2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン
人工弁置換術後の抗血栓療法
機械弁
- 全例にワルファリンによる抗凝固療法が必要となる.(推奨クラス I)
- ワルファリン投与下においても年間 1 ~ 3%程度に血栓塞栓症の合 併が認められる
- ワルファリンコントロールの INR の目安
- 第二世代二葉弁(Carbomedics弁,ATS弁や St.Jude Medical弁など)の場合
- 大動脈弁位に対しては INR 2.0 ~ 2.5
- (欧米GL)大動脈弁位で INR 2.5(2.0~3.0)
- 僧帽弁位に対しては INR 2.0 ~ 3.0
- (欧米GL)僧帽弁位で INR 3.0(2.5 ~ 3.5)
- 塞栓症リスク(塞栓症 既往,心房細動,MSおよび LVEF<35%の場合)
- 塞栓症リスクのある大動脈弁位に対しては INR 2.0 ~ 3.0
- (欧米GL)通常より 0.5 ほど高値で設定 される
- 抗血小板薬の併用は推奨しない
- 明らかな血栓塞栓症を発症した患者
- INR を 2.5 ~ 3.5 にコントロールする(推奨クラス IIa)
- アスピリンの併用を考慮してもよい(推奨クラス IIb)
生体弁
- 生体弁植込み後,3 ~ 6 ヵ月以内は血栓塞栓症のリスクが高い
- 最低3ヵ月,出血のリスクがなければ 6ヵ月のワルファリンによる抗凝固療法(PT-INR 2.0~2.5) が推奨される(推奨クラス IIa)
- それ以降は、
- 危険因子を持たない症例では抗凝固療法を行わない
- 血栓塞栓症の危険因子を合併する場合には抗凝固療法(PT-INR 2.0 ~ 2.5)を継続することを考慮する
大動脈弁狭窄症(AS)
- TAVI 術後
- 6 ヵ月の抗血小板薬 2 剤投与,その 後一生抗血小板薬単剤投与を推奨する(推奨クラス IIa)
過剰投与時・出血合併例に対する治療
- INR が 4.5 を超える:出血のリスクが上昇する
- まずは:まずはワルファリンの中止またはビタミン K の投与
- 重篤な出血:ビタミン K やプロトロンビン複合体製剤の静注を考慮
- INR が 6.0 を超える:急激にリスクが上昇する
- 急速な中和を考慮
観血的処置時の抗血栓薬の中止
抜歯などの歯科治療
至適治療域に PT-INR をコントロールした上での,ワルファリン内服継続下での抜歯を推奨する(「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン」と同様)
- ワルファリン休薬により,血栓性・塞栓性疾患発症のリスクが上昇する
- PT-INR 2.0 ~ 4.0 であればワルファリン継続下でも重篤な出血性合併症を伴わずに抜歯できる
- INR 2.5 以下での抜歯を勧める報告もある
非心臓手術
- 抗血小板療法は:1 週間前に中止する
- 抗凝固療法:
- 大きな外科手術を実施する場合:
- ワルファリンを 72 時間前までには中止
- INR が 1.5 以下になったことを確認する必要がある
- 周術期には,INR が 2.0 未満の期間にヘパリンの持続投与が推奨される(ヘパリンの投与量は APTT が 55 ~ 70 秒に維持されるように調節し,術前 4 ~ 6 時間前に中止)
- 術後 は活動性の出血がないことを確認の後,可及的すみやか にヘパリン投与を再開し,ワルファリンに移行
消化管内視鏡による観察
- 抗凝固療法や抗血小板療法を継続
生検などの低リスク手技・ポリペクトミーなどの高リスク手技
- ワルファリンを 3 ~ 4 日中止ないし減量し PT- INR を 1.5 以下に調整
- 血栓症や塞栓症のリスクの高い症例ではへパリンによる代替療法を考慮