気管支喘息
気管支喘息治療薬と禁止物質
赤枠:注意が必要
- LABA:貼付薬は禁止物質「常に禁止される」
- 吸入 SABA:禁止物質「常に禁止される」
- 経口ステロイド薬:禁止物質「競技会(時)に禁止される」
それぞれの詳細は以下にまとめます。
副腎皮質ステロイド薬(糖質コルチコイド)
アンチ・ドーピングルール
禁止表:「S9 糖質コルチコイド」
競技会(時)に禁止される
この分類におけるすべての禁止物質は特定物質 である。
糖質コルチコイドの注射使用、経口使用[口腔粘膜(口腔内(頰)、歯肉内、舌下 等)を含む]、経直腸 使用はすべて禁止される。
その他の投与経路(吸入、局所投与を含む:歯根管内、皮膚、鼻腔内、眼(目薬)、耳(外用)、肛門 周囲)は、製造業者が承認を受けた用量および治療適応内で使用する場合は禁止されない。
(解説)
吸入ステロイド薬
- 気管支喘息の治療のために、「吸入ステロイド薬」を使うことは禁止されていません。ただし、使用の指示を守って、正しく使うことが大切です。
注射・経口・経直腸
- 禁止物質にあたるため、競技会(時)に使用することはできません。
- 重篤な発作のために必要な場合
- 使用した場合、遡及的TUE申告が必要です。
- 競技会外検査では禁止されていないため、重篤な発作のために救命のために注射が必要で競技会に参加しないのであれば、TUE 申請は不要です。
- 治療のために必要な場合、参考にウォッシュアウト期間が示されています(治療量を使用した場合、最低限のウォッシュアウト期間)
- 経口
- 全ての糖質コルチコイド:3日
- 例外)トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド:10日
- 筋肉内注射
- ベタメタゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン:5日
- プレドニゾロン、プレドニゾン:10日
- トリアムシノロンアセトニド:60日
- 局所注射
- 全ての糖質コルチコイド:3日
- 例外)プレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサトニド:10日
- 直腸
- 全ての糖質コルチコイド:3日
- 例外)トリアムシノロンジアセテート、トリアムシノロンアセトニド:10日
- ただし、薬物動態には個人差がありますので、この通り期間をあけたら、確実に大丈夫というわけではありません
ウォッシュアウト期間
(参考)‣
β2 刺激薬
アンチ・ドーピングルール
禁止表:「S3 ベータ2作用薬」
常に禁止される[競技会(時)および競技会外]
この分類におけるすべての禁止物質は特定物質 である。
すべての選択的および非選択的ベータ2作用薬は、すべての光学異性体を含めて禁止される。
⚠️ 例外:
● 吸入サルブタモール(24時間で最大1600 μg、いかなる用量から開始しても8時間で600 μgを
超えないこと)
● 吸入ホルモテロール(24時間で最大投与量54 μg)
● 吸入サルメテロール(24時間で最大200 μg)
● 吸入ビランテロール(24時間で最大25 μg)
⚠️ 注意:
尿中のサルブタモールが1000 ng/mL、あるいは尿中ホルモテロールが40 ng/mLを越える場合は、治療を意図した使用ではないため、管理された薬物動態研究を通してその異常値が上記の最大治療量以下の吸入使用の結果であることを競技者が立証しないかぎり、違反が疑われる分析報告(AAF)として扱われることになる。
禁止表:「S5 利尿薬および隠蔽薬」
常に禁止される[競技会(時)および競技会外]
この分類におけるすべての禁止物質は特定物質である。
⚠️ 注意:
常に(競技会(時)および競技会外)、あるいは競技会(時)それぞれの場合に応じて、利尿薬もしくは隠蔽薬(炭酸脱水酵素阻害薬の局所眼科用使用、あるいは、歯科麻酔におけるフェリプレシンの局所投与を除く)とともに、閾値水準が設定されている物質(ホルモテロール、サルブタモール、カチン、エフェドリン、メチルエフェドリン、プソイドエフェドリン)がいかなる用量でも競技者の検体から検出される場合は、競技者に対して、利尿薬もしくは隠蔽薬に加え、閾値水準が設定されている物質についても治療使用特例(TUE)が承認されていない限り、違反が疑われる分析報告(AAF)として扱われることになる。
(解説)
気管支喘息の治療に用いる β2 は作用時間の長さから、二つに分けられています。
- LABA:長時間作用型ベータ2刺激薬
- 発作予防のために、長期管理薬として用います
- SABA:短時間作用型ベータ2刺激薬
- 発作時に用います
LABA
■ホルモテロール、サルメテロール、ビランテロール
- 吸入薬(DPI, pMDI, SMI):禁止されない
- 日本国内で、通常、治療に使用する使い方を守って使う範囲では、禁止されていません。
- ただし、使用方法を守って、正しく使用することが重要です。
- 吸入ホルモテロール:
- オーキシス:18μg/day
- シムビコート:維持療法と頓用吸入を併用する場合 54μg/day(上限)
- ビベスピ:19.2μg/day
- ビレーズトリ:19.2μg/day
- フルティフォーム:40μg/day
- 吸入サルメテロール
- アドエア:100μg/day
- セレベント:100μg/day
- 吸入ビランテロール
- アノーロ:25μg/day
- レルベア:25μg/day
- テリルジー:25μg/day
日本で承認された最大用量
【重要】「利尿薬・隠蔽薬」を同時に使用する場合は、「S3 ベータ2作用薬」と「S5 利尿薬・隠蔽薬」の両方について、TUE 申請が必要です(S5の記載内容を参照)
- 貼付薬:禁止
- 例外として使用が認められているのは吸入薬であり、貼付薬の使用は禁止されています。
- 治療のために必要な場合、TUE 申請を行いますが、「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023」には、「通常は TUE 申請が認められない」とあるように、申請が認められることは難しいと思われます。
■インダカテロール、オロダテロール
- 禁止
■クレンブテロール
- 禁止
- 喘息治療薬としては、LABA のカテゴリに分類されます。アンチ・ドーピンングの観点からは、「S1.2.その他の蛋白同化薬」に該当する物質として、常に禁止されています。
SABA
■サルブタモール
- 吸入 (pMDI):禁止されない
- 日本国内で、通常、治療に使用する使い方を守って使う範囲では、禁止されていません。
- ただし、使用方法を守って、正しく使用することが重要です。
- 吸入液:禁止
- ネブライザーを使用した吸入は禁止されている投与経路ではありませんが、尿中サルブタモール濃度が 1000ng/mL を超えるため、禁止されています。
- 経口:禁止
- 例外として認められているのは吸入のみであり、経口経路での投与は禁止されています。
■プロカテロール
- 禁止
エフェドリン
アンチ・ドーピングルール
禁止表:「S6 興奮薬」
競技会(時)に禁止される
この分類におけるすべての禁止物質はS6.Aの特定物質でない物質を除いて、特定物質 である。
このセクションの濫用物質:コカイン、メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA/“エクスタシー ”)
すべての興奮薬(関連するすべての光学異性体[d体およびl体等]を含む)は禁止される。
S6.B:特定物質である興奮薬
- エフェドリン***
- メチルエフェドリン***
- プソイドエフェドリン***** ほか
*** エフェドリンとメチルエフェドリン:尿中濃度10 μg/mLを超える場合は禁止される。
***** プソイドエフェドリン:尿中濃度150 μg/mLを超える場合は禁止される。
(解説)
- エフェドリン
- 禁止物質にあたるため、競技会(時)に使用することはできません。
- 治療のために必要な場合、TUE 申請を行いますが、「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023」には、「通常は TUE 申請が認められない」とあるように、申請が認められることは難しいと思われます。
- (気管支喘息とは関連しませんが)過去に、痩身目的の食品に、エフェドリンが違法に添加された食品が流通していたことがありましたので、その点でも、きちんと自分が摂取しているものを証明できることは重要です。
【重要】TUE 申請を行う場合、かつ、「利尿薬・隠蔽薬」を同時に使用する場合。「S6 興奮薬」と「S5 利尿薬・隠蔽薬」の両方について、TUE 申請が必要です(S5の記載内容を参照)
対症療法薬など
鎮咳薬
中枢性鎮咳薬
- 麻薬性
- コデインリン酸塩
- ジヒドロコデインリン酸塩
- 非麻薬性
- アスベリン、メジコン、アストミン、レスプレン、フスタゾール、コルドリン
麻薬性中枢性鎮咳薬
アンチ・ドーピングルール
禁止表:監視プログラム
5.麻薬
競技会(時)のみ:
コデイン、デルモルフィン(および類似物質)、ジヒドロコデイン、ヒドロコドン、タペンタドール
タペンタドールとジヒドロコデインは競技会(時)の使用パターンを監視するために追加した。
(解説)
禁止物質ではありませんが、監視プログラムの対象物質と規定されています。「監視プログラム」とは、禁止物質ではありません。使用パターンを把握するために、検出した場合には、検査結果が報告されます。
禁止物質ではありませんので、使用することはできます。ただし、「報告されることを嫌う場合」、「他の薬でも治療可能な場合」、「咳がひどく、医師が、「これが必要」と認めた時以外」は、競技会の間近には、使用を控える方が望ましいでしょう。
市販の咳止め薬にも含まれている成分です。
漢方薬
咳の治療のために、漢方薬が用いられることがあります。
「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2019」では、成人の咳嗽治療薬の中に、「麦門冬湯、柴朴湯、小青竜湯、清肺湯、滋陰降火湯、半夏厚朴湯、六君子湯」が挙げられています。
漢方薬とアンチ・ドーピング
①禁止物質を含む場合
②禁止物質を含むか特定できない場合
アンチドーピングの観点から、上記の2点で注意をする必要があります。
①禁止物質を含む場合
漢方薬の中には、明らかに禁止物質を含むものがあります。例えば、咳嗽治療薬にも含まれる「麻黄」にはエフェドリンやメチルエフェドリン、プソイドエフェドリンが含まれます。
上記の成人の咳嗽治療薬のうち、「小青竜湯」には、「麻黄」が含まれています。
②禁止物質を含むか特定できない場合
天然由来のものについては、含有成分を特定できない場合があります。
漢方薬を構成する生薬には、非常にたくさんの成分が含まれているため、その一つ一つについて、禁止物質に当たるか否かを特定するのは困難です。そのため、「摂取しても問題ありません」ということができません。
2024年時点の情報です