スタチン不耐に対する診療指針2018

「スタチン不耐(statin intolerance)」とは、種々の理由によりスタチンの継続服用が困難な状態
理由:服用に伴う有害事象の 出現や健康上の問題と認知される程度の検査値異常が中心
スタチン不耐:「スタチン服用に伴って見られる有害な症 状、徴候、ならびに検査値異常により、服用者の日常生 活(睡眠、家事/就労、余暇活動等)に許容困難な障害が生じ、結果としてスタチン服用の中断や減量に至るもの」(National Lipid Association(NLA)定義)
 
CQ1:不耐(中止)の頻度について
Answer:報告により不耐の症例は 0 ~10% / 年と差があるが、数年以上の観察期間を有する報告はわずかに留まる。
CQ1-2:スタチンの種類別の不耐頻度について
Answer:少数の報告に留まるが、スタチンの種類別の不耐頻度に差は認められない。
CQ1-3:不耐の理由
Answer:不耐理由を記載した報告は極めて少なく、客観的判断は困難である。
CQ2:スタチン不耐と ASCVD 予防効果、予後への影響
Answer:報告は極めて少ないものの、アドヒアランス不良群では予防効果が減弱する可能性がある
CQ3:日本人におけるスタチン不耐(服用継続困難)への対策は?
Answer:該当する論文は見当たらなかった。
スタチン関連製薬企業からの提出資料(主に市販後調査)による中止時期とその理由の分析。投与開始から中止までの期間の記載は以下の通り(A:12週以内、B:6 か月以内、C: 1 年以内、D: 1 年以降、E:不明) Answer:発症頻度を推測するための症例数としては充分とは言えないが、中止理由となる有害事象としては、筋症状、CK 値異常、肝酵素上昇が、0.3~1.0%の頻度で見られること、投与開始12週以内の早期に見られる場合が多いものと推測される。
 
有害事象
5.1 筋障害
5.1.1 スタチンによる筋有害事象
  • 成因:いくつかの機序が考えられている。(中心)スタチンによる細胞内ミトコンドリアにおける代謝異常が中心と考えられている
  • 危険因子:高齢女性、 小柄な体格、アジア人、腎機能障害、甲状腺機能低下症、 筋疾患、アルコール多飲、過度な運動、外科手術など多くの危険因子が報告されている。その他、薬物代謝酵素 チトクローム P450(CYP3A4)の代謝に関係する薬剤や solute carrier organic anion transporter family member 1B1(SLCO1B1)の遺伝子多型もスタチンによる筋有害事象のリスクになる。
5.1.2 スタチン関連筋症状
スタチン関連筋症状(statin-associated muscle symptoms、SAMS):スタチンが原因となって出現するすべての筋症状が含まれる。
筋肉の痛み、つり、こわばり、違和感などあらゆる自覚症状が含まれる。これらの症状は体幹や近位優位の四肢に左右差なく、比較的大きな筋肉に出現する。
重篤な病態:横紋筋融解症と四肢・体幹の筋力低下(ミオパチー)の 2 つ
筋力低下の有無は、「首が重い」「腕が挙がらない」「しゃがみ立ちができない」などの自覚症状の確認が大切である。
  • 好発時期:SAMS はスタチン内服開始から 4 ~ 6 週間以内で出現するが、まれに数年たってから筋症状が出現する場合も ある。
  • 危険因子:体を動かすことが多い人に出現しやすい。
  • スタチン内服量を増量した場合や別のスタチンに変更した場合 に、新たな SAMS が出現する可能性がある。また同じ スタチンを一度中止してから再投与した場合には早期に出現することが多い
5.1.3 血清クレアチンキナーゼ
スタチンを新規に使用する場合や、休薬してから再開する場合には、事前に血清 CK を測定すべきである。
スタチン使用開始後は、初回は 4 週間後を目安に、その後も随時血清 CK 測定を行うことが望ましい。
5.1.5 重篤な筋有害事象
頻度の低い筋有害事象であるが、いずれも極めて重篤な状態であり、迅速な対応が必要である。
①横紋筋融解症(rhabdomyolysis):
横紋筋が障害されることにより、筋組織が崩壊、壊死する状態
スタチン服用者のうち0.001%で横紋筋融解症が発症するといわれる
症状:広範な筋肉痛、把握痛、倦 怠感、筋力低下、発熱。血清 CK 値(しばしば正常上限40倍以上(およそ10,000 IU/L 以上)の高値)。赤色尿(コーラ色尿)にもかかわらず、 尿沈査で赤血球を認めないミオグロビン尿症を呈する。 特に急性腎不全になる可能性があることに注意が必要である。
治療:スタチンの中止とともに、安静と十分量の補液を行う。
②スタチン関連ミオパチー
治療:原因薬剤の中止に加えて、ステロ イドを中心として免疫治療を行う。治療効果は概して 良好であり、数か月かけて筋力低下は次第に改善する
5.2 肝障害
治療中、軽度~中等度のトラ ンスアミナーゼ値上昇を伴うことがある
  • 発生頻度:多くの場合投与開始 3 か月以内に0.5~2.0% で出現(欧米の大規模調査)
  • 機序:不明
  • 対策:スタチンによる治療中に軽度の肝障害を伴うことがあるが、多くの場合一過性で用量を変更せずに治療を継続しても回復する。
5.3 中枢神経有害事象
5.3.1 認知機能への影響
日本においてはスタチンによる認知機能低下の報告はない。日本では服用されるスタチンの用量が少ないこともその相違に関与している可能性も示唆される。
  • 発生状況:FDA
    • 60例中36例はシンバスタチン
    • 23 例はアトルバスタチン
    • 1 例はプラバスタチン 投与後に生じていた。
    • 25例中14例(56%)ではスタチンの中止後症状が改善していた。
    • 4 例ではスタチンの再開後同様の 症状の再発をみている
      • 全て、脂溶性スタチン
  • 対策:必要に応じてスタチンは漸減中止、あるいは他のスタチン、特に水溶性スタチンへの切り替えを考慮すべきである。なお、発症頻度が極めて低いことから、スタチン服用者全員に対し神経心理検査を行う必要性は乏しいと思 われる
5.3.2 うつ
  • 発生機序:低コレステロール血症が脳内のコレステロールの低下をきたし、中枢神経の神経伝達機能に悪影響を及ぼし、 セロトニン活性を低下させうつに至る、という仮説
  • システマティックレビュー:スタチン投与はうつを予防する(オッ ズ比0.68;95%信頼区間 0.52~0.89)
5.4 耐糖能への影響
スタチンが 糖尿病の新規発症を増加する
脂肪肝、高尿酸血症が糖尿病発症の危険因子となる
スタチンによる糖尿病の新規発症の増加は用量依存性であり、高強度スタチンほど増加しやすいことが示唆されている
スタチンが糖尿病の新規発症を増やすことは明らかであるが、その絶対リスクは低い( 5 年間でプラセボ1.2%、 ロスバスタチン1.5%)。また、13のランダム比較試験 のメタ解析によると255人を 4 年間スタチンで治療すると、糖尿病の新規発症は 1 人であるが、5.4人の心血管イベントの発症を予防することができる
5.5 腎障害患者に対するスタチン投与について
  • 慢性腎臓病(CKD)が動脈硬化性心血管病のリスクとして重要視されており、腎障害患者にスタチン投与を検討する機会が増加している。
  • スタチン投与に伴 う有害事象は、腎機能低下に伴って増加することが知られている
→腎障害患者に対するスタチン投与時に、最大用量のスタチン投与は推奨さ れない