多系統萎縮症(MSA)

多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)

自律神経不全に加え、パーキンソニズムや小脳性運動失調が進行性に現れる神経変性疾患。

どんな病気?

多系統萎縮症(MSA)は、自律神経系、錐体外路系、小脳系など複数の神経系が障害される進行性の神経変性疾患。病理学的には、オリゴデンドロサイト内にαシヌクレインを含むグリア細胞質内封入体が形成される。

病型

  • MSA-P:パーキンソニズムが目立つタイプ
  • MSA-C:小脳性運動失調が目立つタイプ

原因・病態

原因は完全には解明されていない。αシヌクレインの異常蓄積などにより、以下の領域が障害される。
  • 線条体・黒質:筋強剛、動作緩慢などのパーキンソニズム
  • 小脳・橋:運動失調、構音障害、眼振
  • 自律神経関連部位:起立性低血圧、排尿障害、発汗異常
  • 延髄・呼吸関連部位:嚥下障害、睡眠時呼吸障害、吸気性喘鳴

主な症状

自律神経症状

  • 起立性低血圧:立位でのめまい、ふらつき、失神
  • 排尿困難、尿閉、頻尿、尿失禁
  • 便秘
  • 発汗低下、体温調節障害
  • 男性の勃起障害
自律神経症状が運動症状より先行することもあり、診断上の重要な手がかりとなる。

パーキンソニズム

  • 動作緩慢、筋強剛
  • 小刻み歩行、すくみ足、姿勢保持障害
  • 転倒
  • 振戦はみられることがあるが、典型的なパーキンソン病とは異なる場合がある
  • レボドパへの反応が乏しい、または効果が短いことがある

小脳症状

  • 体幹・四肢の運動失調
  • ふらつき、歩行失調
  • 構音障害、ろれつが回りにくい
  • 眼振、協調運動障害

嚥下・呼吸・睡眠症状

  • 嚥下障害、むせ、誤嚥
  • 声が小さい、発声困難
  • 睡眠中の異常行動(レム睡眠行動障害)
  • 睡眠時無呼吸
  • 吸気性喘鳴(stridor):上気道狭窄による異常な呼吸音

診断

  • 自律神経症状、パーキンソニズム、小脳症状の組み合わせと経過を評価する
  • 起立試験や血圧測定で起立性低血圧を確認する
  • 排尿機能、残尿、嚥下機能、睡眠・呼吸状態を評価する
  • MRIで橋・小脳の萎縮や、病型に応じた特徴的な変化を確認することがある
  • パーキンソン病、薬剤性パーキンソン症候群、進行性核上性麻痺、脊髄小脳変性症などと鑑別する

治療の考え方

根治療法や進行を確実に止める疾患修飾療法は確立しておらず、症状の軽減と安全な生活の維持を目標とする。

自律神経症状への対応

  • 起立性低血圧:ゆっくり起き上がる、弾性ストッキング、十分な水分摂取などを検討する
  • 排尿障害:排尿パターンと残尿を評価し、必要時は導尿などを検討する
  • 便秘:水分、食物繊維、運動、薬物療法を組み合わせる
  • 起立性低血圧への対応は、心不全・腎機能障害などの合併症を確認して行う

運動・嚥下・呼吸への対応

  • パーキンソニズムには、必要に応じてレボドパを試みるが、効果を個別に評価する
  • 歩行・バランス訓練、作業療法、構音・嚥下訓練を行う
  • 嚥下障害が進行した場合は、食形態の調整や栄養方法を検討する
  • 吸気性喘鳴、睡眠時無呼吸、呼吸苦がある場合は、早急に呼吸評価につなげる

看護のポイント

転倒・起立性低血圧

  • 起立前後の血圧・脈拍、めまい、ふらつき、失神を確認する
  • ベッドからの起き上がりやトイレ歩行は急がせず、必要時は介助する
  • 夜間照明、手すり、歩行器などを整え、転倒を予防する
  • 入浴、排便後、食後など血圧が低下しやすい場面に注意する

排尿・便秘

  • 排尿回数、尿量、残尿感、尿閉、尿路感染症状を観察する
  • 尿失禁だけでなく、排尿困難や尿閉にも注意する
  • 排便間隔、腹部症状、食事・水分摂取を確認する

嚥下・呼吸

  • むせ、湿性嗄声、食事時間の延長、体重減少を観察する
  • 誤嚥性肺炎の兆候(発熱、咳、痰、呼吸状態の変化)を確認する
  • 吸気性喘鳴や睡眠中の無呼吸、呼吸苦は緊急性があるため、速やかに報告する

心理・家族支援

  • 進行性疾患であることを踏まえ、本人の不安や喪失感を受け止める
  • 移動、食事、排泄、呼吸補助など将来の支援について早期から話し合う
  • 家族の介護負担を評価し、多職種・在宅サービスにつなげる
  • 病状の進行に合わせて、意思決定支援とACPを行う

関連疾患・用語

αシヌクレイン/シヌクレイノパチー/パーキンソン症候群/MSA-P/MSA-C/起立性低血圧/自律神経不全/小脳性運動失調/嚥下障害/吸気性喘鳴/レム睡眠行動障害