ピック病
ピック病(Pick disease)
前頭葉・側頭葉の神経変性と、3Rタウからなるピック小体の蓄積を特徴とする認知症。前頭側頭葉変性症(FTLD)の一病型。
病態
ピック病は、前頭葉・側頭葉を中心に神経細胞が進行性に脱落・萎縮する神経変性疾患。初期から記憶障害よりも、人格・行動の変化や言語障害が目立ちやすい。
病理学的には、異常リン酸化した3Rタウが神経細胞内に蓄積し、ピック小体を形成する。現在は、臨床的には前頭側頭葉変性症の一部として捉えられることが多い。
主な症状
行動・人格の変化
- 脱抑制:場にそぐわない発言・行動、衝動性
- 無気力・自発性低下
- 共感性の低下、対人関係の変化
- 常同行動、こだわり、同じ行動の反復
- 食行動の変化:過食、甘い物への固執、異食など
- 判断力・遂行機能の低下
言語症状
- 言葉の意味が分からなくなる
- 喚語困難、会話量の低下
- 常同語・反復語
- 進行性の失語
その他
- 初期は記憶障害が目立たないことがある
- 進行すると記憶・見当識・判断力も低下する
- 進行期には嚥下障害、歩行障害、排泄管理の問題が加わることがある
原因・病態
- 前頭葉・側頭葉の神経細胞脱落と脳萎縮
- 異常リン酸化した3Rタウの細胞内蓄積
- ピック小体の形成
- 多くは孤発性だが、家族性ではMAPTなどの遺伝子異常が関連することがある
診断
- 症状の経過、家族からの情報、神経学的診察、認知機能評価を組み合わせる
- MRI・CTで前頭葉・側頭葉優位の萎縮を確認する
- アルツハイマー病、レビー小体型認知症、精神疾患、薬剤性・内分泌性疾患などとの鑑別が重要
- 生前にピック小体を確定することは難しく、病理診断は死後に行われることがある
治療の考え方
- 根治療法やタウを除去する標準的な疾患修飾療法は確立していない
- 環境調整・行動療法・家族支援を基本とする
- 脱抑制、興奮、常同行動などには、必要に応じて薬物療法を検討する
- 言語障害にはコミュニケーション方法を工夫し、言語・嚥下訓練を行う
- 進行に応じて、栄養・嚥下・転倒・誤嚥・介護負担への支援を行う
看護のポイント
行動・安全への対応
- 行動を一方的に叱責せず、症状を疾患によるものとして理解する
- 脱抑制や衝動性による外出、金銭管理、対人トラブルのリスクを評価する
- 刺激の少ない環境を整え、生活リズムと日課をできるだけ一定にする
- 危険物、過食、異食、転倒などのリスクを家族と共有する
コミュニケーション
- 短く具体的な言葉で、1回に1つの内容を伝える
- 言語理解の程度に合わせ、写真・ジェスチャー・文字などを活用する
- 本人の尊厳を守り、できる活動は継続できるよう支援する
身体管理・家族支援
- 嚥下機能、むせ、体重、栄養・水分摂取を観察する
- 歩行、転倒、排泄、睡眠の変化を確認する
- 病識が乏しいこともあるため、本人だけでなく家族から経過を聞き取る
- 介護者の困りごとと負担を評価し、地域サービスや専門職につなげる
関連疾患・用語
- 前頭側頭葉変性症(FTLD)
- 行動型前頭側頭型認知症(bvFTD)
- 原発性進行性失語(PPA)
- タウオパチー
- 3Rタウ
- ピック小体
- MAPT