糖尿病治療薬

糖尿病治療薬

糖尿病治療薬を使用している患者では、血糖値だけでなく、
  • 食事を十分に摂れているか
  • 低血糖症状がないか
  • 脱水していないか
  • 排尿や感染症状に変化がないか
  • 悪心・嘔吐などで生活に支障がないか
  • 認知機能やセルフケア能力に変化がないか
を確認する。
基本となる観察軸は、
食事|排泄|睡眠|運動・活動|認知機能
の5領域とする。
糖尿病治療薬では、これに加えて、
+α|低血糖・脱水/ケトアシドーシス
を重点的に確認する。

1|糖尿病治療薬の比較

2|生活から見る観察ポイント

🍽 食事

観察すること

  • 食事摂取量
  • 食事時間
  • 欠食
  • 炭水化物摂取量
  • 悪心・嘔吐
  • 食欲
  • 水分摂取
  • 体重変化
  • 薬剤の投与・服用タイミング

インスリン・SU薬・グリニド薬

特に重要なのは、
薬が効いているのに食事が入らない
という状況である。
  • 食事摂取量低下
  • 欠食
  • 嘔吐
  • 検査・手術による絶食
などでは低血糖リスクを考える。

看護の視点

「いつもの薬だから」ではなく、「今日の食事量で同じ治療をしてよい状態か」を考える。

メトホルミン

開始・増量時には、
  • 悪心
  • 下痢
  • 腹部不快感
などの消化器症状がみられることがある。
長期使用ではビタミンB12低下との関連がある。
RCTでは、4.3年間のメトホルミン使用によりビタミンB12欠乏の絶対リスクがプラセボより7.2ポイント高かった。
DPP/DPPOSでも、使用年数が長いほどB12欠乏リスクが上昇していた。

GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬

  • 悪心
  • 嘔吐
  • 食欲低下
  • 早期満腹感
  • 下痢
  • 便秘
などを確認する。
GLP-1受容体作動薬では、RCTをまとめた研究で悪心・嘔吐・下痢が増加し、用量との関連も報告されている。

看護の視点

体重が減ったことだけを「効果」と評価せず、食べられなくなっていないかを見る。

SGLT2阻害薬

過度な糖質制限、食事摂取不良、絶食などは、ケトアシドーシスのリスクとなる。

看護の視点

「血糖がそれほど高くないからDKAではない」と判断しない。
SGLT2阻害薬関連DKAでは、血糖が著明に上昇しない場合がある。
🚽 排泄

観察すること

  • 尿量
  • 排尿回数
  • 夜間尿
  • 口渇
  • 排尿時痛
  • 発熱
  • 陰部の掻痒・発赤・疼痛
  • 下痢
  • 便秘
  • 腹部膨満

SGLT2阻害薬

尿糖排泄の増加に伴って、
  • 多尿・頻尿
  • 体液量減少
  • 尿路感染症
  • 性器感染症
に注意する。
日本糖尿病学会も、SGLT2阻害薬に特徴的な有害事象として尿路・性器感染症、脱水などを挙げている。

看護の視点

「尿が多い」だけで終わらず、口渇・水分摂取・感染症状まで確認する。

GLP-1関連薬

  • 下痢
  • 便秘
などの便通変化にも注意する。

α-GI

  • 放屁
  • 腹部膨満
  • 下痢
が生活上問題となることがある。
🌙 睡眠

観察すること

  • 夜間低血糖
  • 寝汗
  • 悪夢
  • 夜間覚醒
  • 朝の頭痛・倦怠感
  • 夜間尿
  • 睡眠中の異常行動

インスリン・SU薬

夜間低血糖では、本人が症状を自覚しない場合もある。
  • 寝汗
  • 悪夢
  • 夜間覚醒
  • 起床時の倦怠感
などが手がかりとなることがある。

SGLT2阻害薬

頻尿・夜間尿によって、
排尿↓睡眠中断↓夜間トイレ移動
につながる場合がある。

看護の視点

「夜眠れていない」患者では、低血糖と夜間尿の両方を考える。
🚶 運動・活動

観察すること

  • 運動量
  • 運動前後の血糖
  • ふらつき
  • 発汗
  • 動悸
  • 脱力感
  • 転倒
  • 脱水
  • ADL

インスリン・SU薬・グリニド薬

運動によって糖利用が増えるため、状況によって低血糖が生じる。

看護の視点

「運動はよいこと」だけでなく、薬剤・食事・運動のバランスを見る。

SGLT2阻害薬

脱水があると、
  • 立ちくらみ
  • ふらつき
  • 倦怠感
として現れることがある。

GLP-1関連薬

食事摂取量が大きく減少している場合、倦怠感や活動量低下がないか確認する。
🧠 認知機能

観察すること

  • 覚醒状態
  • 注意力
  • 会話
  • 見当識
  • 混乱
  • 異常行動
  • 意識レベル
  • 自己注射・服薬管理能力

インスリン・SU薬

低血糖は、
  • 集中力低下
  • 混乱
  • 異常行動
  • 意識障害
として現れることがある。
特に高齢者では、典型的な発汗・動悸よりも、
「いつもと違う」「ぼんやりしている」
という変化が手がかりになる場合がある。

看護の視点

急な認知状態変化では、血糖を確認する。

セルフケア能力

糖尿病治療では、
  • インスリン自己注射
  • 血糖測定
  • 薬の服用
  • 食事とのタイミング
  • 低血糖時の対応
を患者自身が行うことが多い。
そのため、認知機能は単なる副作用評価ではなく、治療を安全に継続できるかという視点でも見る。

3|+α:低血糖・脱水/ケトアシドーシス

① 低血糖

特に注意する薬剤:
  • インスリン
  • SU薬
  • グリニド薬

観察すること

  • 血糖値
  • 発汗
  • 手指振戦
  • 動悸
  • 空腹感
  • 脱力
  • めまい
  • 行動変化
  • 混乱
  • 意識障害

注意するタイミング

看護の視点

低血糖では「血糖値」だけでなく、「その患者にいつもと違う変化がないか」を見る。

② 脱水

特に注意する薬剤:
SGLT2阻害薬

観察

  • 口渇
  • 水分摂取量
  • 尿量
  • 血圧
  • 起立時症状
  • 体重
  • 腎機能
特に、
では注意する。

③ ケトアシドーシス

SGLT2阻害薬では、
  • 悪心
  • 嘔吐
  • 食欲低下
  • 腹痛
  • 強い口渇
  • 倦怠感
  • 呼吸困難
  • 意識状態変化
がみられた場合にはDKAを考える。
日本糖尿病学会・PMDAはいずれも、
  • 食事摂取不良
  • 感染症
  • 脱水
  • 過度な糖質制限
  • インスリンの減量・中止
などをリスクとして挙げている。

特に重要

血糖値が著しく高くなくてもDKAが起こりうる。
ADA 2026では、SGLT2阻害薬関連DKAの一部は血糖200 mg/dL未満でも発症するとしている。

4|薬剤別の主な観察項目

インスリン

観察

  • 血糖
  • 食事摂取量
  • 食事時間
  • インスリン製剤・投与量
  • 投与時間
  • 低血糖症状
  • 意識状態
  • 運動量
  • 注射部位

注意するタイミング

特に見るポイント

インスリンを打ったかだけでなく、「何を・何単位・いつ打ち、食事がどの程度入ったか」をセットで見る。

SU薬・グリニド薬

観察

  • 血糖
  • 食事量
  • 低血糖症状
  • 意識状態
  • 腎機能
  • 体重

注意するタイミング

特に見るポイント

食べられていない患者の低血糖。

メトホルミン

観察

  • 食事量
  • 悪心
  • 下痢
  • 腹部症状
  • 腎機能
  • 脱水
  • 長期使用ではB12欠乏を疑う症状

注意するタイミング

特に見るポイント

開始時は消化器症状、長期ではB12。

DPP-4阻害薬

観察

  • 血糖
  • 食事量
  • 低血糖症状
  • 皮膚症状
  • 腎機能(薬剤により用量調整)

注意するタイミング

特に見るポイント

単独では低血糖リスクは比較的小さいが、低血糖を起こしやすい薬との併用時は注意する。

SGLT2阻害薬

観察

  • 尿量
  • 排尿回数
  • 口渇
  • 水分摂取
  • 体重
  • 血圧
  • 腎機能
  • 排尿時痛
  • 発熱
  • 陰部症状
  • 悪心・嘔吐
  • 腹痛
  • ケトン体

注意するタイミング

特に見るポイント

脱水+DKA。
SGLT2阻害薬は重症疾患、長時間の絶食、手術などでは注意が必要で、ADA 2026では予定手術の3日前(エルツグリフロジンは4日前)の中止を推奨している。

GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬

観察

  • 悪心
  • 嘔吐
  • 食欲
  • 食事摂取量
  • 体重
  • 水分摂取量
  • 下痢
  • 便秘
  • 脱水

注意するタイミング

特に見るポイント

「体重が減った」だけでなく、「必要な食事・水分まで摂れなくなっていないか」を見る。

α-GI

観察

  • 服用時間
  • 食事摂取
  • 腹部膨満
  • 放屁
  • 腹痛
  • 下痢
  • 便秘

注意するタイミング

特に見るポイント

食直前に服用する薬であること。
また、他の糖尿病治療薬との併用で低血糖を起こした場合は、α-GI使用中ではショ糖ではなくブドウ糖で対応することを確認する。

チアゾリジン薬

観察

  • 体重
  • 浮腫
  • 呼吸苦
  • 運動耐容能
  • 心不全徴候

注意するタイミング

特に見るポイント

浮腫・体重増加を「太っただけ」と見ない。

5|見逃したくないサイン

⚠️ インスリン・SU薬・グリニド薬

  • 強い発汗
  • 振戦
  • 動悸
  • 異常行動
  • 混乱
  • 傾眠
  • 意識障害
→ まず低血糖を考える。

⚠️ SGLT2阻害薬

  • 悪心・嘔吐
  • 食欲低下
  • 腹痛
  • 強い口渇
  • 倦怠感
  • 呼吸困難
  • 意識状態変化
→ 血糖がそれほど高くなくてもケトアシドーシスを考える。
また、
  • 発熱
  • 排尿痛
  • 腰背部痛
  • 陰部の疼痛・発赤
などでは感染症にも注意する。

⚠️ GLP-1関連薬

  • 嘔吐が続く
  • 食事・水分がほとんど入らない
  • 急速な体重減少
  • 強い腹痛
  • 脱水
→ 消化器有害事象の重症化や他疾患を含めて評価する。

⚠️ チアゾリジン薬

  • 急な体重増加
  • 浮腫増悪
  • 労作時呼吸困難
  • 夜間呼吸困難
→ 心不全増悪を考える。

6|糖尿病治療薬を使用している患者の見方

① 血糖は適切に管理されているか

  • 血糖値
  • HbA1c
  • 低血糖
  • 高血糖
↓

② 生活はどう変化したか

  • 食事を摂れているか
  • 排尿・排便に問題はないか
  • 眠れているか
  • 安全に運動・活動できるか
  • 認知機能・セルフケア能力は保たれているか
↓

③ 薬剤による新たな問題はないか

  • 低血糖
  • 悪心・嘔吐
  • 脱水
  • 頻尿
  • 感染症
  • 浮腫
  • 体重変化
  • ケトアシドーシス
↓

④ 体調変化と治療が合っているか

  • 食事摂取不良
  • 嘔吐・下痢
  • 発熱・感染
  • 絶食
  • 手術
  • 運動量増加
など、普段と違う状態になったときに同じ治療を続けてよいかを確認する。

7|Evidence Memo

低血糖

インスリンおよびインスリン分泌を血糖非依存的に促進するSU薬などは、低血糖に特に注意が必要である。
食事摂取不良、運動量増加、腎機能低下などによってリスクが変化するため、薬剤だけでなく患者の生活状況を合わせて見る。

SGLT2阻害薬

日本糖尿病学会は、SGLT2阻害薬について、
  • 尿路・性器感染症
  • 体液量減少・脱水
  • ケトアシドーシス
などに注意を促している。
特に、
  • インスリン減量・中止
  • 過度な糖質制限
  • 食事摂取不良
  • 感染症
  • 脱水
ではDKAリスクが高くなる。

GLP-1受容体作動薬

RCTの系統的解析では、GLP-1受容体作動薬によって、
  • 悪心
  • 嘔吐
  • 下痢
が増加し、これらの一部には用量依存性がみられる。
2026年のアンブレラレビューでも、悪心、嘔吐、下痢は比較的一貫した有害事象として確認されている。

メトホルミン

長期使用とビタミンB12欠乏との関連はRCTおよび長期追跡研究で確認されている。
長期使用患者で、
  • 貧血
  • しびれ
  • 感覚障害
  • 歩行障害
などがみられる場合には、糖尿病性神経障害だけでなくB12欠乏も鑑別に入れる。

8|この早見表を使うときの注意

糖尿病患者の、
  • 発汗
  • ふらつき
  • 混乱
  • 食欲低下
  • 多尿
  • 倦怠感
などを、すべて薬剤の副作用と判断しない。
  • 低血糖
  • 高血糖
  • 脱水
  • 感染症
  • ケトアシドーシス
  • 原疾患
  • 腎機能変化
  • 他の薬剤
を含めて評価する。
特に糖尿病治療薬では、「薬そのもの」よりも、「薬 × 食事 × 運動 × 体調」の組み合わせでリスクが変化することを意識する。