αGI
Q. 5-5 α グルコシダーゼ阻害薬の特徴は何か?
【ステートメント】
腸管での糖の分解を抑制して吸収を遅らせるため、食直前に内服することで、食後の高血糖や高インスリン血症を抑えることができる。副作用として、放屁や下痢がしばしばみられる。低血糖時にはブドウ糖で対処しないと改善しない。 [1]
作用機序
αグルコシダーゼ(二糖類分解酵素)を競合阻害し、二糖類の単糖類への分解を抑制する
選択性に違いがある
小腸粘膜上皮細胞の刷子縁膜
アカルボース | ボグリボース | ミグリトール | ||
---|---|---|---|---|
マルターゼ (グルコアミラーゼ) | 基質:マルトース、マルトトリオース、α-リミットデキストリン 生成物:グルコース | 阻害作用 | 阻害作用 | 阻害作用 |
イソマルターゼ | 基質:イソマルトース 生成物:グルコース | ー | 阻害作用 | 阻害作用 |
スクラーゼ | 基質:スクロース 生成物:グルコース、フルクトース | 阻害作用 | 阻害作用 | 阻害作用 |
ラクターゼ(β-アミラーゼ) | 基質:ラクトース 生成物:グルコース、ガラクトース | ー | ー | 阻害作用 |
トレハロース | 基質:トレハロース 生成物:グルコース | ー | ー | 阻害作用 |
唾液・膵液
アカルボース | ボグリボース | ミグリトール | ||
---|---|---|---|---|
α-アミラーゼ | オリゴ糖→二糖類 | 阻害作用 | ー | ー |
(補足)そのため、唯一、アカルボースには、炭水化物消化酵素製剤(ジアスターゼ等)との併用注意の記載がある。([アカルボース]α-アミラーゼ阻害作用、[炭水化物消化酵素製剤]α-アミラーゼ作用)
ある種の細菌が産生
アカルボース | ボグリボース | ミグリトール | ||
---|---|---|---|---|
デキストラナーゼ | 基質:デキストラン | 阻害作用 | ー | ー |
歯垢抑制効果が期待されるため、デキストラナーゼ配合歯磨剤や洗口剤が開発されている
→アカルボース併用すると、効果減弱する可能性がある
代謝
アカルボース | ボグリボース | ミグリトール | |
---|---|---|---|
代謝酵素 | 結腸で代謝される (活性代謝物あり) | ほとんど代謝されない | ほとんど代謝されない |
ガイドライン
ガイドラインには、3剤の使い分けについて明記はされていない
効能・効果
適応症:
いずれも、適応症は、「糖尿病の食後過血糖の改善」
しかし、ボグリボースのみ、「耐糖能異常」がある
アカルボース
糖尿病の食後過血糖の改善
(ただし、食事療法・運動療法によっても十分な血糖コントロールが得られない場合、又は食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下薬若しくはインスリン製剤を使用している患者で十分な血糖コントロールが得られない場合に限る)。
ボグリボース
〈ベイスンOD錠0.2、0.3〉
糖尿病の食後過血糖の改善
(ただし、食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない場合、又は食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下剤若しくはインスリン製剤を使用している患者で十分な効果が得られない場合に限る) 〈ベイスンOD錠0.2〉 耐糖能異常における2型糖尿病の発症抑制(OD錠0.2のみ)
(ただし、食事療法・運動療法を十分に行っても改善されない場合に限る)
(ただし、食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない場合、又は食事療法・運動療法に加えて経口血糖降下剤若しくはインスリン製剤を使用している患者で十分な効果が得られない場合に限る) 〈ベイスンOD錠0.2〉 耐糖能異常における2型糖尿病の発症抑制(OD錠0.2のみ)
(ただし、食事療法・運動療法を十分に行っても改善されない場合に限る)
STOP-NIDDM 試験(Chiasson JL et al., Lancet (2002) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12086760/)を受けて、2009年に効能追加
ミグリトール
糖尿病の食後過血糖の改善
(ただし、食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない場合、又は食事療法・運動療法に加えてスルホニルウレア剤、ビグアナイド系薬剤若しくはインスリン製剤を使用している患者で十分な効果が得られない場合に限る)
薬理作用
血糖降下作用
血糖降下作用:
ミグリトール>アカルボース>ボグリボース と言われている
- 少人数の検討ではあるが、日本人の肥満2型糖尿病患者において、HbA1c・体重・BMI に対する効果は、「ミグリトール>アカルボース>ボグリボース」だった。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24843762/)
- 日本人2型糖尿病患者を対象に、食事負荷試験食テストミールA負荷後の血糖・インスリンについて、ミグリトールとボグリボースを比較した結果、ミグリトールは、食後30分と60分の早期の血糖上昇を強く抑制し、その結果として食後120分までのインスリン分泌を抑制しており、長時間にわたって効果を示した。なお、中性脂肪反応には、有意差はなかった。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/51/5/51_5_411/_pdf/-char/ja)
GLP-1 上昇作用
GLP-1 上昇作用:
α-GI に共通する作用と捉えられている
クラスエフェクト
心血管イベント抑制効果
期待されている
- STOP-NIDDM 試験:耐糖能異常 (IGT) に対して、アカルボース治療をすることで、心筋梗塞などの心血管疾患の発症は49%減った
- しかしこの解析はサブ解析であること、認められたイベントそのものの数が極めて少なく、エビデンスとしてのレベルは高くない
副作用
消化器症状
肝機能障害
医薬品等安全性情報 146号 https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/1003/h0304-1.html
リスク因子:アカルボースによる肝機能障害
- 女性
- 投与量 ≧300 mg/日
- SCr >2 mg/dL
Physician Desk Reference (PDR)
剤型
アカルボース | ボグリボース | ミグリトール | |
---|---|---|---|
先発医薬品 | (グルコバイ) | ベイスン | セイブル |
ー | 錠・OD 錠 | 錠・OD 錠 | |
後発医薬品の剤型 | 錠・OD 錠 | 錠・OD 錠・OD フィルム | 錠・OD 錠 |
服用方法
食直前服用
飲み忘れた時の対応
一般的な対応)思い出した時に応じて、対応
- 食事中に思い出した時は、すぐに服用
- 食直後に思い出した時は、すぐに服用
- 食後時間が経っている時は、次回服用まで飛ばす
一般的に上述のような対策が行われていますが、服用時間の影響を検討した報告があります。
- アカルボース
Rosak C, Nitzsche G, König P, Hofmann U. The effect of the timing and the administration of acarbose on postprandial hyperglycaemia. Diabet Med. 1995 Nov;12(11):979-84. doi: 10.1111/j.1464-5491.1995.tb00409.x. PMID: 8582130.
- 食前30分前に服用:効果なし
- 食事開始から15分後までに服用すれば、食直前服用と同程度の薬効が発揮される
- ミグリトール
Aoki K, Nakamura A, Ito S, Nezu U, Iwasaki T, Takahashi M, Kimura M, Terauchi Y. Administration of miglitol until 30 min after the start of a meal is effective in type 2 diabetic patients. Diabetes Res Clin Pract. 2007 Oct;78(1):30-3. doi: 10.1016/j.diabres.2007.01.072. Epub 2007 May 9. PMID: 17493703.
- 日本人2型糖尿病患者(n=13)
- 食直後、食事開始15分後、食事開始30分後に服用したところ、いずれも、血糖降下作用を示した
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17493703/
- ミグリトールは、食事開始30分後までならば、思い出した時に薬を飲んでも有効
参考資料
[1] 日本糖尿病学会:「糖尿病診療ガイドライン2019」.http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
「糖尿病治療薬による心血管疾患予防効果」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/5/106_1029/_pdf