心不全治療薬
心不全治療薬1|心不全治療薬の比較2|生活から見る観察ポイント🍽 食事観察すること心不全そのものによる影響ARNI・ACE阻害薬・ARB・MRASGLT2阻害薬・利尿薬看護の視点🚽 排泄観察することループ利尿薬SGLT2阻害薬看護の視点🌙 睡眠観察すること治療効果として見るACE阻害薬看護の視点🚶 運動・活動観察すること治療効果β遮断薬利尿薬看護の視点🧠 認知機能観察すること心不全患者で考えること利尿薬看護の視点3|+α:体液量・循環/腎機能・電解質① 体液量「多すぎる」サイン「減りすぎる」サイン看護の視点② 循環観察することβ遮断薬ARNI・ACE阻害薬・ARB看護の視点③ 腎機能・電解質観察すること高Kに注意低Kに注意Na異常看護の視点4|薬剤別の主な観察項目ARNI・ACE阻害薬・ARB観察注意するタイミング特に見るポイントβ遮断薬観察注意するタイミング特に見るポイントMRA観察注意するタイミング特に見るポイントSGLT2阻害薬観察注意するタイミング特に見るポイントループ利尿薬観察注意するタイミング特に見るポイントトルバプタン観察注意するタイミング特に見るポイント5|見逃したくないサイン⚠️ 心不全増悪⚠️ 過度な利尿・脱水⚠️ 高K血症⚠️ β遮断薬使用時⚠️ SGLT2阻害薬6|心不全治療薬を使用している患者の見方① うっ血は改善したか② 循環は保たれているか③ 生活は改善したか④ 薬剤による新たな問題はないか⑤ 最近、状態が変化していないか7|Evidence MemoHFrEFの基本的な薬物治療SGLT2阻害薬MRA8|この早見表を使うときの注意
心不全治療薬
心不全治療薬を使用している患者では、
「薬を使っているか」ではなく、うっ血や症状が改善し、患者が生活しやすくなっているか
を見る。
一方で、
- 低血圧
- 徐脈
- 脱水
- 腎機能変化
- K異常
- 頻尿
- ふらつき
などによって生活機能が低下していないかも確認する。
基本となる観察軸は、
食事|排泄|睡眠|運動・活動|認知機能
の5領域とする。
これに加えて、
+α|体液量・循環/腎機能・電解質
を重点的に確認する。
1|心不全治療薬の比較
| 項目 | ARNI・ACE阻害薬・ARB | β遮断薬 | MRA | SGLT2阻害薬 | ループ利尿薬 | トルバプタン |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 主な例 | サクビトリルバルサルタン、エナラプリル、カンデサルタンなど | ビソプロロール、カルベジロール | スピロノラクトン、エプレレノン | ダパグリフロジン、エンパグリフロジン | フロセミド、アゾセミドなど | トルバプタン |
| 治療上の役割 | 心不全進行・心血管イベント抑制 | 心拍・交感神経過剰を抑え予後改善 | アルドステロン作用を抑制し予後改善 | 心不全入院・心血管イベント抑制 | うっ血・浮腫・呼吸苦を改善 | 水利尿により体液貯留を改善 |
| よくみられる症候 | めまい、血圧低下 | 徐脈、倦怠感、めまい | めまいなど | 頻尿、口渇など | 頻尿、口渇、めまい | 口渇、多尿、頻尿 |
| 見逃したくない症候 | 高K、腎機能悪化、過度の低血圧 | 著明な徐脈、心不全症状増悪 | 高K、腎機能悪化 | 脱水、ケトアシドーシス | 脱水、低Na・低K、腎機能悪化 | 脱水、高Na、意識変化 |
| 🍽 食事 | 水分摂取、K製剤等を確認 | 食欲・倦怠感 | K摂取、K製剤等を確認 | 食事・水分摂取不良時に注意 | 水分・塩分、食事摂取量 | 口渇、水分摂取能力 |
| 🚽 排泄 | 尿量・腎機能 | 大きな直接影響は少ない | 尿量・腎機能 | 頻尿、多尿、尿路・性器症状 | 尿量、頻尿、夜間尿 | 多尿・頻尿 |
| 🌙 睡眠 | 過度な低血圧、ACE阻害薬では咳 | 徐脈・倦怠感 | 大きな直接影響は少ない | 夜間尿 | 夜間尿。一方、うっ血改善で起坐呼吸が改善 | 夜間尿 |
| 🚶 運動・活動 | めまい、血圧低下 | 徐脈、倦怠感、運動時心拍応答低下 | 高Kによる脱力 | 脱水・ふらつき | 脱水・電解質異常によるふらつき | 脱水・ふらつき |
| 🧠 認知機能 | 過度な低血圧時の変化 | 徐脈・低血圧時の変化 | 高K・腎機能悪化時 | 脱水・DKA時の変化 | 低Na・脱水による混乱 | 高Na・脱水による混乱 |
| +α | 循環・K・腎機能 | 循環・脈拍 | K・腎機能 | 体液量・DKA | 体液量・電解質 | 体液量・Na |
| 主な観察項目 | 血圧、K、Cr/eGFR、尿量、めまい、脱水、ACE阻害薬では咳 | 血圧、脈拍、徐脈、体重、浮腫、呼吸苦、倦怠感、歩行 | K、Cr/eGFR、血圧、尿量、脱力感、不整脈症状 | 血圧、体重、尿量、口渇、水分摂取、腎機能、感染症状、悪心・ケトン体 | 体重、浮腫、尿量、血圧、呼吸苦、Na、K、Cr/eGFR、口渇、ふらつき | 体重、尿量、口渇、水分摂取、Na、Cr/eGFR、意識状態 |
| 注意するタイミング | 開始・増量時、脱水時、腎機能変化時、高Kリスク薬併用時 | 開始・増量時、徐脈時、心不全増悪時、中止時 | 開始・増量時、腎機能低下時、RAA系阻害薬併用時 | 開始時、脱水・食事摂取不良・感染・手術/絶食時 | 開始・増量時、利尿が強い時、脱水時、食事摂取不良時 | 開始・増量時、水分摂取困難時、高Naリスク時 |
2|生活から見る観察ポイント
🍽 食事
観察すること
- 食欲
- 食事摂取量
- 水分摂取量
- 塩分摂取
- 体重
- 口渇
- 悪心・嘔吐
- K製剤・サプリメント
- 食事中の呼吸苦
心不全そのものによる影響
心不全が悪化すると、
- 呼吸苦
- 腹部うっ血
- 食欲低下
- 早期満腹感
- 倦怠感
などによって食事摂取量が低下することがある。
したがって、薬剤による有害作用だけでなく、
治療によって食べられるようになったか
を見る。
ARNI・ACE阻害薬・ARB・MRA
高K血症のリスクがあるため、
- 腎機能
- K製剤
- K保持性薬
- Kを含むサプリメント等
を確認する。
SGLT2阻害薬・利尿薬
食事・水分摂取不良時には、脱水に注意する。
看護の視点
「心不全だから水分を減らす」と一律に考えず、体液量・口渇・食事摂取・治療方針を合わせて見る。
🚽 排泄
観察すること
- 尿量
- 排尿回数
- 夜間尿
- 体重
- 浮腫
- 水分出納
- 口渇
- Cr/eGFR
- Na・K
ループ利尿薬
治療効果として、
尿量増加↓体液量減少↓浮腫・肺うっ血改善
が期待される。
しかし、過剰になると、
過度な利尿↓脱水・血圧低下↓腎機能悪化・ふらつき
につながる。
SGLT2阻害薬
- 尿量増加
- 頻尿
- 尿路・性器症状
にも注意する。
看護の視点
「尿がたくさん出た=よい」とは限らない。
体重・浮腫・呼吸・血圧・腎機能を合わせて見る。
🌙 睡眠
観察すること
- 仰臥位で呼吸苦がないか
- 起坐呼吸
- 夜間呼吸困難
- 夜間尿
- 中途覚醒
- 咳
- 睡眠時間
- 翌日の倦怠感
治療効果として見る
うっ血が改善すると、
肺うっ血改善↓横になって眠れる↓夜間呼吸困難が減る
ことがある。
これは心不全治療の重要な生活上の効果である。
一方、利尿薬やSGLT2阻害薬では夜間尿が睡眠を妨げることがある。
ACE阻害薬
乾性咳嗽が夜間睡眠を妨げる場合がある。
看護の視点
「眠れない」理由が、呼吸苦なのか、咳なのか、夜間尿なのかを分けて見る。
🚶 運動・活動
観察すること
- 起き上がり
- 立位
- 歩行
- 階段
- 息切れ
- 倦怠感
- めまい
- ふらつき
- 脈拍
- 転倒
- ADL
治療効果
心不全治療によって、
- 呼吸苦が減った
- 浮腫が減った
- 歩行距離が伸びた
- トイレまで行けるようになった
など、生活機能が改善しているかを見る。
β遮断薬
開始・増量時には、
- 徐脈
- 倦怠感
- めまい
に注意する。
心拍数が運動時に上がりにくいため、心拍数だけで運動強度を判断しにくい場合もある。
利尿薬
過度な利尿による、
- 低血圧
- 脱水
- 電解質異常
があると、かえって活動性が低下する。
看護の視点
「息切れが減って動けるようになったか」と、「薬の影響でふらついて動けなくなっていないか」の両方を見る。
🧠 認知機能
観察すること
- 覚醒状態
- 注意力
- 見当識
- 会話
- 混乱
- せん妄
- 普段との違い
- 服薬管理能力
心不全患者で考えること
認知状態の変化は、
- 心拍出量低下
- 低血圧
- 低酸素
- 脱水
- 低Na血症
- 腎機能悪化
- 感染症
など複数の要因で生じる。
利尿薬
過度な利尿や低Na血症では、
- 倦怠感
- 注意力低下
- 混乱
- 意識状態変化
として現れる場合がある。
看護の視点
「心不全患者が急にぼんやりした」場合は、血圧・SpO₂・Na・体液量・腎機能・感染を合わせて見る。
3|+α:体液量・循環/腎機能・電解質
① 体液量
「多すぎる」サイン
- 体重増加
- 下腿浮腫
- 呼吸苦
- 起坐呼吸
- 頸静脈怒張
- 腹部膨満
- 食欲低下
「減りすぎる」サイン
- 急な体重減少
- 口渇
- 血圧低下
- 起立時症状
- ふらつき
- 尿量低下
- 腎機能悪化
看護の視点
心不全では「水が多いか少ないか」を見る。
同じCr上昇でも、うっ血が残っている患者と脱水している患者では意味が異なる。
② 循環
観察すること
- 血圧
- 脈拍
- リズム
- 末梢冷感
- めまい
- 失神
- 意識状態
- 尿量
β遮断薬
血圧だけでなく、脈拍を見る。
ARNI・ACE阻害薬・ARB
開始・増量後の過度な低血圧に注意する。
看護の視点
「血圧が低い」という数字だけでなく、症状・末梢循環・尿量を見る。
③ 腎機能・電解質
観察すること
- Cr/eGFR
- K
- Na
- 尿量
- 体重
- 体液状態
- 薬剤変更
高Kに注意
- ARNI
- ACE阻害薬
- ARB
- MRA
低Kに注意
- ループ利尿薬
Na異常
- 強力な利尿
- トルバプタン
- 体液量変化
などとの関係を見る。
看護の視点
検査値だけでなく、「どの薬をいつ開始・増量したか」と結びつける。
4|薬剤別の主な観察項目
ARNI・ACE阻害薬・ARB
観察
- 血圧
- めまい
- 起立時症状
- K
- Cr/eGFR
- 尿量
- 体液量
- ACE阻害薬では乾性咳嗽
注意するタイミング
特に見るポイント
血圧+K+腎機能。
β遮断薬
観察
- 血圧
- 脈拍
- 徐脈
- めまい
- 倦怠感
- 呼吸苦
- 浮腫
- 体重
- 運動時症状
注意するタイミング
特に見るポイント
血圧だけでなく脈拍と心不全症状を見る。
開始直後に「効かない」と判断する薬ではなく、忍容性を確認しながら段階的に使用する。
また、長期使用中の急な中止は避ける。
MRA
観察
- K
- Cr/eGFR
- 血圧
- 尿量
- 脱力感
- 筋力
- 動悸・不整脈を疑う症状
注意するタイミング
特に見るポイント
高K血症+腎機能。
SGLT2阻害薬
観察
- 体重
- 尿量
- 頻尿
- 水分摂取
- 口渇
- 血圧
- 腎機能
- 尿路・性器症状
- 悪心
- 嘔吐
- 腹痛
- ケトン体
注意するタイミング
特に見るポイント
心不全患者でも糖尿病の有無にかかわらず使用される。
したがって、「糖尿病薬だから血糖だけを見る」のではなく、
体液量・腎機能・DKAリスク
を見る。
ループ利尿薬
観察
- 体重
- 浮腫
- 呼吸苦
- 尿量
- 血圧
- 口渇
- Na
- K
- Cr/eGFR
- ふらつき
- 夜間尿
注意するタイミング
特に見るポイント
「うっ血が改善した」のか、「利尿しすぎた」のかを見極める。
トルバプタン
観察
- 尿量
- 体重
- 口渇
- 水分摂取量
- Na
- Cr/eGFR
- 意識状態
注意するタイミング
特に見るポイント
多尿+口渇+Na。
5|見逃したくないサイン
⚠️ 心不全増悪
- 急な体重増加
- 浮腫増悪
- 労作時呼吸困難増悪
- 横になれない
- 夜間呼吸困難
- 尿量低下
- 強い倦怠感
→ うっ血・心拍出量低下を考える。
⚠️ 過度な利尿・脱水
- 急な体重減少
- 強い口渇
- 血圧低下
- ふらつき
- 尿量低下
- Cr上昇
→ 「心不全だからもっと利尿」ではなく体液量を再評価する。
⚠️ 高K血症
- 強い脱力
- 筋力低下
- 動悸
- 徐脈
- 不整脈
ARNI・ACE阻害薬・ARB・MRA使用時にはKを確認する。
⚠️ β遮断薬使用時
- 著明な徐脈
- 失神
- 強い倦怠感
- 心不全症状の急な悪化
→ 血圧・脈拍・体液状態を確認する。
⚠️ SGLT2阻害薬
- 悪心
- 嘔吐
- 腹痛
- 強い倦怠感
- 呼吸状態変化
- 食事摂取不良
→ 血糖が著明に高くなくてもケトアシドーシスを考える。
6|心不全治療薬を使用している患者の見方
① うっ血は改善したか
- 体重
- 浮腫
- 呼吸苦
- 起坐呼吸
- 夜間呼吸困難
- 尿量
↓
② 循環は保たれているか
- 血圧
- 脈拍
- 末梢循環
- 尿量
- 意識状態
↓
③ 生活は改善したか
- 食べられるようになったか
- 排尿で困っていないか
- 横になって眠れるか
- 歩ける距離が伸びたか
- 認知状態は保たれているか
↓
④ 薬剤による新たな問題はないか
- 低血圧
- 徐脈
- 脱水
- 高K・低K
- Na異常
- 腎機能変化
- 頻尿
- 転倒
↓
⑤ 最近、状態が変化していないか
- 発熱
- 感染
- 下痢・嘔吐
- 食事摂取不良
- 薬剤増量
- NSAIDs使用
- 塩分・水分摂取変化
心不全治療では、「薬を何種類飲んでいるか」よりも、「うっ血・循環・腎機能・生活がどう変化したか」を見る。
7|Evidence Memo
HFrEFの基本的な薬物治療
現在のHFrEF治療では、
- ARNIまたはACE阻害薬・ARB
- β遮断薬
- MRA
- SGLT2阻害薬
が主要な疾患修飾薬となる。
これらは単に症状を改善するだけではなく、心不全入院や死亡などの臨床転帰を改善する目的で使用される。
一方、ループ利尿薬は主としてうっ血症状の改善を目的として使用される。
SGLT2阻害薬
SGLT2阻害薬は、糖尿病の有無にかかわらず、症候性HFrEF患者の心不全入院・心血管死亡を減らす治療として推奨されている。
また、HFmrEF・HFpEFについても臨床試験の蓄積により適応範囲が広がっている。
MRA
MRAはHFrEFの予後改善薬である一方、
- 高K血症
- 腎機能悪化
が重要な安全性上の問題となる。
急性の腎機能変化、脱水、下痢などが生じた場合には、薬物療法全体を再評価する。
8|この早見表を使うときの注意
心不全治療薬による、
- 低血圧
- Cr上昇
- 体重減少
- 尿量増加
を、単純に「副作用」と判断しない。
例えば、
体重減少+呼吸苦改善+浮腫改善
であれば、適切な除水の可能性がある。
一方、
体重減少+口渇+ふらつき+血圧低下+Cr上昇
であれば、過度な体液減少を考える。
つまり、心不全では、
「検査値やバイタルの変化」だけでなく、「うっ血がどう変化したか」をセットで見る。
また、治療内容は、
- HFrEF
- HFmrEF
- HFpEF
- 急性心不全
- 腎機能
- 血圧
- 心拍数
- 併存疾患
によって異なるため、すべての心不全患者に同じ薬剤構成が適用されるわけではない。