ワルファリンを飲んでいる時、ビタミンKはどれだけ食べて良いのか?

研究の背景

ワルファリン

 
ワルファリンは、抗凝固薬の一つであり、日本では1976年に承認され、長い間使われている薬です。ビタミン K の働きを阻害し、ビタミン K 依存性の血液凝固因子の生成を抑制することで、血栓をできにくくするする薬です。
血栓塞栓症の予防のために使われている非常に重要な薬です。
 
ワルファリンを治療に使う上で、注意すべきワルファリンの特徴として、
個人差が大きい
薬物相互作用がたくさんある
ことがあります。
 
さらに、ワルファリンは、ビタミン K の働きを阻害することで薬効を発揮するため、ビタミン K をとりすぎると、ワルファリンの効果が失われる可能性があります。
そのため、ワルファリンを服用している人では、他の薬との相互作用だけでなく、食事についても、注意が必要です。
 
特に、「納豆」は、ワーファリンを服用している人は食べてはいけません。その影響は長く続くので、朝に納豆を食べて、夜に服薬する、というように時間をあけたとしても、ダメです。
他にもビタミン K 含有量が多い、クロレラ青汁も禁止されています。

論文の内容

☑️ 要点をつかむ

なぜ、この研究をしようと思ったのか
ワルファリンとビタミンKの相互作用を過度に捉えて、緑黄色野菜についても過度に食事制限されている場合がある。
過度の食事制限は、①食事バランスの乱れによる栄養不足、②患者の QOL 低下、③ビタミン K の本来の働きに影響する(骨の健康維持)可能性がある。
また、一定のビタミン K を摂ることで、ワルファリンの抗凝固能が安定するという報告もある。
 
そこで、ビタミン K 摂取量とワルファリンの抗凝固能の指標である PT-INR(国際標準化プロトロンビン時間)の関連を調べて<系統的レビュー>、ワルファリン服用者が許容できるビタミン K 摂取量(上限量・下限量)を検討した。その結果をもとにして、実際の食事メニューを検討した。

☑️ 研究計画

ビタミン K 摂取とワルファリンの相互作用に関する論文を検索した(検索日:2014年10月3日)。
3次スクリーニングの基準
◯上限量の検討
・ビタミン K 摂取量が書かれている
・ビタミン K 摂取後に有害事象が生じた
・ビタミン K 摂取前後に、血液凝固能検査値(INR またはトロンボテスト値)が書かれている
論文を調べた
◯下限量の検討
・ビタミン K 摂取量が書かれている
・ビタミン K 摂取することで、抗凝固能が安定したことが書かれている

☑️ 結果をみる

内容を精査し、16報を上限量の検討に、6報を下限量を検討するために、採択した。
<有害事象の原因>
ワルファリンの有害事象を引き起こした原因食品として記載されていたのは以下の通りであった。
  • マルチビタミンミネラルサプリメント:3報、5件
  • 食品:4報、6件
    • ブロッコリー
    • 豚レバー
    • ホウレンソウ
    • アサクサノリ
日本人にとって、主なビタミン K 源となる食品には納豆があるが、納豆が原因となった症例がなかったわけではなく、摂取量や INR 変化量が記載されていた論文がなかった。
ビタミン K 摂取量/上限量
調べた論文では、有害事象が出た症例で、有害事象が出る前と比較して、INR は短縮しており、血栓ができやすい状態に近づいていた。
ビタミン K 摂取量と有害事象前後の INR 変化量の関係を見ると、直線回帰式は、右下がりであり、ビタミン K 摂取量が多いほど INR は前後を比較して大きく短縮、つまり、血液凝固しやすくなっていた。
食事外に摂取したビタミン摂取量 (A) と、食事からの摂取量を推定し合計したビタミン摂取量 (B) の両方とも、同様の傾向であった。
ワルファリンを治療に用いるとき、INR の変動幅を 0.5〜1.0 に抑えることが目標とされている。
そこで、直線回帰式を元に、 INR の変動幅が 0.5 となるビタミン K 摂取量を計算した結果は下記の通りであった。
・記載されていたビタミン K 量のみを用いた場合:292~311 μg
・食事によるビタミン K 摂取量を加味した場合:325~333 μg
より安全をとって、論文では、
・ビタミン K 摂取量の変動が292μg/ 日、
・総ビタミン K 摂取量が325μg/日を超える場合に
有害作用のリスクが高まると、考えられていた。
ビタミン K 摂取量/下限量
6報の論文を読むと、抗凝固能が安定したビタミン K 摂取量は 25~500 μg/日の幅があった。その中で、最もエビデンスレベルが高いと考えられる無作為化プラセボ比較試験には、150 μg/日とあった。
そこで、論文では、ワルファリンの抗凝固コントロール安定化を目的する時、最適なビタミン K 摂取量は 150 μg/日が妥当と考えた。これは、日本人の食事摂取基準 2015 年版に記載された、成人のビタミン K 摂取目安量  150 μg/日とも一致していた。
食事メニュー
平成24年国民健康・栄養調査報告(報告書はこちら)では、日本人の食事からのビタミン K 摂取量は、1日あたり平均 229 μg/日であり、その摂取源は、大豆・加工品と、緑黄色野菜となっていた。
そこで、代表的なメニューについて、1食あたりのビタミン K 摂取許容量を超えないような量を検討した。1食あたりのビタミン K 摂取許容量 325 μg の 1/3 である 108 μg とした。
納豆:摂取不可
納豆は、ビタミン K を豊富に含んでおり、1食分で、1日の摂取上限量を超える。
大豆・加工品緑黄色野菜を使ったメニュー
具体例を示すことで、患者に理解を促すことにつながる。

論文を読んで思うこと

☑️ 良いと思ったポイント

ワルファリンは非常に重要な薬ではありますが、コントロールのために、食事制限が必要なところが、患者様にとっては、非常に大変なところです。
納豆に関しては、ビタミン K を豊富に含んでいることに加えて、ビタミン K 合成酵素も持っているため、ワルファリンを服用中は絶対に食べてはいけないことは、もちろんです。中には、朝に納豆を食べて、夜に薬を飲んだらどう?と考えられる方もいますが、影響は数日単位で長く続くため、時間をあけたとしても、食べてはいけません🙅。
他の緑黄色野菜について、製薬企業の情報提供内容では、体を作り維持するために必要な栄養素をとるために、通常の食事であれば、問題ありません、としています。
ただし、緑黄色野菜の中でも、色の濃い野菜(ブロッコリーや小松菜など)は、ビタミン K 含有量が多いため、この摂取に関しては、意見が分かれるところです。血栓症のリスクが高い人については、「禁止」と指導されている場合もあるでしょう。
そこで、この研究では、単に、⭕️❌ではなく、「定量的」な見方をしているところが良いところだと思いました。
ビタミン K は、一時的に大量に取りすぎると、ワーファリンの薬効もばらついてしまうので良いことではありません。ある程度の量を常に取ることが大切です。ビタミン K の含有量が多い野菜については、
具体的にどのくらいのビタミン K を含んでいるかが見えると、実際の摂取量も具体的に考えることができます。

☑️ 結果を読む

論文の系統的レビューをして、ビタミン K 摂取量と INR 変化量の関係が示されていました。ビタミン K をたくさん摂取するほど、INR は摂取前に比べて短縮していましたが、中には、大きく下の方に外れている点もありました。
これは、ビタミン K を少量しかとらなかったのに、INR が非常に短縮したかたがいたことがわかります。
これは、ワルファリンを飲んだ時の反応には個人差が大きいこととも一致するとと言えます。
だからこそ、日常診療では、患者さんごとに、定期的に検査をしながら、薬の用量を調節しています。

☑️ 日常業務に活かす

一般的なビタミン K 摂取量は?
平成24年国民健康・栄養調査報告(報告書はこちら)では、日本人の食事からのビタミン K 摂取量は、1日あたり平均 229 μg/日となっていましたが、これは、納豆を食べる習慣の有無によって大きく異なります。
日本人女子大学生の食事記録からは、納豆を食べない人における、ビタミン K 摂取量は、ワルファリンの薬効を変動させない程度の理想的な量だといえます。男性の食事量を考えると、納豆を食べない男性が、通常の食事で摂取しているビタミン K の量はこれより多いと思いますが、日本人の平均の1日あたりビタミン K 摂取量の平均 229 μg/日(平成24年国民健康・栄養調査報告)よりは少ないのではないでしょうか。
ビタミン K 摂取量
成人が1日に摂取すべき栄養素の目安量と、ワルファリンの抗凝固作用を安定させるための目安は、どちらも1日150 μg/日でした。
ビタミン K の摂取量: 150 μg/日
ワルファリンの薬効のばらつきを抑え、INR の変動を 0.5 以内に抑えるために、1日に摂取するビタミン K の上限量は、 325 μg/日でした。
この結果を元にして、緑黄色野菜をとる場合も、1食あたりの摂取量を 325 を 3 で割った 108 μg/食であれば、定期的に摂取可能であると考えられています。
必要以上に摂取制限するのではなく、この目安は、栄養をとりながら、薬の治療を行うために重要です。もし、過剰に制限しなければ、と思っている方がいらっしゃれば、一つの参考になる資料です。
ただし、個人差が非常に大きいです!
少量のビタミン K 摂取でも、抗凝固能が大きく変動した方もいました。患者様個別に応じて、適切な指導が行われるべきであり、これはあくまでも一般論にしかすぎません。
ビタミン K 摂取量の変動
INR の変動を 0.5 以内に抑えるためには、食事にプラスして摂取したビタミン K は、282 μg/日であることが望ましい、こともこの論文で示されていました。これをもって、1日のビタミン K 摂取量の変動幅は、282 μg 以内にすることが望ましいと、されていました。
これについては、日内変動のように記載されていましたが、日間変動としては、どの程度なのかが少し気になりました。(もちろん、過度のドカ食いはお勧めできません)
食事の注意点まとめ
納豆はダメ 野菜: 基本的に、通常の摂取量で大丈夫だが(一度に大量摂取しない)  色の濃い緑黄色野菜は、気持ち少なめに  色の薄い野菜は制限なし     と気がけておくと良いでしょう 大豆・加工食品:気持ち少なめに(一度に大量摂取しなければ大丈夫)
この論文を読んで、私なりには、上記のように考えています。
 
全てを禁止するのではなく、具体的に伝えるのは非常に良い方法です。
ただし、緑黄色野菜の摂取に関しては、ワルファリンのコントロール状況によるので、主治医や薬剤師によく確認することが重要です(個人ごとに対応していると思います)。
その上で、過度に制限するのではなく、ストレスなく安全な薬物療法を実施できるように説明することが重要です。
 
健康食品・サプリメント・機能性食品
クロレラ青汁製品は、ビタミン K を多く含むため、摂取してはいけません。他の健康食品も、ワルファリンの薬物動態や薬効に影響する可能性があります。グルコサミンをはじめ、たくさんの報告例があります。
ワルファリンを服用中の方では、必ず事前に確認することが重要です。マルチビタミンがワルファリンの有害事象の引き金になったことも報告されています。もしかすると、食事制限があるために、良かれと思ってビタミン剤を摂取したのかもしれません。
薬の効果を十分に発揮しつつ、安全性を高めるために 定量的に評価し判断することの大切さを再確認した論文でした。
 
 
最後まで読んでくださりありがとうございます。