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職業特性に応じた注意が必要な医薬品

「仕事で運転するんですが、この薬は飲んで良いですか?」
A:
精神神経症状への影響について、添付文書の記載等を参考に注意喚起が必要ですが、職業によっては、特別な注意が必要な場合があります。
お薬手帳などを活用した、十分な情報提供が重要です。
 

はじめに

治療を行いながら薬物治療を行う上で、患者様の職業の背景にも注意が必要です。
(1)疾患
疾患の中には、症状のコントロールができていない状態だと、安全な運転に支障をきたす可能性があるため、制限が設けられています [1]。
(2)治療薬
医薬品の中には、副作用により、意識レベルの低下、意識消失、意識変容状態、失神、突発的睡眠等の精神神経症状等を引き起こすことで、自動車運転等で第三者に対して危害を及ぼす危険性があります。
平成25年3月に総務省から出された「医薬品等の普及・安全に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」[2] を受けて、厚生労働省では、添付文書で意識障害等の記載のある医療用医薬品で、自動車運転等の注意喚起がなされていない医薬品について、注意喚起の必要性について検討が行われました [3] 。
 

添付文書の記載内容

医療用医薬品の場合、添付文書に、次のような注意喚起が記載されているものがあります。
8. 重要な基本的注意
眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないよう十分注意すること。
 
医療用医薬品の添付文書内容を、制限が必要だと判断した理由、制限する動作の内容、どの程度の注意が必要か(禁止するのか、注意喚起か)には、いくつかの種類があり、その内容を以下にまとめます。
【1】制限が必要な理由:
  • 眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下
  • 降圧作用に基づくめまい、ふらつき
  • 低血糖症状
  • 点眼後、一時的に目がかすむことがあるので
  • めまいや視覚障害
  • 失神、意識消失、めまい等
【2】制限する動作の内容:
  • 高所作業
  • 自動車の運転
危険を伴う機械の操作
機敏な動作を必要とする仕事
【3】どの程度の注意が必要か:
  • 従事させないよう十分注意すること
  • なるべく従事させないように注意すること
  • 注意させること
「投与にあたっては、これらの副作用が発現する場合があることを患者等に十分に説明すること。」という文章が合わせて記載
 
制限が必要な理由については、副作用により、中枢抑制作用による精神神経症状のほか、降圧作用や血糖低下作用に伴うものや視覚に影響を与えることが挙げられています。また、医薬品の中には、溶解補助の目的などで、アルコールを含有するものもあり、この場合、運転等は禁止しなければなりません。注意喚起の程度については、禁止〜注意喚起まで、異なります。
医薬品の薬理作用の延長で眠気等が生じる医薬品については、服薬を続けるうちに慣れてくるなど、個人差も大きいため、個々の患者に応じた対応が重要です。実際に、注意喚起がない医薬品でも、人によっては「眠くなる」と言われることもあるので、個別の対応が重要です。
 

航空機乗務員の場合

航空機乗務員については、国土交通省から指針やパンフレットが公開されており、さらに厳しい制限があることがわかります。航空業務に及ぼす影響に関して、4群に分類されています。
A 航空業務に当たり、安全と考えられる医薬品 B 航空業務に当たり、指定医又は乗員健康管理医において個別の確認が必要な医薬品 C 航空業務に当たり、国土交通大臣による判定が必要な医薬品 D 航空業務には不適合な医薬品
痛みを生じる疾患自体、航空業務に支障を生じる可能性があるとされている他、抗菌薬、緩下作用・利尿作用のある医薬品、循環器系や内分泌系に作用する医薬品についても、指定医の確認や観察期間が必要などとされています。
このように、添付文書に記載されている医薬品以外にも、注意すべき医薬品があります。
 
詳細は、指針を確認して欲しいのですが、項目だけ以下に挙げています。
A 航空業務に当たり、安全と考えられる医薬品 ○ 点眼薬(アレルギー性結膜炎、アレルギー性眼瞼炎、緑内障の治療用と散瞳薬を除く)、 点鼻薬(アレルギー性鼻炎治療用を除く)、点耳薬 ○ 禁煙補助用ニコチンガム、ニコチンパッチ ○ 軽症の皮膚疾患に対する外用薬(抗菌薬を含む)(アレルギー性皮膚疾患に使用する場合は除く) ○ 一般用医薬品(市販薬)(第3類)
例外として、第3類の一般用医薬品(および、医薬部外品)の中に、アルコールを含有するドリンク剤があります。
B 航空業務に当たり、指定医又は乗員健康管理医において個別の確認が必要な医薬品 ○ 非ステロイド系消炎鎮痛薬及びアセトアミノフェン ○ 一般用医薬品(市販薬)(指定第2類を除く第2類) ○ 抗菌薬 ○ 整腸剤、消化酵素薬、健胃薬、止瀉薬(腸運動抑制薬を除く) ○ 去痰薬 ○ 漢方薬、生薬 ○ アレルギー性結膜炎、アレルギー性眼瞼炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性皮膚疾患治療用の点眼薬・点鼻薬・外用薬(ステロイド含有の医薬品も含む) ○ 痔疾患に対する坐薬・緩下剤・外用薬 ○ 便秘症に対する緩下剤 ○ 降圧薬 ○ 痛風又は無症候性高尿酸血症の治療のための尿酸排泄薬、尿酸生成阻害薬又は酸性尿改善薬 ○ 消化性潰瘍治療薬 ○ 内視鏡による潰瘍瘢痕期確認後(S-stage)の維持療法・予防的投与、治癒期(H-stage)の治療薬、逆流性食道炎の治療薬及びピロリ菌感染治療薬としてのプロトンポンプ阻害薬(ボノプラザンフマル酸塩を含む)及びH2ブロッカー ○ 鎮静作用の無い抗ヒスタミン薬(第二世代の抗ヒスタミン薬に限る) ○ 減感作療法(皮下注射及び舌下免疫療法) ○ 睡眠薬(睡眠導入薬) ○ 女性ホルモン製剤(卵胞ホルモン、黄体ホルモン、卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合剤、子宮内黄体ホルモン放出システム、GnRHアゴニスト、アンタゴニスト)、子宮内膜症治療薬 ○ 生殖補助医療に使用するホルモン製剤等の内服薬、外用薬 ○ 前立腺肥大治療薬、前立腺炎治療薬、排尿障害治療薬(以上α遮断薬、5α還元酵素阻害 薬、低用量PDE5阻害薬、β3刺激薬を含む) ○ ED治療薬 ○ 鉄剤 ○ 甲状腺ホルモン補充療法 ○ チアゾリジン誘導体、ビグアナイド薬、αグルコシダーゼ阻害薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT-2阻害薬 ○ 脂質異常症治療薬 ○ 免疫抑制薬 ○ 散瞳薬 ○ 増毛・育毛剤 ○ 予防接種 ○ ビタミン剤
C 航空業務に当たり、国土交通大臣による判定が必要な医薬品
○ 市販薬(A及びBに規定する場合を除く) ○ 抗不整脈薬(アミオダロンは除く) ○ 硝酸薬を含む狭心症治療薬 ○ 胆石症治療薬 ○ 炎症性大腸疾患治療薬 ○ 甲状腺疾患治療薬(ホルモン補充療法を除く) ○ 糖尿病治療薬 ○ 骨・カルシウム代謝薬 ○ 抗血小板薬 ○ 抗凝固薬 ○ 抗真菌薬(内服) ○ インターフェロン製剤、抗肝炎ウイルス薬 ○ 抗悪性腫瘍薬 ○ 免疫抑制薬(Bに規定する場合を除く) ○ 緑内障用点眼薬 ○ 抗菌薬(A及びBに規定する場合を除く) ○ 非ステロイド系消炎鎮痛薬(Bに規定する場合を除く) ○ ステロイド製剤(少量の維持投与の場合に限る)(外用薬は除く) ○ 中枢性降圧薬(少量の維持投与の場合に限る) ○ 脂溶性ビタミン剤
D 航空業務には不適合な医薬品 ○ 麻薬、覚醒薬 ○ 抗てんかん薬 ○ 上記以外の向精神薬 ○ インスリン ○ 筋肉増強薬 ○ 治験薬 ○ アミオダロン ○ 胆石症治療薬 別途、麻酔薬を使用した場合、内視鏡検査を実施した場合、注射薬の使用の取り扱いがある

おわりに

薬剤師としては、自動車運転等に従事する患者に説明する場合
  • 医薬品の特徴を理解した上で
  • 職業の内容を確認し
  • これまでの副作用歴(これまでに、薬を飲んで、眠くなったりだるくなったことはありませんか?)
を確認した上で、対応することが重要です。
航空機乗務員については、指針を確認した上で、指針に沿って対応し、さらに、職場で申告するために別途「薬剤情報提供書」を渡すなどが必要でしょう。
 
他にも、運動機能への影響や貼付剤の可否など、個別の対応が重要です。
 
参考資料)
[1] 警察庁 >運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/list2.html
[2] 総務省:「医薬品等の普及・安全に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」、平成25年3月22日. https://www.soumu.go.jp/main_content/000213386.pdf
[4]
国土交通省:「航空機乗組員の使用する医薬品の取扱いに関する指針」、令和5年7月21日一部改正.https://www.mlit.go.jp/common/001476614.pdf
国土交通省:「パイロットの医薬品使用」 https://www.mlit.go.jp/koku/content/001317956.pdf
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。