加による低K血症に注意する。

利尿薬ごとの電解質変化

薬効群主に注意する変化
ループ利尿薬低K血症、低Na血症、脱水
サイアザイド系低Na血症、低K血症など
MRA・K保持性利尿薬高K血症
「利尿薬=すべて低K血症」ではない点を確認する。

75~87分|体液評価の統合

症例AとBの浮腫を比較する

症例A症例B
背景Ca拮抗薬追加心不全
浮腫両足首、夕方下腿浮腫
体重増加なし3日で2.3kg増加
呼吸困難なしあり
考える病態Ca拮抗薬による末梢性浮腫など体液貯留・心不全増悪
追加確認服薬時期、血圧、浮腫、体重呼吸、体重、尿量、SpO₂など

学生への問い

「足がむくんでいる」という情報だけで、利尿薬が必要だと判断できるか。
判断できない。
浮腫の原因を考えるために、次を組み合わせる必要がある。
  • 体重変化
  • 呼吸困難
  • 尿量
  • 血圧
  • 服薬開始時期
  • 心不全徴候
  • 腎機能
  • 電解質

体液量を判断する基本表

体液過剰を疑う変化体液不足を疑う変化
体重増加急激な体重減少
浮腫口渇・口腔乾燥
呼吸困難立位時のふらつき
肺うっ血血圧低下
頸静脈怒張腎機能悪化
腹部膨満尿量低下
単独の所見で決めず、複数の情報を統合する。

87~90分|Exit Ticket

心不全患者で利尿薬を増量した後、呼吸困難は改善したが、立位時のめまいが出現した。
何が起きている可能性があるか。薬理作用と関連づけて、確認する項目を二つ挙げよ。

評価基準

  • 利尿による循環血液量減少を説明できている
  • 治療効果と過剰作用の両方を考えている
  • 血圧、体重、尿量、腎機能、Na、Kなどを理由とともに挙げている

対面授業のスライド案

Slide内容
1タイトル・到達目標
2事前学習確認
3症例A提示
4降圧薬の作用点
5ふらつきの機序
6Ca拮抗薬による浮腫
7高血圧患者の観察
8症例B提示
9心不全のうっ血と低灌流
10心不全治療薬の役割
11治療効果の評価
12利尿薬の作用部位
13症例Bの治療後経過
14脱水・腎機能・電解質変化
15利尿薬ごとのKへの影響
16二つの浮腫の比較
17体液過剰と体液不足
18Exit Ticket
この回の中心メッセージは、次の一文になる。
血圧や浮腫を単独で見るのではなく、薬の作用から循環と体液の変化を予測し、患者全体で評価する。