進行性核上性麻痺(PSP)
進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)
4Rタウの異常蓄積による進行性の神経変性疾患。早期転倒、垂直性核上性注視麻痺、体幹の筋強剛、構音・嚥下障害を特徴とする。
どんな病気?
進行性核上性麻痺(PSP)は、脳幹、大脳基底核、前頭葉などに異常リン酸化4Rタウが蓄積するタウオパチーの一つ。眼球運動、姿勢保持、歩行、嚥下、発話、認知・行動を司る神経系が進行性に障害される。
パーキンソン症候群に似た症状を示すが、早期転倒、眼球運動障害、体幹優位の筋強剛などが目立ち、レボドパへの反応は乏しいことが多い。
病型
- Richardson症候群(典型型PSP):早期転倒、垂直性注視麻痺、体幹の姿勢障害、認知・行動変化が目立つ
- PSP-P:パーキンソン病に似た症状が比較的目立ち、初期には左右差や振戦を認めることがある
- その他、発話・言語障害、歩行障害、前頭葉症状が前景に立つ病型がある
原因・病態
原因は完全には解明されていない。神経細胞やグリア細胞に4Rタウが蓄積し、脳幹・大脳基底核・前頭葉などの神経回路が障害される。
主な障害部位と症状の関係は以下の通り。
- 中脳:垂直性眼球運動障害
- 大脳基底核:筋強剛、動作緩慢、歩行障害
- 脳幹・小脳関連回路:姿勢保持障害、構音・嚥下障害
- 前頭葉関連回路:遂行機能低下、無気力、脱抑制
主な症状
眼球運動障害
- 垂直性核上性注視麻痺:特に下方注視が困難になる
- 階段を下りる、足元を見る、読書などが難しくなる
- 眼球運動の開始が遅く、視線をすばやく切り替えにくい
- まばたきの減少、開眼失行を伴うことがある
運動・姿勢の障害
- 早期からの転倒、後方への転倒
- 体幹・頸部優位の筋強剛
- 動作緩慢、歩行開始困難、すくみ足
- 頸部後屈、姿勢保持障害
- 振戦は目立たないことが多い
発話・嚥下症状
- 構音障害、発話の遅さ、声量低下
- 嚥下障害、むせ、誤嚥
- 流涎、食事時間の延長、体重減少
認知・行動症状
- 遂行機能障害、注意力低下
- 無気力、抑うつ、感情の乏しさ
- 脱抑制、衝動性、常同行動
- 病識低下、判断力低下
診断・鑑別
- 早期転倒、垂直性眼球運動障害、体幹優位の筋強剛などの組み合わせを評価する
- 眼球運動、姿勢反射、歩行、構音、嚥下、認知・行動を診察する
- MRIで中脳萎縮などを確認することがある
- パーキンソン病、多系統萎縮症、血管性パーキンソン症候群、大脳皮質基底核変性症などと鑑別する
- レボドパを試み、効果の程度を確認する
治療の考え方
根治療法やタウを除去する標準的な疾患修飾療法は確立しておらず、症状の軽減と安全な生活の維持を目標とする。
薬物療法
- レボドパを試みるが、効果は限定的なことが多い
- 筋緊張、抑うつ、睡眠障害、流涎などに対して症状別の治療を行う
- 嚥下障害や誤嚥の程度に応じて、薬剤や栄養方法を調整する
リハビリテーション・生活支援
- 歩行・姿勢・バランス訓練、作業療法を行う
- 眼球運動障害を踏まえ、階段・段差・床面の環境を整える
- 構音・嚥下訓練、コミュニケーション支援を行う
- 転倒、誤嚥、低栄養、介護負担への支援を早期から行う
看護のポイント
転倒・眼球運動への対応
- 転倒歴、後方へのふらつき、方向転換、階段昇降を観察する
- 下方注視障害により、段差や足元の確認が難しいことを説明する
- 手すり、歩行器、明るい照明、段差の目印を整える
- 急がせず、移動時は必要に応じて介助する
嚥下・栄養管理
- むせ、湿性嗄声、咳、食事時間の延長を確認する
- 誤嚥性肺炎の兆候、体重、水分摂取量を観察する
- 食事姿勢、食形態、一口量を調整し、嚥下評価につなげる
- 経口摂取が難しくなる場合は、本人・家族と栄養方法を検討する
コミュニケーション・家族支援
- 短く具体的に伝え、返答を急がせない
- 文字や写真など、見やすい位置・大きさの補助手段を活用する
- 無気力や脱抑制を本人の性格だけの問題と捉えず、疾患症状として理解する
- 進行に備え、介護サービス、意思決定支援、ACPを早期から進める
関連疾患・用語
4Rタウ/タウオパチー/パーキンソン症候群/多系統萎縮症(MSA)/大脳皮質基底核変性症(CBD)/垂直性核上性注視麻痺/早期転倒/嚥下障害